artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
踊りに行くぜ!!II[セカンド]vol.2 京都公演

会期:2012/03/10~2012/03/11
京都芸術センター[京都府]
コンテンポラリーダンスの普及を目的に10年間開催されてきた「踊りに行くぜ!!」がリニューアルして2010年にはじまったプログラム。新作のアイデア公募により作品およびアーティストを選出し、8月~12月にかけて制作、完成した作品が全国を巡回上演する。公演にはAプログラムとBプログラムの2種類があり、Bプログラムは開催地ごとに上演作品が異なるため、各会場によって内容の趣きも違うものになるという。京都では初公演であった今回は、Aプログラムに青木尚哉、菅原さちゑ(東京)の2作品、Bプログラムには坂本公成(京都)が鳥取のコミュニティダンスチーム“とりっとダンス”と制作した作品が上演された。コンテンポラリーダンスについてはまったく門外漢なのだが、この日一番に上演された菅原さちゑの『MESSY』は特に印象に残った。色とりどりの服やハイヒールが散乱するステージで3人の女性がじゃれ合ったり(?)暴れながら服を脱がし合っていくパフォーマンス。捲し立てる勢いの長いセリフも、登場する3人の女性のやりとりもユーモラスで激しい印象なのだが、アイデンティティや自分と他者との判然としない関係について思いを巡らせる作品で、後からいくつもの場面を思い起こすものだった。
踊りに行くぜ!! II [セカンド] vol.2 京都公演 予告編
2012/03/10(土)(酒井千穂)
郷津雅夫「WINDOWS」

会期:2012/03/09~2012/04/07
KOKI ARTS[東京都]
郷津雅夫は東洋美術学校を卒業後、1971年に渡米し、ニューヨークを拠点に活動してきた。近年はニューヨーク郊外に移り、石彫作品を中心に発表している。それ以前は、取り壊された家の窓枠を周囲の煉瓦ごと組み立て直してインスタレーションする作品を制作していたが、その発想の元になったのが今回展示された「WINDOWS」のシリーズである。渡米直後からニューヨークのダウンタウンの窓にカメラを向け、パレードを見る人々を撮影したこのシリーズは、郷津の初期の代表作であり、今見ても色褪せない魅力を発している。
異邦人である郷津にとって、ニューヨークの「窓」は、文字通り目の前で閉じられているように感じていたに違いない。それらが大きく開け放たれ、住人たちが姿を現わす瞬間を撮影することは、心が大きく弾むような歓びを与えてくれたのではないだろうか。どちらかといえばあまり裕福ではない人々が多く住む地域で撮影しているにもかかわらず、そこには彼らとのポジティブな心の交流が感じられるのだ。
「WINDOWS」のシリーズは、1980~90年代にアメリカと日本で何度か展示され、『IN NEW YORK』と題されたアーティストブックとして、郷津自身の手で三度にわたって出版された。今回展示された大判ヴィンテージ・プリント(20×16インチ)には、その頃の空気感が凝縮して封じ込められているように見える。あらためて高く評価してよい作品ではないだろうか。
2012/03/09(金)(飯沢耕太郎)
平松伸之「Bricolage」/栗山斉「impermanent preservation[sunflower project]」/名古屋芸術大学“メディア系”シリーズ展示7

アートラボあいち[愛知県]
会期:2012/02/22~03/10、2012/02/29~03/11、2012/03/03~03/14
名古屋の長者町にあるアートの拠点では、各階でいつも若手作家の展覧会を行なっている。やはり当たり外れはあるのだが、今回は3フロアともにおもしろい作品が重なった。地下では、平松伸之の名古屋を舞台にした演歌のカラオケ風映像とあいちトリエンナーレ2013の芸術監督である筆者へのメッセージ、2階では、栗山斉のヒマワリと放射線の関係を示唆する静謐な作品、そして3階の名古屋芸術大学のメディア系シリーズ展示では、菅沼朋香による名古屋の昭和スポットめぐりのプロジェクトである。
写真:上=栗山斉、下=菅沼朋香
2012/03/08(木)(五十嵐太郎)
山口晃 展 望郷

会期:2012/02/11~2012/05/13
メゾンエルメス8階フォーラム[東京都]
震災の影響を受けたアーティストは多いが、それを作品に反映させるアーティストは少ない。それは私たちが震災に衝撃を受けながらも、そのことを普段の生活にあえて表面化させない身ぶりと似ているのかもしれない。だが、アーティストと自称するのであれば、凡人とは異なる才覚や感性を見せてもらいたいと願うのもまた、凡人ならではの中庸な考え方である。
今回の個展で山口晃は、ストレートな表現を卑下して、へんにひねりを効かせがちな現代美術の作法とは対照的に、それをじつに素直に、一切隠すことなく詳らかに見せているが、そこに、彼が類い稀なアーティストである所以を垣間見たような気がした。展示されたのは、真っ黒に塗られた電柱の列と傾いた部屋のインスタレーション、そして東京をおなじみの俯瞰で描いた大きな襖絵である。黒い電柱はあの恐るべき黒い津波を、傾いた部屋は地震によって揺るがされて均衡を失った都市生活を、それぞれ暗喩していたようだし、制作途中のためだろうか、色がない襖絵にも、高層ビルに匹敵するほど巨大な防潮堤が描かれている。空前の大震災を前に、激しく狼狽する山口自身の姿が透けて見えるようだ。
制作途中のため予断は許されないが、さしあたりアイロニーとユーモアが大きく欠落しているところも、今回の大きな特徴である。山口晃といえば、過去と現在と未来が融合した都市風景を香味の効いた皮肉と小さな笑いによって描き出す絵描きとして語られることが多いが、今回の襖絵には、そのような遊び心に満ちた要素が、いまのところ一切見当たらない。ただ淡々と、想像的な建築様式とともに東京の街並みを描いているような印象なのだ。
この劇的な変化は、疲弊した都市をゼロから組み立てなおす意気込みの現われなのだろうか。それとも、これまで山口が描いてきたフィクションとしての夢物語が現実的な到達目標に見えてしまうほど、現実が想像に肉迫してしまった事態への戸惑いなのだろうか。あるいはもっと別の何かなのか。その答えはまだ見つかっていない。
2012/03/08(木)(福住廉)
笹岡啓子「Difference 3.11」

会期:2012/03/07~2012/03/13
銀座ニコンサロン[東京都]
ニコンサロンの連続企画展「Remembrance3.11」の第2弾。笹岡啓子は2010年4月17日に岩手県陸前高田市を撮影したのを皮切りに、岩手、宮城、福島の太平洋沿岸の各地を何度も訪れて被災地にカメラを向けた。笹岡は広島の出身なので、さまざまな場所で原爆投下直後の状況を思い起こさないわけにはいかなかったという。
だが、展示されている写真を見ると、笹岡がつとめて冷静に、そこにある光景を写しとろうと心がけている様子が伝わってくる。ハッセルブラッドに6×4.5判のデジタルCCDをつけて撮影したイメージは、細部まで丁寧に押さえられていて、その眺めを記録し、保存しておくという彼女の意志が明確に伝わってくるのだ。むしろ極力表現的な意識を抑制する態度で撮影された写真群こそが、クオリティの高い記録として残っていくのではないだろうか。もうひとつ重要なのは、展示において岩手や宮城と福島の写真の「Difference(違い)」が強調されていることだろう。瓦礫に覆われた津波の被害地と対照的に、福島県南相馬市、飯館村などの光景は、「3.11」以前とまったく変わっていないように見える。いうまでもなく、放射能汚染の爪痕がそこここに残っているわけだが、それが写真に写っていないことが逆に怖さを増幅させる。そのあたりにも、笹岡の批評意識がきちんと表われているといえるだろう。なお、本展は3月29日~4月4日に大阪ニコンサロンに巡回した。
新宿ニコンサロンでは同時期に田代一倫「はまゆりの頃に」が開催されていた。こちらは岩手県から福島県まで、被災地と内陸部の人々のポートレートを粘り強く撮影し続けた労作である。
2012/03/07(水)(飯沢耕太郎)


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