artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
稲垣遊 ほとり
会期:2012/07/31~2012/09/09
深川番所ギャラリー[東京都]
次に訪れたのは、隅田川のほとりの神社の脇に建つ民家を改造した深川番所ギャラリー。地震が来ればひとたまりもなさそうなボロい外観だが、建築事務所が運営しているだけに補強はしっかりしているようだ。展覧会はこの場所にちなんでか、川のほとりを撮ったモノクロ写真……と思ったら絵だった。日本画科出身のせいか水墨画を思わせるユニークな作品。これはもっと伸びるかも。このあと丸八倉庫の小山登美夫ギャラリー(ライアン・マッギンレー展)、タカイシイギャラリー(榎倉康二展)、シュウゴアーツ(池田光弘展)などを回ったが、集団で訪れたので集中できなかったせいか、それとも明日からのヨーロッパ旅行のことで頭がいっぱいだったからなのか、作品のことをあまり覚えていない。
2012/09/08(土)(村田真)
飯塚景+姜善英+宮腰梨実「あの感覚を眺める」

会期:2012/08/25~2012/09/08
SAKuRA GALLERY[東京都]
今日は江東区が主催する現代美術講座のアートウォークの日。森下文化センターで30分ほどレクチャーした後、深川に点在するギャラリーに向けて炎天下を出発。受講者には高齢の方も少なくないので無事帰還したい。さて、深川のギャラリーといえば小山登美夫らが入ってる丸八倉庫ビルくらいしか知らなかったが、意外に点在しているもんだ。まずは清澄通りを少し入ったサクラギャラリー。ちょうど美大を卒業したての若い作家展の最終日だった。3人のうち寒天の実かイクラのような赤い粒々ばかりを描く姜善英は、この春BankARTでやった多摩美の院の修了制作展に出していたので覚えている。早くも画廊からオファーか。でもすぐ売れるわけではないけどね。
2012/09/08(土)(村田真)
田中真吾 繋ぎとめる/零れおちる

会期:2012/09/01~2012/09/30
eN arts[京都府]
炎を用い、その痕跡や焦げ跡を作品化する田中真吾。本展では展示室の壁面を覆う巨大な平面作品と、壁に紙をピン止めして燃やした痕跡を見せる作品、煤で描いたドローイングが出品された。会場を一見した人は、壁を焦がすことに同意したギャラリーの勇気に感心するだろう。しかし実際は、スタジオで画廊と同寸の壁面を構築し、制作後に解体して持ち込んだものである。壁画ばりの巨大な平面作品をよく見ると、画面のあちこちに胡粉の白い線が入っている。これはいままでの彼の作品にはなかった手法だ。胡粉の使用によりいままでより自由に造形が行なえるが、作品の純粋性は若干失われてしまったとも言える。新たな領域に踏み込んだ田中の、今後の展開が楽しみだ。
2012/09/08(土)(小吹隆文)
津田直「Storm Last Night/ Earth Rain House」

会期:2012/08/20~2012/09/25
CANON GALLERY S[東京都]
津田直の二つのシリーズのカップリング展示である。すでに赤々舎から写真集としても刊行されている「Storm Last Night」(2009~)では、アイルランドのディングル半島やアラン島などを、6×17センチというかなり横長のフォーマットで撮影している。2012年から撮影が開始された「Earth Rain House」では、スコットランド北方のオークニー諸島、シェトランド諸島、アウター・ヘブリディーズ諸島などを船や小型飛行機で回って撮影した。どちらも中心的な主題となっているのは、キリスト教伝来以前の先住民族たちが残した古代遺跡とその周辺の景観である。
津田直の写真を見ていつも感じるのは、そこに写っている風景があたかも彼によって呼び込まれているように見えるということだ。光や影、靄や霧、気流なども含めて、彼がこう撮ろう、こう撮りたいと思っている方向へと、風景が移ろいつつ形をとっていく。優れた写真家の仕事には、いつでも偶然が必然へと転化していくということがつきまとうのだが、津田の写真ではその頻度が異常に高い。今回の二つのシリーズに共通しているのは「古代人は何を思想したか」というという問いかけだが、まぎれもなくその答えとなるような風景を確実に捉え切っている。触れる物すべてが黄金に変わってしまうマイダス王ではないが、津田のカメラの前の風景が、そのまま古代人の見た眺めへと変容していくように思えてくるのだ。
もうひとつ、津田は展示のインスタレーションが実にうまい。会場になった品川のCANON GALLERY Sには何度も行っているのだが、今回まったく別なギャラリーのように感じて驚いた。スポット照明を効果的に使って観客を誘導し、最後にパネルで区切られた小部屋へと導いていく。そこには古代人の住居の内部を撮影した写真が並んでいるのだ。会場のレイアウトや写真の配置も、津田の作品世界を味わう時の、重要なファクターになることは間違いないだろう。
2012/09/07(金)(飯沢耕太郎)
第97回二科展

会期:2012/09/05~2012/09/17
国立新美術館[東京都]
夏も終わり、芸術の秋は二科展とともにやってくる……なーんてね。なぜぼくは毎年のように二科展に足を運ぶのか。はっきりいって最初は嘲笑うためだった。見なければ嘲笑えないもんね。ところが最近は二科展を見ながら新しい才能、未知の表現、現代美術にはない魅力を探している自分に気づく。そして、恐ろしいことに、自分も出してやろうかと思ったりもする。ミイラ獲りがミイラになりかねない。さて今年も数百点の駄作の山のなかから、傑作とはいえないまでもひと味違った絵をピックアップしてみよう。二科展に限らず公募団体展ではどれもこれも似たようなサイズのキャンヴァスに同じような額縁をつけて出品するものだが、ひとり長谷川正義は8号程度の小品を出していた。これは逆に目立つ。山岡明日香は既製のキャンヴァスではなく厚さ10センチほどの額縁なしの絵を出品。これも右へならえばかりのキャンヴァス画のなかで文字どおり突出している。桝井絢美は黒い画面に白いチョークみたいな線でドローイングを描いている。これもよく入選したもんだと感心する。できれば本物の黒板にチョークで描いてほしかったなあ。会期中チョークを置いといて観客が自由に描けるようにすれば画期的だし、終われば消して翌年また描き直せば安上がりだし。二科展には意外な発想源がころがっている。
2012/09/07(金)(村田真)


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