artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

水と土の芸術祭2012

会期:2012/07/14~2012/12/24

新潟市内各所[新潟県]

もういちど万代島のメイン会場をのぞいてから、市の中心部(新潟島)に点在する作品を歩いて見ることにする。最初に見たのは、廃園となった保育園に残されていた窯から架空の物語を発想し、保育園全体を作品に組み込んでしまったナデガタ・インスタント・パーティーの《ワンカップストーリー》。これはいちおう「土」と関連しており、ゆるさも含めて楽しめた。その後、渡辺菊眞+高知工科大学渡辺研究室、佐藤仁美、藤江竜太郎、近藤洋平、坂爪勝幸、照屋勇賢、華雪などを回ったが、省略。さて今回、越後妻有色が抜けて独自色を出すことができただろうか。答えはとりあえずイエスだ。前回と比べて全体に泥臭い作品が減り、なんとなくモダナイズされた作品が増えたように感じるからだ。それはおそらく、前回は潟や川岸に泥まみれになりながら設置する野外インスタレーションが目立ったのに対し、今回は旧水揚場をはじめ民家や記念館などを使う屋内展示が多かったせいかもしれない。ちなみに、前回は新潟市美術館に約10組の作家が展示していたが、今回美術館は会場からはずれ、「平山郁夫展」を開催中。そもそも作家選択が、前回のおもに水と土に関連する「泥臭い」作家と違い、今回は「モダン」な作家を選んで水と土のテーマを与えたという面がある。結果的に越後妻有色は抜けたといえるが、逆にモダナイズされた分、ほかの展覧会との差異が縮まってしまったかもしれない。

2012/07/14(金)(村田真)

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水と土の芸術祭2012

会期:2012/07/14~2012/12/24

新潟市内各所[新潟県]

2009年に続き、第2回を迎える「水と土の芸術祭」。なんで同じ新潟県内で、先行する越後妻有の「大地の芸術祭」とカブるようなイベントをやるのかというと、もちろん第1回のディレクターが「大地の芸術祭」と同じ北川フラム氏だったからだが、では今回、北川氏が抜けて竹久侑+堀川久子+丹治嘉彦+佐藤哲夫の共同ディレクター制となった以上、いかに第1回との差異化を図るか、いいかえれば、どれだけ越後妻有色を抜いて独自色を発することができるかが見どころのひとつとなるはずだ。ともあれ、まずは今回の芸術祭の拠点となる万代島の旧水揚場へ。ここではカマボコ型の巨大空間に原口典之と大友良英×飴屋法水たちの大作インスタレーションが据えられ、隣の旧水産会館には宇梶静江、下道基行、タノタイガらの作品が各部屋に展示されている。注目すべきはやはり原口と大友×飴屋たちのインスタレーションだ。原口は天井近くに数本のパイプを渡してそこから大量の雨を降らせるという作品を披露。オイルプールや目の前の運河から汲んだ海水プールもあったが、このシャワーだけで十分だ。大友×飴屋は、廃材を集めてあたかも津波の被害に遭ったかのような廃墟を組み立て、脇に数百足もの古靴を置いた。どちらも水の怖さを感じさせる作品だ。一方、その奥の部屋で上映していた吉原悠博の映像は、信濃川を河口から源流までさかのぼりながら風景を撮ったものだが、その映像の美しいこと。旧水産会館では、部屋の床と天井を貫いて水先櫓を建てたタノタイガが健闘。しかしこの万代島の会場でもっとも感心したのは、端っこに建っていたプレハブ小屋を大改造したwah documentの《おもしろ半分製作所》。内部は迷路状に入り組み、2階建てなのに3階にも4階にも感じられるマジックハウスなのだ。午後2時からバスツアーで遠方の作品鑑賞に出発。3年前のインスタレーションを再現したアン・グラハムをはじめ、白砂糖で描いた大画面をお寺の屋根裏で公開した佐々木愛、民家の各部屋にドローイングを飾ったイリーナ・ザトゥロフスカヤ、重要文化財の大邸宅に「異人」シリーズを展示した石川直樹などを見て回ったが、いちばん楽しかったのは西野達のインスタレーション。1軒の住宅の天井から上を取っ払い、周囲に回廊を設けて上から各部屋を見下ろせるようにしている。住宅にはだれか(ボランティア)が住んでいるので、観客は他人の生活をのぞき見ることになる。wahにしろ西野にしろ「水」とも「土」とも直接関係がない。それがいいのか、それでいいのか?

2012/07/13(金)(村田真)

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清水裕貴「ホワイトサンズ」

会期:2012/06/25~2012/07/12

ガーディアン・ガーデン[東京都]

リクルートが主催する第5回写真「1_WALL」展(2011年9月20日~10月13日)でグランプリを受賞した清水裕貴の個展である。とても可能性を感じる作家だと思う。注目すべきなのは、1点1点の作品に、それに対応するテキストが付されていること。しかもそれが単なる添え物ではなく、重要な意味を担っている。日本の写真家たちの多くは、どちらかと言えば言葉を潔癖に拒否するタイプが多い。純粋に写真だけで語ろうとする態度を、あながち否定すべきではないが、言葉と画像とを組み合わせて、その相乗効果でより広がりのある世界を創出していくようなつくり手が、もっと増えてもいいのではないだろうか。
ただ、動物園や水族館、さらに「ニューメキシコ州の雪花石膏の純白の砂漠」(「ホワイトサンズ」)などで撮影された画像群、そして「先生」や「ペンギン」や「男の子と女の子」などが登場するテキストのどちらも、まだまだ中途半端で物足りない印象を受ける。写真に写っている事物も、文章で描写されるキャラクターも、どこか入れ替え可能な記号のようで、生身のリアリティを感じることができないのだ。1984年生まれということは、もうそろそろ若書きから脱してもいい年頃だ。写真と言葉の両方とも、さらに厳しく鍛え上げ、研ぎ澄ましていってほしい。もし彼女が一皮むければ、スケールの大きな、凄みのあるつくり手が出現することになりそうだ。

2012/07/11(水)(飯沢耕太郎)

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本城直季「diorama」

会期:2012/06/05~2012/08/05

写大ギャラリー[東京都]

本城直季は東京工芸大学芸術学部写真学科の出身(2004年に大学院芸術研究メディアアート科修了)だから、同大学の中野キャンパス内にある写大ギャラリーでの個展は、いわば凱旋展ということになる。こういう展示は本人にとってはとても嬉しいものだろう。多くの後輩たちが見にくるわけだから、いつもにも増して力が入るのではないだろうか。代表作であり、2006年に第32回木村伊兵衛写真賞を受賞した「small planet」に加えて、今回は新作を含む「Light House」(2002年/2011年)のシリーズも展示していた。
本城のトレードマークと言えるのは、言うまでもなく「small planet」で用いた、4×5インチの大判ビューカメラの「アオリ」機能を活かして画像の一部にのみピントを合わせ、あとはぼかす手法だ。これによって得られる、まさにジオラマ的としか言いようのない視覚的効果は、何度見てもめざましいものだ。本城は撮影するポイントを厳密に定め、被写体をきちんと選択することで、見る者に驚きを与えつづけることに成功した。
すでに完成の域に達している「small planet」と比較すると、「Light House」はまだ試行錯誤の段階にあるように見える。自然光で上から見おろす視点の前者に対して、夜の人工光に照らし出された街の一角を水平方向から精密な模型のような雰囲気で写しとる後者は、どちらかと言えば凡庸な描写に思えてしまうのだ。本城は東京、千葉など首都圏近郊の眺めにこだわっているようだが、むしろ被写体となる地域の幅を広げた方が面白くなりそうな気がする。地方都市や外国の街にまで視野におさめていけば、より「映画のセットのような」雰囲気が強まるのではないだろうか。次の展開に期待したい。

2012/07/11(水)(飯沢耕太郎)

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東明 展「groundwork」

会期:2012/07/10~2012/07/22

アートスペース虹[京都府]

ビニールシートや布地などでつくられたパラシュート型オブジェと、ブルーシートを何層も折り畳んで、どこをカットしてもハニカム構造が出現するシート状の作品、空気を孕むと半球状に膨らむ一辺約1.2メートル四方の作品を出品。パラシュート型の作品は空中に投げると空気を孕んで円錐形や動物の姿になり、着地後もしばらくは形態を留め続ける。玩具のような面白さがあり、大人げなく何度も投げて遊んでしまった。素材や構造への関心が深く、プロダクト的な側面も持つのがこれらの作品の特徴だ。それだけに今後の展開次第ではアートの枠を超えた広がりをつくり出せるかもしれない。

2012/07/10(火)(小吹隆文)