artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
澄毅「空に泳ぐ」

会期:2012/06/18~2012/06/23
Port Gallery T[大阪府]
大阪市西区京町堀のPort Gallery Tでは、2012年5月~6月に若手写真家5人の連続展が開催された、やまもとひさよ、田村智子、宇山聡範、小川美緒と続いた最後に登場したのが、澄毅(すみ・たけし)である。
澄は1981年、京都生まれ。2008年に写真ひとつぼ展で入選、2009年と2010年には写真新世紀展で佳作に入っている。昨年同じギャラリーで開催された個展「光」を見て、ユニークな思考力を備えた写真家だと思った。今回の展示は、その続編というべきもので、虫ピンで小さい穴を穿ったプリントを太陽にかざし、そのままカメラで複写するという手法でつくられた作品が並んでいる。一見フォトショップで加工したようだが、その無数の穴を通ってきた光は、光としてのかなり生々しい物質性を感じさせる。写真の画像の中に異なった次元が導入されることで生じた「空白」を、写真を見る者は自らの記憶や願望で埋めようとする。虫ピンで穴を穿つ澄の行為と見る者の思いとが、光の「空白」を通じて交流することがもくろまれているのだ。
昨年の個展では、祖父母や自分自身が写っている家族写真が中心だったが、今回は東京で撮影した路上のスナップのプリントにも穴をあけている。そのことによって、光が侵入する範囲が、個人的な記憶から集合的な都市の記憶まで拡大してきた。彼の意図がより的確に表現されるようになってきたのではないだろうか。ただ「見せ方」のレベルでいうと、最終的なかたちがまだ完全に定まっているとは言えない。プリントを太陽にかざすという行為の痕跡が、もっとストレートに見えていいと思うし、展示作品の大きさ、プリントのクオリティも、まだこれでいいのかという疑問を感じる。フィニッシュワークに、さらに磨きをかけていく必要があるだろう。
2012/06/22(金)(飯沢耕太郎)
日本橋 描かれたランドマークの400年

会期:2012/05/26~2012/07/16
江戸東京博物館[東京都]
ポストモダン美学論の古典として読まれている『反美学』で、編者のハル・フォスターはポストモダニズムを次の2つに区別している。すなわち、「反動のポストモダニズム」と「抵抗のポストモダニズム」。フォスターのねらいは、前者に傾きがちなポストモダニズムの重心を後者に引き戻すことにあり、そのために集められたロザリンド・クラウスやダグラス・クリンプ、ジャン・ボードリヤールやエドワード・サイードらによる論考は、80年代以後のアートシーンに決定的な影響を与えた。
だが、この書物が発行されておよそ30年が経ったいま、フォスターが設定した二項対立の図式は、はたしてどこまで有効なのだろうか。とりわけ、東日本大震災によって近代の価値観と社会システムの破綻を目の当たりにした私たちにとって、その図式じたいが、なにやら疑わしいものに見えてならない。なぜなら、フォスターの言う「抵抗」は、今となっては彼が批判的に退けた「反動」のなかにこそ内臓されているように思えるからだ。より具体的に言い換えれば、「反動のポストモダニズム」──ハーバーマスの言う新保守主義や前近代への回帰主義を、いま一度冷静に吟味することによって、「反動のポストモダニズム」と「抵抗のポストモダニズム」という図式そのものを脱構築する必要があるのではないか。
本展は、400年にわたる「日本橋」の歴史的変遷を、それを描いた浮世絵や版本、絵巻、写真、数々の資料から解き明かした好企画。歌川広重や葛飾北斎らによって描かれた日本橋からは江戸の賑やかな文化が感じられる。美しく湾曲した橋の上を鮮やかな装いの人びとが行き交い、橋のたもとにある魚河岸にはおびただしい舟が接岸し、遠景には江戸城と富士山のシルエットが望める。やや平凡な言い方になるが、街の喧騒が聴こえてくるかのようだ。
描かれた日本橋を見ていて心に焼きつけられるのは、日本橋に代表される江戸文化の華やかな祝祭性である。それがやけに輝いて見えるのは、前近代へのロマンチックな憧憬にすぎないのかもしれない。だが、翻って考えてみると、これだけ幸福感に満ちた視覚文化を、現在の私たちは描き出すことができるだろうか。私たちは、江戸の人びとがそうしたように、この時代を肯定的に表現すること(そして、結果としてそのことを後世に伝えること)が、もはやできなくなってしまった。むしろ、豊かなイメージやリアリティは、もしかしたら「反動」や「伝統」、あるいは「保守」として十把一絡げに打ち捨てられてきたもののなかに残されているのではないだろうか。いま、「江戸ルネッサンス」ともいうべき回帰の潮流が生まれつつある。
2012/06/21(木)(福住廉)
APARTMENT/もえあがる緑の木 安達裕美佳×湯浅加奈子

会期:A: 2012/06/12、も...: 2012/06/19~A: 2012/06/17、も...: 2012/06/24
UTRECHT[東京都]
開店時間とほぼ同時に入店。美術書をはじめ衣服や雑貨などをあつかうお店のようだが、ずいぶん人がいる。このお店はそんなに人気があるのかと思ったら、どうやら大半はスタッフか関係者らしい。そんなことより、肝腎のギャラリーがない。スタッフに聞くと、テラスにある小屋がそれだという。なるほどテラスには粗末な公衆便所みたいな掘建て小屋が建っていた。なかに入るとなにもない。と思ったら、細工した銀紙やメモ書きみたいな絵が貼ってあったり、糸で紙を吊るしていたり……ひとことでいえば、ショボ! この掘建て小屋を含めた全体をインスタレーションとしてつくったならホメてやりたいが、そうでもなさそうだ。まあショボイ小屋に合わせてつくったんだろうけど、ショボすぎるぞ。
2012/06/21(木)(村田真)
「悪夢のどりかむ:アニメ・エクスプレッショニスト・ペインティング」展

会期:2012/05/26~2012/06/21
Kaikai Kiki Gallery[東京都]
カイカイキキ主宰者の村上隆みずからがキュレーターを務める渾身の企画展、いろんな意味でとても刺激的だった。これは村上の長年の課題である「おたくと現代美術をどのように融合させ、西欧式現代美術の世界へ軟着陸させ、普遍性を持たせるか」へのひとつの解答と見ることができる。つまり、アニメやマンガなどのオタク文化と、美術の王道であるペインティングを接合すること。いいかえれば、日本的コンテンツを西洋的形式に着地させること。10年前だったら荒唐無稽と一笑に付されていたであろうこんな課題も、いまなら少しは現実味を帯びて迫ってくる(それも村上の孤軍奮闘によるものだ)。出品作家は6人で、まさに「アニメ・ペインティング」と呼ぶしかない作品が開陳されている。でも成功しているかというとそうでもなくて、たとえばMr.はコンテンツ(オタク的図像)に重心が傾いて絵画的にはどうかと思うし、JNTHEDはただ図像を巨大化しただけでサイズの意識が希薄だ。オタク的にも絵画的にも成功しているのは、いやそうではなく、内容と形式がうまくかみ合っているのは、最年少のおぐちだ。色彩こそ抑制されているものの、そのペインタリーな線描や正確無比の形態把握は、水と油のようなふたつの世界を見事に架橋しているように見えた。しかしこんなのが世界のアートマーケットを席巻する日が来るのかなあ。
2012/06/19(火)(村田真)
淀川テクニック はやくゴミになりたい

会期:2012/06/16~2012/07/08
ARTZONE[京都府]
大阪・淀川の河川敷を拠点に活動し、ゴミやガラクタを用いたオブジェで知られる淀川テクニック。最近は国内外で引っ張りだこの彼らが、京都初個展を行なった。2フロアある会場のうち、1階では彼らの定番である花輪や魚型自転車オブジェ、モルディブ共和国で制作した巨大魚のオブジェなどを展覧。また、鴨川で行なったゴミ狩りのワークショップを記録した映像や、その際に制作したゴミの履歴書も見られた。2階では鴨川で拾ったゴミを約12メートルの壁面に並べた《有漏路 無漏路》(一休宗純の短歌から命名)を出品。まさに圧巻のインスタレーションを展開した。大阪を拠点にする淀テクだが、意外にも関西での発表は少ない。それだけに本展は、地元の美術ファンにとって嬉しい機会となった。
2012/06/19(火)(小吹隆文)


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