artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
井上雅之 展「初形より─山」

会期:2012/07/02~2012/07/07
番画廊[大阪府]
会場には山のような形をした大きな陶立体が1点。四角い箱を積み重ねた形状をしており、珊瑚や多孔質の物質を思わせる。形態の面白さはもちろんだが、細部も多彩な色合いや質感、大小さまざまなひび割れを持っており、間近で凝視しても見飽きることがなかった。表面の多彩な表情は、釉薬を何度も重ね塗りして焼成するなどしてつくり出すらしい。彼の個展は関西では12年ぶりということだが、これだけの存在感を放つ作品を滅多に見られないのは寂しい。できればもう少し機会を増やしてほしいものだ。
2012/07/02(月)(小吹隆文)
江戸東京博物館開館20周年記念特別展「日本橋 描かれたランドマークの400年」

会期:2012/05/26~2012/07/16
江戸東京博物館 1階企画展示室[東京都]
江戸東京博物館にて開催中の「日本橋 描かれたランドマークの400年」展を見ると、江戸時代から、日本橋の界隈は本当にさまざまな絵図で登場しており、重要なランドマークだったことがよくわかる。そのなかでも対象に超接近する歌川広重の構図がもっとも大胆で前衛的だ。展示の内容は、近代以降も続くが、やはり首都高が上にかかる時代で終わっている。とはいえ、かつての美しい景観を創る会のような、首都高速を破壊すれば、古き美しい江戸の情緒が甦るといったイデオロギーはなく(そもそも現在の日本橋は江戸時代の木造の橋を壊した後につくられたもの)、その良し悪しについては中立的な立場をとっていたことは興味深い。
2012/07/01(日)(五十嵐太郎)
館林ジャンクション 中央関東の現代美術

会期:2012/04/28~2012/07/01
群馬県立館林美術館[群馬県]
群馬県立館林美術館を中心に半径25kmの圏内に在住している美術家を集めた展覧会。佐々木耕成、長重之、吉本義人、五月女哲平、佐藤万絵子、栃木美保ら、ベテランから若手まで、16名が参加した。丁寧な作品解説と館林市内のギャラリー「スペース・ユー」の活動記録を併せて収録した図録もたいへん充実している。とりわけ印象深かったのが、光山明。観光名所に置かれていることの多い顔出し看板によって土地の歴史を浮き彫りにする写真シリーズ《ニッポン顔出し看板紀行》を発表した。例えば渡良瀬遊水地には、官憲と対峙する田中正造の顔出し看板を設置することで、そこに足尾銅山からの鉱毒を沈殿させるために強制破壊された村がかつて存在していた事実を明らかにした。池袋のサンシャインシティ(巣鴨プリズン)や茨城県東海村(東海発電所)など、フィールドの幅も広い。空間と時間を交錯させる手並みが、じつに鮮やかである。
2012/07/01(日)(福住廉)
淀川テクニック個展「はやくゴミになりたい」
会期:2012/06/16~2012/07/08
ARTZONE[京都府]
淀川テクニックの個展。鴨川へ“ゴミ狩り”に行き、拾ってきたゴミを観察し、その“ゴミの生涯”を妄想して“ゴミ履歴書”を制作するという、この日予定されていたワークショップは雨のため一部変更となったそうで、会場では、スタッフや淀川テクニックによって事前に拾い集められていた“ゴミ”をTシャツに飾り付けて着る、というプログラムが行なわれていた。その後、参加者は自作のTシャツを着てやはり“ゴミ履歴書”を制作。各々がどんなことを想像してどんな履歴書をつくったのかも気になるのだが、「最初からゴミのものなんてない」をプロローグに行なわれていた淀川テクニックによるレクチャーが面白そうだった。参加者は若い人たちが多かった印象だが、きっと“ゴミ”というよりも“モノ”への意識が変わる気がした。二階の壁面に展示されていた《有漏路無漏路(うろじむろじ)》という本展のための新作インスタレーションは、拾ってきた“ゴミ”を素材にしているのだが、“ゴミ”がゴミでなくなるときをみごとに示す迫力と説得力。

会場入口。本展のための新作、穴から顔を出して記念撮影ができる《顔出し花輪》と、泳げないチヌをイメージしたペダルのない自転車《自転車チヌ》

左=会場一階。拾い集められたゴミからオリジナル(ゴミジナル)Tシャツを制作するワークショップの様子
右=会場二階。展示風景(壁面作品《有漏路無漏路(うろじむろじ)》)
2012/07/01(日)(酒井千穂)
岡本里栄 個展「目を凝らす:よく見えない」

会期:2012/06/19~2012/07/01
Gallery PARC[京都府]
2012年に成安造形大学洋画コース研究生を修了後、現在、京都精華大学大学院に在籍しているという岡本里栄の個展。今展で初めて知った作家だ。会場には10点の油画が展示されていたのだが、全体的にどれもおぼろげな光景を思わせる作品で、画面になにが描かれているのかはじめは判然としない作品がいくつかあった。しかし不思議なことに、位置や距離をかえてじっと画面を見ていると描かれた対象が「見えてくる」という感覚を覚えるから感動。そのなかには本人の自画像も含まれていたかもしれないが、すべての作品に女性(の仕草や表情)が描かれていた。ステイトメントによると、その手法には独自のルールがあるようなのだが、その色彩感覚にも感心する。映像のピントが一気にあって存在がくっきりと確認できる瞬間のような感覚と驚きが忘れられない。また次回の発表も楽しみだ。
2012/07/01(日)(酒井千穂)


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