artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
Art Court Frontier 2012 #10

会期:2012/07/13~2012/08/11
ART COURT Gallery[大阪府]
アーティスト、キュレーター、コレクター、ジャーナリストなどの美術に関わる人々が推薦者となり、出展作家を1名ずつ推挙してタッグを組む企画のグループ展「Art Court Frontier」は、2003年に始まったアニュアルで今回の開催で10回目。おもに関西で活躍する若手作家を中心に作品を紹介している。今年出展していたのは、アサダワタル、神馬啓佑、國政聡志、桜井類、高田智美、田辺由美子、花岡伸宏、東明、藤部恭代、真坂亮平、marianeの11名。西宮市大谷記念美術館学芸員の池上司氏が推薦する田辺由美子は、食した後に洗浄し、脱脂して真っ白に塗った魚の骨を用いたインスタレーションを発表。無機質なイメージに仕上げられた魚の骨や煮干しの頭部がテーブルやフレームにシンメトリックに構成されていたのだが、一見、骨格標本や組み立て前のプラモデルのようにも見えるそれらは、パーツの形状と白という色のみの構成による抽象的な調和が文様のようにも見えて美しいものだった。時代とともに消失し廃墟と化した妓楼など全国の旧赤線区域を取材し、そこで生きた女性たちの存在を写真や椅子、封筒等のインスタレーションによって表現した高田智美は、毎日新聞記者の手塚さや香氏による推薦。街の景観や人々の記憶から消えかかっている歴史事実をジャーナリスティックな視点で扱っているが、《たくさんの手紙たち──マグダラからマグダラへ》というタイトルがイメージを膨らませる作品。今展ではじめて知る作家もいたのだが、絵画、立体、インスタレーション、彫刻、と表現のジャンルもバラエティに富んだ会場は、他の作品もそれぞれにユニーク。見応えのある内容で全体に楽しめた。

展示風景。奥=高田智美《たくさんの手紙たち──マグダラからマグダラへ》
手前=田辺由美子《afterlife on the table》

田辺由美子《afterlife on the table》
花岡伸宏作品。左=《無題》、中=《入念な押し出し(布)》、右=《海女の集合体は木の丸棒を持ち上げる》
2012/08/10(金)(酒井千穂)
森村誠 Daily Hope

会期:2012/07/13~2012/08/12
Gallery OUT of PLACE[奈良県]
英字新聞の紙面から、H、O、P、E以外の文字を修正液で塗りつぶした平面作品を、画廊の壁面を埋め尽くすように展示。別室では、同じく英字新聞の紙面をスキャンした画像を高速のスライドショーで上映し、「HOPE」の単語だけが一カ所に留まり続ける映像作品を出品した。点在する無機質な活字が示すかすかなHOPE=希望。そこには、どのような形であれ希望を求めずにはいられない人間の本性が表現されている。同時に、作品から滲み出る膨大な時間と作業から「徒労」の二文字を連想した。
2012/08/09(木)(小吹隆文)
池田みどり「I Love You, I Hate Youーすきよ、きらいよー」

会期:2012/07/20~2012/08/26
NADiff a/p/a/r/t[東京都]
アーティストの池田晶紀と三田村光土里によるユニット「池田みどり」。その新作の「I Love You, I Hate Youーすきよ、きらいよー」は、なかなか面白いパフォーマンス作品に仕上がっていた。
舞台になっているのは、東京・板橋区にある「50年以上、精密板金業を営む町工場」である。そのどこか既視感のある「映画のセット」のような空間で、男性と女性とが「揺れ動く男女の人生の悲喜こもごもが交差する」場面を演じる。「春のおとずれ」「つのる想い」「素直になれなくて」「心の嵐」「私は離れない」などと名づけられたシークエンスは、やや大仰な振付けのミュージカル調に仕立てられているが、その場面設定や二人の表情には切実なリアリティがある。彼らの巧みな演技力と的確なカメラワークが、パフォーマンスを単なる絵空事ではない、誰もが身に覚えがあるような場面として成立させているのではないかと思う。
この作品が演劇や映画ではなく、写真のかたちで発表されていることは、かなり重要なファクターなのではないだろうか。写真は前後の場面をカットして、ある特定の身振りを強調して提示することができる。そのことによって「すき」「きらい」という個人的なエモーションが、より普遍的な、抽象化されたイメージとして再構築されるのだ。「池田みどり」の活動が今後どのようなかたちで展開されていくかはわからないが、いろいろな可能性がありそうだ。この「Untitled Film Stills」のスタイルを、さらに推し進めていってほしいものだ。
2012/08/08(水)(飯沢耕太郎)
仙台コレクション写真展 vol.16

会期:2012/08/07~2012/08/12
SARP(仙台アーティストランプレイス)[宮城県]
仙台在住の写真家、伊藤トオルを中心にして大内四郎、松谷亘、小滝誠、斎藤等、片倉英一、安倍玲子、佐々木隆二の8人によって2001年から開始されたのが「仙台コレクション」。仙台市内の建物、橋、道路などの「日々失われていく無名の風景」を区域ごとに担当を決めて、できうる限り正確に撮影し、プリントに残そうというユニークなプロジェクトである。1万枚を目標に開始された「コレクション」の点数は6,000枚を超え、まだ道のりは遠いが、ようやくゴールがおぼろげに見えてきた。今回のSARPでの展示は、その16回目の中間報告ということになる。
会場には6切りサイズのプリントが22点、やや大きめのA3サイズのプリントが8点並んでいた。写真の選択も、プリントの質もきちんと整えられているので、「仙台コレクション」の全体像を知る者にとってはこれくらいの数でちょうどいいかもしれない。だが、そうではない観客にはその意図がややわかりにくいだろう。やはりもう少し展示の点数を増やすとともに、プロジェクトの概要についての丁寧な解説もほしかった。それと、どうやらこの種のタイポロジー的な作品の場合、プリントのサイズはあまり大きくない方がいいように思える。小さめのサイズの方が、視点が拡散せず、写真の細部まで把握しやすいからだ。
「仙台コレクション」の営みは、昨年の東日本大震災によってさらに重要度を増しつつある。すでに都市開発などによって、2000年代初頭に撮影された建物のうちかなりの数が失われてしまった。震災はまさにその状況を加速させていったのだ。むろんその進行に歯止めをかけることはできない。だが撮影しておくことで、記憶を喚起する手がかりを未来に向けて残すことは可能だ。目標の1万枚に達したとき、どんな眺めが見えてくるのかが今から楽しみだ。
2012/08/07(火)(飯沢耕太郎)
与えられた形象──辰野登恵子/柴田敏雄

会期:2012/08/08~2012/10/22
国立新美術館[東京都]
辰野と柴田? どういう組み合わせだろうと不思議に思ったが、東京藝大油画科の同級生と聞いて少し納得。でも同窓会じゃあるまいし、ただそれだけの縁で組ませたとしたら企画力ゼロだが、展覧会を見てなるほどと感心した。タイトルどおり、たしかにふたりは「与えられた形象」で共通しているのだ。辰野は70年代にグリッドやストライプのミニマルな平面でデビューしたが、80年ごろから筆触もあらわな表現主義的絵画に移行。次第に鮮やかな色彩の装飾パターンが表われ、90年ごろから立体感や陰影のある形態が見られるようになった。このモコモコっとしたりカクカクっとした抽象とも具象ともいいがたいイリュージョナルな形態は、もう20年以上も見続けているはずなのにいまだぼくのなかでは抵抗感がある。で、このモコモコカクカクの立体感が、まさに柴田の写真に共通する形態だったのだ。柴田の写真に感じられるのは、ダムや擁壁のような凹凸のあるヴォリューム感を使っての抽象志向であり、作為なき作為ともいうべき土木造形への偏愛だ。その作品に初めて接したときに生じた“萌え”のような感覚は、辰野作品に感じる抵抗感と対照的だが、それはおそらく写真と絵画というメディアの違いに由来するものかもしれない。この両者のメディアを超えた共通性は偶然のものとは思えないが、それが彼らの世代特有のものなのか、それとも藝大での彼らの活動に由来するものなのか、判断がつきかねるところ。
2012/08/07(火)(村田真)


![DNP Museum Information Japanartscape[アートスケープ] since 1995 Run by DNP Art Communications](/archive/common/image/head_logo_sp.gif)