artscapeレビュー
巖谷國士/桑原弘明「窓からの眺め」
2012年11月15日号
会期:2012/10/06~2012/10/28
LIBRAIRIE6[東京都]
フランス文学者でシュルレアリスムの研究家としても知られる巖谷國士にとって、写真は余技に思える。だが個展も5回目ということで、もはやその域は超えていると言うべきだろう。というより、巌谷のような多彩な領域に関心のある作家にとっては、写真もシリアスな仕事として取り組んでいることが、作品から充分に伝わってきた。今回のスコープ・オブジェ作家の桑原弘明との二人展を見ると、何をどのように撮るのかという写真家としての「眼」が、揺るぎなくでき上がっているのがわかる。
展示では、1990年代以降に撮影された旧作と、今年になって集中して撮影したという新作が両方並んでいた。どちらかと言えばパリ、ヴェネツィア、パレルモ、ジェノバ、プザンソンなど、ヨーロッパ各地を旅しながら撮影した新作の方に、彼ののびやかな心の動きがそのまま写り込んでいるような楽しさを感じた。写っているのはタイトル通り「窓からの眺め」が多い。丸、あるいは四角で区切られた眺めが、繊細な手つきで、あたかも箱の中に封じ込められた小宇宙のように捉えられている。特に桑原がセレクトしたという、ポストカードほどの大きさの小さな写真がまとめて並んでいる一角は、互いの作品が響きあって心地よいハーモニーを奏でていた。
風景やインテリアの写真が多いのだが、2点だけ街頭のスナップショットがあって、それがまたよかった。旧作ではあるが、特にバイヨンヌで1990年代に撮影された「縄跳びの少女」の写真が素晴らしい。二人の少女たちがつくる縄跳びの輪の中に、ふっと誘い込まれそうな気がしてくる。巖谷にはぜひ写真の仕事を続けていってほしいものだ。
2012/10/19(金)(飯沢耕太郎)