artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

20世紀日本建築・美術の名品はどこにある?

会期:2012/07/09

LIXIL:GINZA 8F セミナールーム[東京都]

彦坂尚嘉が企画するアート・スタディーズの最終回をついに迎えた。20世紀の100年を5年ずつ区切って、全20回で建築と美術を横断する連続シンポジウム+2回の特別編である。2004年11月に第1回が始まり、ついに大団円だ。最終回は豊川斎赫らを迎え、丹下健三とアートについて討議した。これは複数のコメンテーターが登壇するリノベーション・スタディーズのスタイルを継承するシンポジウムの形式をとりながらも、じつは彦坂による壮大なアート・プロジェクトだったと思う。

2012/07/09(月)(五十嵐太郎)

黒田征太郎の73回目の夏の自由画展

会期:2012/07/09~2012/07/21

番画廊[大阪府]

イラストレーターの黒田は、1990年代のニューヨーク在住の頃からアトリエの机をクラフト紙で養生し、絵を描いたりメモを記していた。本展ではそれらクラフト紙の上に新たにペインティングを加えた作品「自由画」10点を展示した。作品の印象は、「みずみずしい」の一言。奔放なイマジネーションが縦横無尽に展開されており、彼が今年で73歳ということが信じられない。正直言って最近は黒田の存在を忘れがちだったが、このオッサンまだまだ侮れんなと、思いを新たにした。

2012/07/09(月)(小吹隆文)

リアル・ジャパネスク 世界の中の日本現代美術

会期:2012/07/10~2012/09/30

国立国際美術館[大阪府]

泉太郎、大野智史、貴志真生也、佐藤克久、五月女哲平、竹川宣彰、竹﨑和征、南川史門、和田真由子という、1970~80年代生まれの若手作家9名をピックアップして、日本の現代美術の一断面を提示している。プレスリリースによると、彼らを選んだ背景には、欧米美術の行き詰まりに伴う価値観の多様化、1960年代生まれの美術家の仕事の超克、美術情報の氾濫という課題認識があり、それに対して、欧米追従や日本趣味への回帰、ショーアップした展示という安易な方向性を取らずに独自路線を歩む作家を選んだとのこと。つまり、1990年代末から2000年代にかけての美術動向に対するアンチテーゼを多分に含む企画展なのだ。正直、本展に対する私の態度はまだ決まっていない。ただし、泉、貴志、和田以外の作家は初見だったので、新鮮な気持ちで臨めたのは確かである。また、国立国際美術館で近年に行なわれた日本の現代美術展はすべて担当学芸員が異なるので、彼らの顔を思い浮かべながら企画趣旨の差異を楽しんだ。とにかく本展にはもう一度出かけて、自分なりに気持ちの整理をつけねばなるまい。

2012/07/09(月)(小吹隆文)

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ART OSAKA 2012

会期:2012/07/06~2012/07/08

ホテルグランヴィア大阪 26階[大阪府]

2002年から開催されているアートフェア「ART OSAKA」。10回目の今回は約50のギャラリーが参加。今年もホテルの1フロアを使って各客室にてそれぞれのギャラリーが作品を展示、販売するスタイル。毎回のことながら今回訪れたときも多くの来場者で賑わっていた。出展ギャラリーの数も多いぶん、はじめて見る作家の作品など、新たな出会いが楽しめる機会でもあるのだが、なにしろホテルの客室での作品展示。どちらかというと、あまりゆっくりと作品を見たり作家やギャラリストと会話を楽しむ雰囲気でもない。次々に入室する人々でそれぞれの展示室は渋滞状態にもなりやすく、必然的に、混み合ってくるとそこを出て隣の展示室へ移動、混み合ってきたらまた隣へという流れになる。ホテルでのアートフェアとはそのようなものなのかもしれないが、できれば来場者がもっとゆったりと過ごせるような工夫や配慮があると嬉しい。しかし今回、ホテル客室という制約の多い空間を活かし、アーティストの作品世界を魅力的に紹介している展示室にもいくつか出会えた。大阪のギャラリーほそかわの6016号室は、京都市立芸術大学博士課程に在籍する西山裕希子によるインスタレーション空間。西山がこれまでの発表で度々キーワードとしてきた鏡、屋内空間、女性像、そして染色技法を用いた表現が、どれも違和感なく緩やかにイメージの脈絡をつくり、作家の世界観へと導いていくような美しい構成だった。また、現在、茨城を活動拠点としている片口直樹の最近作の絵画が展示されていた金沢のインフォーム・ギャラリーの6108号室も作家の制作テーマや画風の変遷もうかがえる濃厚な作品空間で記憶に残る。ほかにもいくつかあったが、多数のギャラリーや人々、多様な作品が一堂に会する場だからこそ、ただ陳列したというのではない展示が見たいし、そのような出会いの喜びは大きい。


6016号室(ギャラリーほそかわ、大阪)。西山裕希子のインスタレーション(一部)
6108号室(インフォーム・ギャラリー、金沢)。片口直樹作品

2012/07/08(日)(酒井千穂)

トーマス・デマンド展

会期:2012/05/19~2012/07/08

東京都現代美術館[東京都]

日本で初めて催されたトーマス・デマンドの展覧会。紙で構築した対象を撮影した写真作品をはじめ、同じ要領で制作されたストップモーション・アニメーションもあわせて16点が展示された。福島第一原発の管制室やアメリカ大統領執務室など、社会性と政治性が強いモチーフを選ぶことによって同時代的なリアリティを、紙の平面性を徹底することによって現代社会におけるフラットなリアリティを、それぞれ巧みに取り入れていることがよくわかる。それらのイメージが写真によって伝達されるという点も、今日的な状況と密接に関わっているのだろう。ただ、ひとたびそうした作品の構造を発見してしまうと、そこから先へ想像力が広がっていかないところに、デマンドの作品の弱さがある。作品数が増えるにしたがって作品への視線が薄弱にならざるをえないといってもいい。いっそのこと、撮影の済んだ紙工作を一気に燃やしてしまえば、私たちの視線をもっと熱くすることができたのではないか。

2012/07/08(日)(福住廉)

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