artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

鈴木貴博「生きろ」

会期:2012/08/27~2012/09/01

ギャラリー現[東京都]

会場の床一面に広がっていたのは、規則正しく配置された和紙の束。表面には「生きろ」という文字が連続して書かれている。会場の一角には机に向かった鈴木本人が筆を振るっているから、展示物の一部をライブで制作しているのだろう。和紙の塊が、「生きろ」というメッセージにかけた鈴木の熱意を如実に物語っている。ただ、鈴木の作品がおもしろいのは、その和紙の束の物量によってメッセージを効果的に伝えるというより、むしろ文字を連続して書き続けるうちに、次第に文字の外形が崩れていき、その独特の文字の形態が意味伝達の機能を上回っているように見受けられるところにある。「生きろ」と読めなくはないが、一見すると象形文字のようにも見える。意味を伝達する機能が損なわれている点では、文字としては失格なのかもしれない。しかし、その崩れた文字のかたちが、逆に「生きろ」という意味を伝達することへの並々ならぬ気迫を表わしていると考えられなくもない。反復的なパフォーマンスが示しているのは、そのようにして文字の外形を内側から食い破るほど遮二無二込められた鈴木の思いにほかならない。

2012/08/31(金)(福住廉)

鈴木昭男+宮北裕美ライブパフォーマンス

会期:2012/08/31~2012/09/01

島根県隠岐郡西ノ島町焼火神社、国賀浜[島根県]

「隠岐しおさい芸術祭」にイベントの企画で参加し、サウンドアーティストの鈴木昭男さんとコンテンポラリー・ダンサーの宮北裕美さんによるライブパフォーマンスを2日間で合計三回行なった。8月31日、ライブの第一回目は、焼火山にある焼火神社が会場。神社の拝殿での鈴木さんの石笛のソロ演奏のあと、社務所の一間でふたりのセッションが行なわれた。夕方は、国賀浜に会場を移してこの日二回目のライブ。国賀浜は夕日の眺めも素晴らしい場所。どちらの回も、素晴らしかった。鈴木さんのアナラポスの響きは言うまでもないのだが、海の展望、夕焼けを背景に踊る宮北さんの動作が美しく、それらの光景も記憶に残る。ただ、風が強くなり、昼間と打って変わって肌寒くなったうえ、空が雲に覆われてしまったのが少し残念。もし晴れていたら満月も見えるはずだった。


左=焼火神社での鈴木昭男+宮北裕美のセッションライブ。本殿での第1部は石笛の演奏
右=鈴木昭男+宮北裕美の焼火神社でのセッションライブ。社務所での第2部の様子



この日2回目の鈴木昭男+宮北裕美のライブは夕日が沈む時間に合わせて国賀浜で開催

2012/08/31(金)(酒井千穂)

隠岐しおさい芸術祭

会期:2012/08/21~2012/09/16

島根県隠岐郡西ノ島町全体[島根県]

公開制作「石田真也+吉田雷太による漂着物アート」

会期=2012/08/21~2012/09/16
西ノ島町国賀浜 レストハウス跡

公開制作「國府理による、西ノ島にてKOKUFUMOBIL」

会期=2012/08/17~2012/09/16
西ノ島町波止「清美苑」内特設テント

展覧会「様々な作家による、隠岐・西ノ島」

会期=2012/08/27~2012/09/16
西ノ島町別府港周辺

古事記編纂1300年を記念した島根県の観光振興プロジェクトにあわせ、隠岐エリア(隠岐の島町=島後、西ノ島町=西ノ島、海士町=中ノ島、知夫村=知夫里島の全4島)で7月下旬から「隠岐ジオパークフェスティバル」というイベントが開催されている。主催は島根県と隠岐観光協会。4島のひとつ、西ノ島町で8月21日から始まった「隠岐しおさい芸術祭」にはおもに立体や彫刻作品を手がけるアーティストたちが多く参加し、会期中、島内各所で公開制作や展示を行なっていた。ここに私も企画で参加。美術家の井上信太によるワークショップ、サウンドアーティストの鈴木昭男とコンテンポラリーダンサーの宮北裕美によるセッション・ライブの開催にあわせて8月29日から5日間西ノ島に滞在し、アーティスト達の作品展示や公開制作の現場を見て回った。焼火神社では、田中智子が乾漆による作品を発表。若手作家の石田真也と吉田雷太は、8月初旬からから西ノ島に滞在し、島に漂着した漂流物を材料に国賀にある旧レストハウス跡の空間をまるごと作品化するプロジェクトに取り組んでいた。ゴミ処理施設「清美苑」内の敷地をスタジオに作品を制作していたのは、同時期に京都芸術センターでも個展を開催中(7/28~9/9)だった國府理、鉄をおもな素材に金属彫刻を制作している藤原昌樹。島内にあった廃船、廃車を素材に、そのとき國府が制作中であった《KOKUFU MOBIL》は、現在「こどもの国」と呼ばれる広場に展示されている。また、先の京都芸術センターでの個展に出品された國府の作品も同広場に展示されることになった。別府港の近くでは、実際に座ってみることのできる《MENTAL CHAIR》のシリーズなどを発表している岩野勝人の作品が設置されていた。この芸術祭は大規模なものではなく、正直なところ、島内では車がないと各会場間の移動がとにかくたいへん。島民にはどのくらい認知されているのかも気になった。しかし、焼火神社や国賀浜など、作品発表の舞台となっていた海や山の大自然の景色は実に素晴らしく、参加アーティストたちもユニーク。特に、いわゆる「ゴミ」となって浜辺に流れ着いた漂着物だけで廃墟を作品化していた石田真也と吉田雷太からは頻繁に訪ねてきてくれるようになった島の人々との交流のエピソードも聞くことができ、アーティストや作品がもたらすさまざまな可能性を感じた。隠岐は「日本ジオパーク」に認定されているが、それにもふさわしい内容の芸術祭であったと思う。新たな展開とともに次回に繋がっていくことを期待している。


左=「石田真也+吉田雷太による漂着物アート」の制作現場、国賀浜のレストハウス跡。島の海辺で拾い集めた漂着物や廃材の山
右=石田真也と吉田雷太が公開制作を行なっている旧レストハウス内。会期最終日まで公開制作が続く



左=8月30日の「巨大シャボン玉を西ノ島の風に飛ばそう!」ワークショップの様子
右=焼火神社本殿前に展示されていた岩野勝人《FUGE FOOT》(現在は、別府港前の隠岐酒造(株)安藤本店横日本庭園エントランスに展示。9月16日まで)



焼火神社。拝殿には田中智子作品《対になるもの》



参加者が制作した作品を旧美田小学校の建物前に設置。隠岐しおさい芸術祭期間中展示されている。國府理が公開制作しているゴミ処理施設「清美苑」



左=別府港前の広場。岩野勝人《MENTAL CHAIR X》
右=別府港フェリー乗り場2階の観光センター内の展示



西ノ島町浦郷バス停。五右衛門風呂を用いイカをモチーフにした藤原昌樹のオブジェ。ほかにも鉄を素材にした作品が西ノ島町のバス停数カ所に設置されている

2012/08/30(木)~2012/09/02(日)(酒井千穂)

「東京都美術館ものがたり」展

会期:2012/07/15~2012/09/30

東京都美術館[東京都]

都美術館の誕生から現在まで86年の歴史を振り返るリニューアルオープン企画。大正時代、美術館の建設資金100万円(現在の32億円相当)を東京府にポンと寄付した九州の実業家・佐藤慶太郎から、都美術館を方向づけた東京美術学校校長の正木直彦、旧館の設計者・岡田信一郎、新館の設計者・前川國男らが紹介され、図面やマケットも並んでいる。旧館を知る者(50歳以上)にはなつかしい展示だ。かつてこの美術館に飾られた佐伯祐三、岡本太郎、赤瀬川原平、舟越桂、日比野克彦ら有名美術家の作品も展示されている。あれ?南嶌金平ってだれだろう、絵も地味だし……と思ったら、美術評論家の南嶌宏氏の父上で、長年小学校の教師をしながら都美術館の公募展に出品し続けた「無名の一画家」だという。都美術館を支えたのは幾多の公募展であり、公募展を支えたのはおびただしい数の無名のアマチュア画家だった。南嶌はその代表として晴れて出品となったわけだ。

2012/08/29(水)(村田真)

マウリッツハイス美術館展──オランダ・フランドル絵画の至宝

会期:2012/06/30~2012/09/17

東京都美術館[東京都]

本日のねらいはもちろんフェルメールの《真珠の耳飾りの少女》。これだけを見るために朝10時半ごろ行ったら、すでに入館まで20分待ちの行列。入ってからも《真珠の耳飾り》の前には長い行列ができていて、ご対面まで30分待ち。こうして1時間近く待ったあげく間近に見られたのは10秒足らず。でも額縁までしっかり見てきた。帰るころには入館までの行列がほとんどなくなっているではないか。早けりゃすいてるってわけじゃないんだね。

2012/08/29(水)(村田真)

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