artscapeレビュー

新津保建秀「\風景+」

2013年02月15日号

会期:2012/12/18~2013/01/14

ヒルサイドフォーラム[東京都]

新津保建秀の「\風景+」は、現代の「風景」のあり方をさまざまな観点から問い直す意欲的な展示である。日本の「風景写真」は美しい自然の景観を愛でる「ネイチャー・フォト」から、1980〜90年代以降の、小林のりお、柴田敏雄、畠山直哉、松江泰治らによる自然と人工物、人間と社会との関係性を検証する批評的なアプローチを経て大きく飛躍した。だが1990年代半ば以降のデジタル化、インターネット環境の成立に即した「風景写真」の方向性は、まだ明確には見えてきていない。新津保の展示は、そのスタートラインを引こうとする試みと言える。
たとえば、風景を撮影した画像をパソコン上で立ち上げるとき、データが重たいとその一部だけが表示され、残りはフラットなグレーな画面になってしまうことがある。時間がたつとグレーの部分が少しずつ小さくなり、画像全体があらわれてくる。あるいは複数の画像を連続的に立ち上げると、端の部分が重なりあって、そこに断層面を思わせる不思議なパターンが見えてくる。パソコンを介してあらわれてくる、そのような視覚的経験も、断片化し、記号化した現代的な「風景」の受容、消費のあり方を示す指標となる。新津保の今回の展示では、パソコン上のデジタル画像を、自然や都市の環境と意図的に混同、併置する、多彩な実験が展開されていた。
もうひとつ興味深いのは、あえて特定の場所にこだわり(たとえば稲城市、あきる野市、代官山)、その土地にまつわりつく情報(たとえば不審者目撃情報)をある種の「マップ」として視覚化しようとする試みだ。こちらはまだ、写真作品としては試作の段階に留まっているように見えるが、さらなる可能性を秘めた領域と言える。いずれにしても、デジタル環境における「風景」を超えた、あるいは「風景」を異化した「\風景+」には、もっと多くの写真家たちが関心を寄せてもよいだろう。なお、角川書店から同名の写真集も刊行されている。

2013/01/14(月)(飯沢耕太郎)

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