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美術に関するレビュー/プレビュー

プレビュー:リアル・ジャパネスク:世界の中の日本現代美術

会期:2012/07/10~2012/09/30

国立国際美術館[大阪府]

1970~80年代生まれの日本人美術家9名(泉太郎、大野智史、貴志真生也、佐藤克久、五月女哲平、竹川宣彰、竹崎和征、南川史門、和田真由子)を起用した展覧会。この世代の課題を、欧米美術の行き詰まりに基づく価値観の多様化、1960年代生まれの美術家の仕事の超克、美術情報の氾濫、と規定し、その状況に知的かつ誠実に対応する事例として彼らの仕事を位置づける。同館で昨年に開催された「世界制作の方法」以来となる若手日本人作家の企画展だけに、期待が高まる。

2012/06/30(土)(小吹隆文)

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マウリッツハイス美術館展──オランダ・フランドル絵画の至宝

会期:2012/06/30~2012/09/17

東京都美術館[東京都]

オランダのハーグにあるマウリッツハイス美術館は、規模こそ小さいけれど、アムステルダムの国立美術館と並んで黄金時代と呼ばれる17世紀オランダ絵画の宝庫。今回は美術館の拡張工事で長期休館するため、コレクションの一部が貸し出されることになった。展示は6章に分かれ、第1章はマウリッツハイスゆかりの人たちや建物を描いた自己言及的な「美術館の歴史」。なかでもレンブラントの《ニコラース・テュルプ博士の解剖学講義》が飾られた展示室を描いたアントーン・フランソワ・ヘイリヘルスの作品は、画中画愛好家には垂涎もの。なんでこの絵の複製画や絵葉書が売ってないの? 第2章が「風景画」で、第3章はルーベンスやレンブラントらの「歴史画」。歴史画なのにどれも小さいのが残念だが、ルーベンスの場合小さい(つまり下絵)がゆえに本人の真筆であることが間違いないので、むしろ弟子に描かせた大味な大作より貴重だ。「歴史画」の最後はフェルメールの《ディアナとニンフたち》で、階上の第4章「肖像画と『トローニー』」につながっていく。エスカレータで上ると大きな展示室の奥にただ1点、フェルメールの《真珠の耳飾りの少女》が置かれている。さっそく単眼鏡を取り出してつぶさに観察してみると、お肌が妙にスベスベで現実味に欠けていて、これはやはり特定のモデルを描いたのではないトローニーに違いない。この章にはほかにもヴァン・ダイクによる裕福な夫妻を描いた対の肖像画、フランス・ハルスの闊達な筆さばきによる少年像、レンブラントの初期と晩年の自画像を含む肖像画もあって、密度が濃い。第5、6章はいかにもオランダ絵画らしい「静物画」と「風俗画」が続き、けっこう満腹になった。なのに《真珠の耳飾りの少女》ばかりが話題になって、もったいない。

2012/06/29(金)(村田真)

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中島麦 僕は毎晩、2時間旅をする─アクリル絵具の色・瞬間─

会期:2012/06/26~2012/07/15

サクラアートミュージアム[大阪府]

通勤等で電車の車窓越しに見た風景をもとに、ドローイングやペインティングを制作する中島麦の個展。ドローイング、ペインティングとも25点が展示された。ドローイングで半抽象化された風景は、ペインティングで更に単純化が進み、なかにはシンプルかつ鮮やかな色面に生まれ変わった作品も。作風はこれまでと同様だが、会場の2室をドローイングとペインティングに分けたこと、吹き抜けによりその2室が連続していたこと、出品作が大作揃いだったことがよい方向に作用して、一作家の思考の変遷が手に取るように理解できる、見応えのある展覧会に仕上がっていた。

2012/06/26(火)(小吹隆文)

森山大道『カラー color』

発行所:月曜社

発行日:2012年4月30日

森山大道がカラーで、しかもデジカメで東京を撮り始めたと聞いてから、もう4年あまり経つ。その2008~2012年までの成果をまとめた、最初の「カラー本」が月曜社から刊行された。
森山=ハイコントラストのモノクロームというイメージには強固なものがあるが、本人にはもともと、周りが思っているほどのこだわりはなかったのかもしれない。荒木経惟もそうだが、森山も人体実験的に新たなスタイルを模索し続けてきた写真家であり、デジタルカメラへのシフトもごく自然体で為されたのではないだろうか。例によって、見開き裁ち落としで表紙から最終ページまでアトランダムに写真がぎっしりと並ぶ構成をとるこの写真集でも、カラーだから、デジタルだからという気負いはまったく感じられない。むしろ、被写体の選択、切り取り方などに強く表われている、森山特有のフェティッシュな嗜好は、モノクロームとまったく変わりがなく、逆に拍子抜けしてしまうほどだ。
だが、当然ながら、色という要素が加わることで、感情を不穏にかき立てる生々しさがより強まっていることはたしかだ。とりわけ、圧倒的な存在感で目に飛び込んでくるのは「赤」の強烈さである。ケチャップとも血ともつかない毒々しいほどの原色の「赤」は、デジタルカメラを使うなかで森山が発見したものだろう。この「赤」だけではなく、くすんだ灰色の印象が強い東京の街のそこここに、黄、緑、青などの原色がかなり氾濫していることにあらためて気づかされた。
今のところまだ第一歩であり、「カラー本」の試行錯誤はさらに続きそうだ。決定版が出るまでには、まだもう少し時間がかかるかもしれない。

2012/06/24(日)(飯沢耕太郎)

大イタリア展──Viva Italia!

会期:2012/05/19~2012/06/23

studioJ[大阪府]

「イタリア」をテーマに作家それぞれが自由にイメージ、表現した作品が展示されていた。参加作家は荒木由香里、池田慎、碓井ゆい、加賀城建、河地貢士、木内貴志、坂本真澄、密照京華、DOGU ARIN、Jhoan Peter Holという10名。平面、立体と表現手法もさまざまなのだが、ここで初めて知った作家や、ドローイングは初の試みだという作家の作品など、私自身が初めて出会うものが多い会場だった。テレビのクイズ番組がすぐさま頭に浮かぶ、イタリアの国旗の3色を用いた木内貴志の《Attack! Twenty-five》、お菓子の包装紙でつくられた碓井ゆいの小さなレインコート、おぼろげな色彩が美しい加賀城建の染色、イタリア社会を風刺するユーモアも効いたJhoan Peter Holの作品など、全体に遊び心を散りばめた内容が愉快。コンセプトやメッセージ性が強い展覧会もいいけれど、こんな賑やかなグループ展はやはり楽しい。



展示風景

2012/06/23(土)(酒井千穂)