artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
大西伸明 展「THROGH」

会期:2012/02/18~2012/03/17
ギャラリーノマル[大阪府]
文房具や脚立などの製品、肉や魚の切り身、蝶、木の枝、石ころといった自然物など、日常で目にするさまざまなものを型取り、リアルに着彩した立体作品や版画作品をとおして、ものごとを“とらえる”というわれわれの視覚や日常の感覚にアプローチしてきた大西伸明。今展では、大西が考案した“スループリンティング”という、インクを吹きつけイメージを定着させる、シルクスクリーンを応用した技法による作品が発表された。版にした画像が吹き付けられたインクで再現されているのだが、吹き付ける距離を微妙に加減するのだそうで、部分的にフィルターがかかった写真のような雰囲気。昨年は美術館や海外での発表も続き、さらに活躍の場を拡げている大西。今後、作品をどのように展開していくのか活躍がますます楽しみだ。
2012/03/17(土)(酒井千穂)
第31回損保ジャパン美術財団選抜奨励展 Final

会期:2012/03/03~2012/04/01
損保ジャパン東郷青児美術館[東京都]
損保ジャパン美術財団による新進作家の支援を目的とする展覧会。二科会や国画会など既成の公募美術団体から1人ずつ選んだ計53人(絵画35人、立体18人)に加え、美術ジャーナリストや学芸員らの推薦による27人の絵画も合わせて80点を展示している。いわば団体系とインディペンデント系の呉越同舟だ。ポップでマンガチックなペインティングを何枚か組み合わせた高木真木人(野田裕示推薦)、ブルーグレーを基調にした表現主義的な抽象ながら軽やかさも感じさせる室井公美子(近藤昌美推薦)、油彩の特性を生かしつつ一見イラスト風の明快なイメージを定着させた小野さおり(名古屋覚推薦)らの作品が目に止まった。ちなみに小野は損保ジャパン美術賞、室井は秀作賞を受賞。もちろん3人ともインディー系で、団体系の作家は(立体を除き)ひとりも受賞していない。はっきりいってインディー系と団体系のレベルの差は歴然としている。展示は両者を明確に分けていないが、違いは一目瞭然なのだ(両者は額縁の有無でも見分けられる)。そもそもこの奨励展、77年から美術団体に財団奨励賞を授与し始め、81年から受賞作家を集めて開かれてきたもので、推薦制のインディーが加わったのは01年からのこと。おそらく80年代あたりから美術団体が大きく後退したため、インディー系に触手を伸ばす必要が出てきたのだろう。今回タイトルに「Final」とあるのは、現在のようなシステムはこれで終わりにし、13年から新たな公募展「損保ジャパン美術賞展」を始めるからだそうだ。おそらく団体系とインディー系の二重基準を解消するためだろう。
2012/03/16(金)(村田真)
第15回岡本太郎現代芸術賞展

会期:2012/02/04~2012/04/08
川崎市岡本太郎美術館[神奈川県]
応募作品の表現形式は自由、サイズも5メートル立方に収まればいいので、ほぼなんでもありってことだ。ベラボーな作品を好んだ岡本太郎らしい公募展だ。そんなわけで今年もベラボーな作品が集まった。まずは高さ5メートルを超す(早くも規格外)関口光太郎の《感性ネジ》。ネジのように螺旋を描く塔で、周囲にマリリン・モンローやらトカゲやら楽器やらが付着し、表面は新聞紙に覆われその上にガムテープを巻いていて表現主義的だ。これは岡本太郎賞。メガネの《エナジー・オブ・ダンス》は、床に家電製品が置かれ、中央にポールが立ってるインスタレーションだが、かたわらのモニターに目をやると、作者がポールダンスを踊ることによって発電し、家電製品を動かすというパフォーマンスをやってる。原発事故以来のエネルギー問題をポールダンスで解決しようというトンデモアートだが、パフォーマンスをやってないときはたんなるショボいインスタレーションだ。特別賞。あとおもしろかったのは、太田祐司の《ジャクソン・ポロックの新作をつくる》。横長のキャンバスに絵具をまき散らした絵画で、これだけではおもしろくもなんともないが、これもかたわらのモニターで、作者ではなくイタコのおばちゃんがポロックに憑依され、ポーリング(絵具を垂らす技法)する様子が映し出されている。このおばちゃん、きっとポロックのビデオを何度も見て練習したんだろう、なかなか堂に入った筆さばきで笑えるのだ。島本了多と山本貴大による《大学美術展覧会》も笑えた。美大のゴミ捨て場から拾ってきた数十点もの「作品」を展示しているのだ。大半はクズだが、なかにはちょっと気になる「作品」も。捨てた人が見たらどう思うだろうな。最後に、ベラボーではないけど、加納俊輔の《レイヤー・オブ・マイ・レイバー》。詳述する余裕はないが、一見ありがちなインスタレーションなのに、よく見ると「あれあれ?」って仕掛けが。こういうの好きだ。
2012/03/16(金)(村田真)
山根秀信 個展「風景」

会期:2012/03/12~2012/03/17
Gallery K[東京都]
山口市在住で、昨年の第65回山口県展大賞を受賞した山根秀信の個展。宅地造成した土地に住宅が点在する寂寥感のある風景を平面に描いてきたが、今回の個展では、それに加えて、米粒を敷き詰めたジオラマ作品も発表した。壁面に展示された水彩の鮮やかな彩りと白で覆われた床面の対比が美しい。しかもこれらの米粒はすべて山根が自ら育て、収穫したもので、それらを納めていた米袋も平面作品とあわせて壁面に展示されていた。それらを見ていると、食であろうと芸術であろうと街であろうと、人間は太古の昔より自然の恵みから多くを負ってきたという厳然たる事実を改めて思い知らされる。都市社会が成熟した反面、その暗部がまざまざと浮き彫りになっているいま、この食と芸術と都市が一体となった原点に回帰することが求められているのではないか。
2012/03/16(金)(福住廉)
第15回岡本太郎現代芸術賞展

会期:2012/02/04~2012/04/08
川崎市岡本太郎美術館[神奈川県]
岡本太郎現代芸術賞といえば、いまや日本の若手アーティストたちにとっての登竜門としてすっかり定着しているが、ここ数年の受賞作の傾向は全般的に定型化されている印象が否めない。それが自らの様式に呪縛されていった晩年の岡本太郎を彷彿させることはともかく、いずれにせよ審査員の全面的な入れ替えを断行しない限り、例えば「動脈硬化」に陥って久しいVOCA展やシェル美術賞と同じような末路をたどることは目に見えている。どういうわけか、選考する権力に固執する美術評論家や学芸員が多いが、おのれの存在が状況の停滞を招いているという客観的な事実が見えないようであれば、同時代の美術の動向を的確に見抜くことなどできるはずがないではないか。このようなコンクール展で頻出する、ある種の「遅さ」は、年に一度催されるという制度に端を発していると言われることが多いが、じつは、ひとえに選考する者自身の眼力に由来しているのである。
そのことを踏まえたうえで、なお本展で注目したのは、千葉和成。これまでダンテの『神曲』を現代的に解釈した作品を制作してきたそうだが、今回は東日本大震災における津波や地震、原発事故をモチーフとして盛り込んだ平面と立体を発表した。福島第一原発の地下に巣食う怪物によってメルトダウンの悪魔的な光景を描写した立体作品の迫力に比べると、平面作品は全体的に画面の構成が粗く、随所に仕掛けられたユーモアも逆効果に終わっているという難点がないわけではない。ただ、そうだとしても、画面の四方八方を貫く執拗な粘度は見る者の視線を惹きつけるには十分すぎるほどであり、これが近年の絵画に大きく欠落している特質であることには変わりがない。時事的な主題を強引に作品に取り込み、自らの世界観を更新してみせた力技も、評価できる。
2012/03/16(金)(福住廉)


![DNP Museum Information Japanartscape[アートスケープ] since 1995 Run by DNP Art Communications](/archive/common/image/head_logo_sp.gif)