artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
アートピクニックVol.2 呼吸する美術 breathing art

会期:2012/06/09~2012/07/29
芦屋市立美術博物館[兵庫県]
日常生活にあふれている「美術」との出会いをテーマにした展覧会で、チラシには「現代美術の作家、美術教育を受けていない、または障がいがあるとされる表現者など様々なフィールドで活躍する作家11名の作品を紹介」と記されていた。アール・ブリュット(アウトサイダー・アート)とされる作品を多く展示紹介した内容。エントランスホールに入ると、まず美術家の山村幸則の映像作品《芦屋体操第一》に迎えられる。山村親子が全身タイツといういでたちで、芦屋の市木・クロマツに扮し緑色のポンポンを手に体操しているのだが、山村が芦屋の名所として選んだ十カ所を背景にしたこの映像の前で一緒に体操すると、この体操に因んだ絵はがき作品《芦屋深呼吸十景》のなかから好きなものがもらえるというオマケもあった。堀尾貞治が“1日1色”として長年さまざまなモノに色を塗ってきた《あたりまえのこと(色塗り)》111点が壁面いっぱいに展示された2階スペースは、窓ガラスに描かれた白いドローイング《あたりまえのこと(その場所で)》もダイナミックで館の外からも目立って見えた。展示室では絵の具のドットがキャンバスを埋め尽くした森本絵利の作品、拾った人形などで作ったカラフルな帽子をかぶって街を歩く“帽子おじさん”こと宮間英次郎が神戸を歩く記録映像、一見模様のような形状をB5判の紙に鉛筆で書き込んだ戸來(へらい)貴規の「日記」など、総数は多くはないが、それぞれの人たちの生活や自然な呼吸のリズムが伝わってくるような心地よさを感じる内容だった。

芦屋市立美術博物館の窓ガラスにドローイングした堀尾貞治《あたりまえのこと(その場で)》が外からも見える
2012/07/24(火)(酒井千穂)
松本竣介 展

会期:2012/06/09~2012/07/22
神奈川県立近代美術館 葉山[神奈川県]
松本竣介の大規模な回顧展。36歳で夭逝したため作品数はそれほど多くはないが、それでも二科展に入選した《建物》のほか、《立てる像》《Y氏の橋》といった代表的な油彩画、おびただしい素描、さらにはみずから編集した雑誌『雑記帳』から個人的な書簡まで、松本の創作活動の全貌を一望できる充実した展示だった。松本竣介といえば、大正から昭和にかけての都市風景を描いた詩情性の高い画風で知られているが、清冽な色と繊細な線で構成された画面には、たしかに詩的な味わいが満ちている。なかでも空襲で一面焼け野原となってしまった東京を激烈な赤で描いた作品には、空襲の炎のイメージを焦土に重ね合わせたようで、その重複から戦火への悔恨と鎮魂の念が滲み出てくるかのようだ。かつてとはちがった戦後(あるいは戦争)が始まってしまったいま、松本竣介とは別のかたちで同時代を表現する絵画は登場するのだろうか。
2012/07/22(日)(福住廉)
ZINE/ BOOK GALLERY 2012

会期:2012/07/01~2012/08/31
宝塚メディア図書館[兵庫県]
昨年からスタートした手づくり、あるいは自費出版の写真集を一堂に会する「ZINE/ BOOK GALLERY」が、今年も兵庫県宝塚市の宝塚メディア図書館で開催された。今年は応募総数123点、そのうち66点が入選作品として、さらに昨年の応募者を中心に28点が招待作品として会場内に展示された。昨年にくらべると、かなりクオリティが高くなっている。また、そのうち44点は実際に会場内で販売された。ZINEの愉しみのひとつは好きな本を購入できるということなので、これもとてもよかったと思う。
7月22日には、飯沢耕太郎、綾智佳(The Third Gallery Ayaディレクター)、堺達朗(Boos DANTELION代表)、寳野智之(MARUZEN & ジュンク堂梅田店芸術書担当)を審査員として、出品作からグランプリと個人賞を決める公開審査・公表会も開催された。ちなみにグランプリに選ばれたのは京都造形芸術大学在学中の22歳の若い写真家、石田浩亮の『ZINE(題名なし)』。
友人たちのカラフルなポートレートのシリーズだが、勢いのあるカメラワークと、テンポよく写真を並べていくレイアウトのうまさが高く評価された。僕が個人賞(飯沢賞)に選んだ、くたみあきら『ソファを運ぶ』もそうなのだが、ZINEにはやはり一般的な写真集とは違う独特の表現領域があると思う。思いつきをどんどん形にしていくスピード感、用紙の選択やデザイン、レイアウトなどの自由度の高さなど、ZINEならではの面白さをもっと大胆に追求していってほしい。こういうイベントの積み重ねから、いい作家が出てきてほしいものだ。
2012/07/22(日)(飯沢耕太郎)
中谷由紀「むずむずする庭」

会期:2012/07/16~2012/07/29
日本茶カフェ 一日(ひとひ)[兵庫県]
中谷由紀がJR摂津本山駅近くの日本茶カフェで作品を展示していた。Tシャツ生地に描いている絵画が中心。どれもパネルには貼っていない。染色のような滲みや色あいも綺麗。松、毛虫、芋虫(チョウやガの幼虫)、水やりをする女性など、何気ない日常のものごとから生まれたモチーフは相変わらずユーモラスで、ほのぼのとしているのか不気味なのか微妙だが、物語の一場面のように愉快でリズムのある画面が面白い。発表の機会も多い方ではなく、あまり目立つ活動をしている作家ではないが、今後の活躍も楽しみにしている。

左=中谷由紀《家の裏手でのびる》
右=同《元気そうな近所の人》
2012/07/22(日)(酒井千穂)
ひっくりかえる展

会期:2012/04/01~2012/07/29
ワタリウム美術館[東京都]
Chim↑Pomはいつの頃からか二重の路線を歩むようになったように思う。ひとつは、彼らの出自であるストリートの路線であり、もうひとつはアートという既定路線だ。この2つを、どちらかに限定するのではなく、絶妙なバランス感覚を保ちながら、時機と場所に応じて巧妙に使い分ける方法が、近年のChim↑Pomを特徴づけている。
だが、Chim↑Pomがキュレイションを手がけた本展を見て思い至ったのは、あまりにもアートの路線に重心を置いたがゆえに、この二重戦略が破綻しているのではないかということだ。じっさい、本展におけるChim↑Pomは、過剰とも思えるほど、アートを強く志向していた。美術館の内壁を燃やす作品は、たしかに野蛮な魅力があるにはある。けれども、そのアクションは明らかにアートの人びとに向けられており、その過激さは美術館という制度を、肯定するにせよ否定するにせよ、共有していなければ到底伝わらないものだ。
また、美術館内のガラスを矢印に切り抜き、それを床面に突き刺した作品も、いかにも中途半端なコンセプチュアルアートのようで、説明的・図解的ではあるが、それ以上でもそれ以下でもない。下を向いた矢印は、いつでもどこでも何があろうと屹立する矢印がモットーであるChim↑Pomの自己否定なのだろうかと、思わず訝ってしまったほどだ。《スーパーラット》が示していたようなストリートの暴力的で野蛮な魅力は、少なくとも本展で発表された新作には微塵も感じられなかった。
こうした見方は、あるいはChim↑Pomの作品が、彼らによってキュレイションされた他のアーティストたちの作品と並置されていたことに由来しているのかもしれない。ロシアのヴォイナにしろ、カナダのアドバスターズにしろ、ストリートでしぶとく、たくましく、しかし軽やかに活動しているのであり、そこにはアートへの欲望など二の次だったはずだ。そして限界芸人のじゃましマンにいたっては、アートなどには一切眼もくれず、ひたすら自分の潜入芸を追究しているのであって、その圧倒的な芸の力を前にして、Chim↑Pomの作品のなんと弱々しく、大人しいことだろう。その「おもしろさ」の差は歴然としていた。
かつてChim↑Pomの卯城竜太は、街中で得体の知れないものに出会ったとき、それがアートであったことを知った瞬間の落胆を語っていた。いま、Chim↑Pomが歩もうしている道の先には、卯城が「なんだアートか」と呟いた当のアートが待ち構えているのではないか。そうではなく、ストリートとアートのあいだを突き進むことによって、未知なる「アート」を手に入れることこそ、Chim↑Pomの真髄だったはずだ。Chim↑Pomこそ、もういちど、ひっくりかえれ!
2012/07/21(土)(福住廉)


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