artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

松井冬子 展 世界中の子と友達になれる

会期:2011/12/17~2012/03/18

横浜美術館[神奈川県]

かつてこれほどまでにコレクターが出しゃばった展覧会があっただろうか。コレクターのコレクションをまとめて披露する展覧会ならともかく、新進気鋭の日本画家による美術館での初個展である。通常であれば「個人蔵」と記されることが多いキャプションに、これみよがしに(としか見えない)個人名を露出させた光景は、まったくもって異様だった。絵を見る視線につねに所有者の暗い影がまとわりつくようで、鑑賞するうえで目障りなことこの上ない。記名された名前の大半が男性だったことから、美しい女性の日本画家の作品を「所有」していることを顕示する、きわめて男根主義的で下品な欲望の現われなのかと勘ぐりたくもなる。狂気や幽霊、情念を徹底的に追究しながらも、それらをあくまでも美しく表現するのが松井冬子の真骨頂だったはずだ。美しさを極限まで追究するがゆえに狂気を伴うといってもいい。このたびのコレクターの露出は、そうした完全無敵な美しさを内側から瓦解させかねない、著しい汚点であると言わざるをえない。コレクターの矜持が失われているのか、あるいは権威づけのための率先した戦略なのか、いずれにせよ今後の松井冬子には、そのような翳りを一切寄せつけない完璧な美を期待したい。

2012/03/07(水)(福住廉)

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MAMプロジェクト 016:ホー・ツーニェン

会期:2012/02/04~2012/05/27

森美術館ギャラリー[東京都]

植木の手入れをする老婆、ベッドに横になるデブチン、古道具屋の薄汚いおやじ……悪い夢みたいな映像。途中で出た。

2012/03/06(火)(村田真)

イ・ブル「私からあなたへ、私たちだけに」

会期:2012/02/04~2012/05/27

森美術館[東京都]

なにか既視感があるなあ。以前、国際交流基金フォーラムで主要作品を見たせいもあるが(そのときのほうがインパクトが大きかった)、それだけではない。まず思い出したのは、2年前に同じ森美術館でやった小谷元彦の個展。作品だけでなく展示構成や照明も似たような印象を受ける。そこからの連想ゲームで松井冬子、椿昇、草間彌生、ルイーズ・ブルジョワまで芋づる式に浮上してきた。芋づるといえば束芋も入れとこう。さてこれらに共通するものはなんだろう? たぶんそれは、ある種の内臓思考であり、甲殻嗜好であり、増殖志向だ。と思いつくことをテキトーに書いてみて、自分でなるほどと思った。これらはアートだけでなく近年のサブカルチャーの傾向でもあるのだ。彼女はしばしば韓国の政治・社会的問題と結びつけて語られがちだが、それよりむしろ同時代のサブカルチャーとのつながりを見たほうが理解しやすいかもしれない。

2012/03/06(火)(村田真)

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梅田哲也「待合室」

会期:2012/02/07~2012/03/15

オオタファインアーツ[東京都]

ギャラリーの前まで行くと内部が暗く、天井からなにかぶら下がっているのが見えたので、こりゃ工事中かと思ったら、「作品の一部は熱を帯びておりますのでご注意ください」みたいな注意書きが目に入る。つまり「そういう作品」なのだ。ギャラリー内では天井板がはがされ(元からあったっけ)、配管や空調機がむき出しになっている。一部の配管は垂れ下がり、先っぽから水が滴り落ちて床に置かれたタライにポタポタと。火の灯ったアルコールランプや袋入りの水苔など、とにかく意味ありげなものがいろいろとインスタレーションされている。貸し画廊じゃあるまいし、これでいったいなにを売ろうというのだろう。そのことも含めて、これはギャラリー空間をひと皮むくインスタレーションではないかと。

2012/03/06(火)(村田真)

藤信知子 展「花への挑戦状」

会期:2012/03/06~2012/03/11

ギャラリー恵風[京都府]

ろくろで成形した胴体に、人形や仮面などから型を取ったパーツを大量に貼り付けた過剰装飾の陶器を出品。作品はすべて花器で、花にちなんだタイトルが付けられている。花器であるにもかかわらず、花の引き立て役を拒否しているかのような主張の強さが印象的だ。過剰装飾の陶器はさほど珍しくないが、彼女の場合、型を用いて均質なモチーフを反復的に用いる点が独特だ。今後本人と話す機会があれば、モチーフの意図や造形との関係について詳しく聞いてみたい。

2012/03/06(火)(小吹隆文)