artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

トーマス・デマンド展

会期:2012/05/19~2012/07/08

東京都現代美術館 企画展示室3F[東京都]

トーマス・デマンド展を見る。これまで単体では幾度も彼の作品を見てきたが、現実を再現した紙模型の世界を撮影した写真群を、これだけまとまった量で、この大きさで見ることができたのには意義がある。早速、福島原発の作品も発表されていた。またコマ撮りによる撮影で、揺れる船の室内風景を映像として再現した作品には驚かされる。

2012/07/07(土)(五十嵐太郎)

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BankART AIR PROGRAM OPEN STUDIO 2012

会期:2012/07/06~2012/07/16

BankARTスタジオNYK[神奈川県]

BankARTで行なわれたレジデンス・プログラムの2カ月間の成果を発表。個展のための作品制作の場として借りる者もいれば、多くの美術関係者との交流を目的に入居した人もいるし、ただ大きな作品をつくりたいから大きな空間を借りたという人もいる。注目したのは洗川寿華、幸田千依、清水総二の絵画。だが、このコンクリートに囲まれた空間、2カ月という期間をもっとも有効に作品化したのはPinpin Coのプロジェクトだ。彼女は公募で集めた40人を毎日ひとりずつこのスタジオに招き、その顔に刺青のようなパターンを描き、コンクリート壁を背景に写真を撮り、撮影した同じ壁にその写真を展示するというもの。その行為は人間の原初的な表現行為にまで思いをさかのぼらせるし(刺青は洞窟壁画よりも古い人類最初の絵といわれている)、またそれらの写真はその場所でしか意味をもたないサイトスペシフィックな写真となっている。この場所で、この期間で見事に完結したプロジェクト。ちなみにPinpin Co(なんて読むのか、ピンピンコ?)は中国出身で、早大と芸大で建築を学んだという異色の経歴。これからの活動に注目したい。

2012/07/06(金)(村田真)

大英博物館──古代エジプト展

会期:2012/07/07~2012/09/17

森アーツセンターギャラリー[東京都]

ロンドンオリンピック効果なのか、大英博物館が在庫一掃セール(?)の「古代エジプト展」。彩色彫刻、棺桶、装飾品などのほか、死後の世界のガイドブックともいうべき「死者の書」が初公開されている。全37メートルにおよぶこのパピルス文書にはヒエログリフや図形が描かれているのだが、もちろん内容はチンプンカンプン。内容がわからないから文字が絵に見えたり、絵が文字に見えたりしてくる。ていうか、まだ絵と文字が明確に分化していなかった時代なのかも。だいたいこうしたパピルス文書も、内外を絵文字で覆った棺桶も、実用物なのか芸術品なのかよくわからないし、当時の人たちもそんな区別はまだしてなかったに違いない。いやそもそも「死者の書」も棺桶も死んだ人のためにつくられたものだから、生と死の境界も未分化だったのかもしれない。古代エジプト美術(美術なのか?)にある種の不気味さを感じるのは、それらがなかば死の世界に属しているからだろう。

2012/07/06(金)(村田真)

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空想動物の世界──聖なる古代の物語展

会期:2012/07/07~2012/08/19

MIHO MUSEUM[滋賀県]

古来、人間は、角や牙のある野獣や翼と鉤爪を持つ猛禽などの存在に、神の力や、抗しがたい自然現象のイメージをつなげてきた。本展は、いにしえの人々がつくり出した人間や動物を組み合わせた「空想動物」の造形作品を集めたもので、西アジアや南アジアの神々、ギリシャ神話の世界、中国の空想動物など、さまざまな地域、時代の文化と信仰をベースに、空想動物をあしらった杯や皿、印章、イヤリング、壁画、建築装飾、絨毯など、さまざまな道具や装飾が展示、紹介されていた。有翼でひづめをもつ神霊や角をもつ怪物、神と人間とのあいだとされる精霊など、デザインやモチーフ自体もさることながら、それにまつわる物語や伝説も解説も興味深い。ヒンドゥー教と仏教のつながり、神像のまつり方、表現の仕方でそれらの信仰の違いがわかるなど、展示資料と解説を見合わせるとより面白い。自然と神々の存在に畏怖する人間の想像力にも感動。次に開催される秋季特別展「土偶・コスモス」展(2012年9月1日~12月9日)も面白そう。

2012/07/06(金)(酒井千穂)

KATAGAMI Style 世界が恋した日本のデザイン もう一つのジャポニスム

会期:2012/07/07~2012/08/19

京都国立近代美術館[京都府]

本展は、染色で模様を染める際に用いられる型紙が、欧米でどのように受容され展開したかを探るもの。約400点にも及ぶ膨大な展示品と、約3年間にわたる綿密な調査に基づく、ヘビー級の内容を持つ展覧会だった。展示品は、型紙や衣裳、見本帳に始まり、陶器、ガラス、壁紙、家具、ポスターなど多岐にわたる。つまり、染色展ではなく総合的なデザイン展である。事実、欧米諸国が布地ではなく型紙を欲したのは、未知のデザインソースに対する関心からだという。ヨーロッパ諸国での受容の差異も興味深く、英国では産業主導だったのに対し、フランスでは美術家や工芸家が率先したという。また、日本とほぼ同時期に統一国家が形成されたドイツでは型紙がデザインの教材として受容されたそうだ。今までジャポニスムといえば、浮世絵や陶磁器ぐらいしか思い浮かばなかったが、実は型紙こそがジャポニスムの中核だったのかもしれない。

2012/07/06(金)(小吹隆文)

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