2021年12月01日号
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artscapeレビュー

ひっくりかえる展

2012年09月01日号

会期:2012/04/01~2012/07/29

ワタリウム美術館[東京都]

Chim↑Pomはいつの頃からか二重の路線を歩むようになったように思う。ひとつは、彼らの出自であるストリートの路線であり、もうひとつはアートという既定路線だ。この2つを、どちらかに限定するのではなく、絶妙なバランス感覚を保ちながら、時機と場所に応じて巧妙に使い分ける方法が、近年のChim↑Pomを特徴づけている。
だが、Chim↑Pomがキュレイションを手がけた本展を見て思い至ったのは、あまりにもアートの路線に重心を置いたがゆえに、この二重戦略が破綻しているのではないかということだ。じっさい、本展におけるChim↑Pomは、過剰とも思えるほど、アートを強く志向していた。美術館の内壁を燃やす作品は、たしかに野蛮な魅力があるにはある。けれども、そのアクションは明らかにアートの人びとに向けられており、その過激さは美術館という制度を、肯定するにせよ否定するにせよ、共有していなければ到底伝わらないものだ。
また、美術館内のガラスを矢印に切り抜き、それを床面に突き刺した作品も、いかにも中途半端なコンセプチュアルアートのようで、説明的・図解的ではあるが、それ以上でもそれ以下でもない。下を向いた矢印は、いつでもどこでも何があろうと屹立する矢印がモットーであるChim↑Pomの自己否定なのだろうかと、思わず訝ってしまったほどだ。《スーパーラット》が示していたようなストリートの暴力的で野蛮な魅力は、少なくとも本展で発表された新作には微塵も感じられなかった。
こうした見方は、あるいはChim↑Pomの作品が、彼らによってキュレイションされた他のアーティストたちの作品と並置されていたことに由来しているのかもしれない。ロシアのヴォイナにしろ、カナダのアドバスターズにしろ、ストリートでしぶとく、たくましく、しかし軽やかに活動しているのであり、そこにはアートへの欲望など二の次だったはずだ。そして限界芸人のじゃましマンにいたっては、アートなどには一切眼もくれず、ひたすら自分の潜入芸を追究しているのであって、その圧倒的な芸の力を前にして、Chim↑Pomの作品のなんと弱々しく、大人しいことだろう。その「おもしろさ」の差は歴然としていた。
かつてChim↑Pomの卯城竜太は、街中で得体の知れないものに出会ったとき、それがアートであったことを知った瞬間の落胆を語っていた。いま、Chim↑Pomが歩もうしている道の先には、卯城が「なんだアートか」と呟いた当のアートが待ち構えているのではないか。そうではなく、ストリートとアートのあいだを突き進むことによって、未知なる「アート」を手に入れることこそ、Chim↑Pomの真髄だったはずだ。Chim↑Pomこそ、もういちど、ひっくりかえれ!

2012/07/21(土)(福住廉)

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