artscapeレビュー

縄文人展

2012年06月15日号

会期:2012/04/24~2012/07/01

国立科学博物館 日本館1階企画展示室[東京都]

国立科学博物館で開催された「縄文人展」は、なかなか興味深い「写真展」だ。近年、1万5千年前から一万年以上も続いた縄文時代を、日本文化の最古層を形成する時期として捉えるという見方が強まってきている。縄文期の暮らしや文化への関心の高まりを受け、若海貝塚人(茨城県出土の男性)と有珠モシリ人(北海道出土の女性)の、二体の発掘人骨の展示を中心に構成されたのが本展である。
展示全体のインスタレーションを担当したのは、グラフィック・デザイナーの佐藤卓、そして写真撮影は上田義彦である。この二人の関与によって、30数点の写真パネルによる、すっきりとした会場構成が実現した。上田はこのところ、東京大学総合研究博物館のコレクションを撮影したシリーズを、展覧会や写真集のかたちでさかんに発表しており、今回の作品もその延長線上にある。黒バック、あるいは白バックの画面のほぼ中央に被写体を置き、注意深いライティング、ボケの効果を活かしたフォーカシングで撮影するスタイルは、すでに完成の域に達している。「縄文人」の骨の撮影においても、広告の仕事で鍛えた完璧なテクニックを駆使することで、被写体の細部がクリアーに、写真特有の映像的な魅力をともなって定着されているといえる。
ただ、その会場構成にしても、写真の見え方にしても、あまりにもすっきりと整い過ぎているのではないかという思いも残った。被写体となった骨のなかには、頭骨に損傷が見られたり、おそらく通過儀礼によるものと思われる抜歯の痕が残っていたりするものもある。骨から浮かび上がってくる、「縄文人」の生活の厳しさ、生々しさを、もう少し強めに打ち出していってもよかったのではないだろうか。

2012/05/23(水)(飯沢耕太郎)

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