artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
藤牧義夫 展 モダン都市の光と影

会期:2012/01/21~2012/03/25
神奈川県立近代美術館 鎌倉[神奈川県]
1930年代の創作版画の一翼を担った藤牧義夫の回顧展。版画や素描、葉書など、およそ200点が展示された。なにより30年代の街並みを忠実に反映しているように思える陰影に富んだ版画の迫力がすばらしい。同じ図像でも版によってテクスチュアが異なることを見せるために複数点を同時に展示するなど、見せ方もおもしろい。本展の見どころは幅25センチ、全長13メートルを超える白描絵巻で、たしかに見応えがあったものの、むしろ注目したのはポスターでたびたび発揮された創作的な文字の数々。《新版画集団4回展ポスター(バレンと手)》(1934)には、「新版画集団個展」という文字が縦方向に並べられているが、このうちの「個」の文字が「4回」とも読めるように組まれており、4回展の意味合いを重ねた遊び心が発揮されていることがわかる。ここには、版画を版画として自立させようとする純粋芸術の志向性というより、むしろ文字というもっとも身近で、だからこそもっとも改変しやすい素材を使って遊ぶ限界芸術のそれが明らかにうかがえる。藤牧によるレタリングは、例えば佐藤修悦によるガムテープ文字に継承されているのではないか。
2012/03/22(木)(福住廉)
村山知義の宇宙 すべての僕が沸騰する

会期:2012/02/11~2012/03/25
神奈川県立近代美術館 葉山[神奈川県]
なにもないからこそ、なんでもやる。関東大震災にせよ、東京大空襲にせよ、広島・長崎への原爆投下にせよ、私たちの先達たちは焦土と化した焼け野原からいくども立ち上がり、その都度いくつもの文化や芸術を生み出してきた。村山知義の回顧展をつぶさに見て思いを新たにしたのは、豊かな芸術は貧しさのなかから生まれるという厳然たる事実。演劇から美術、写真、書籍、看板、はては建築にいたるまで、村山が手がけた創作物はじつに広範なジャンルに及んでいる。大量に集められた展示物の物量が、村山自身の貪欲な創作意欲を物語っているようで、まさしく沸騰する村山の迫力に圧倒されてやまない。それらのいずれもが貧しい時代の只中でなんとかやってきた格闘の痕跡と言えるが、村山が苛まれていた貧しさとはまた別の貧しさが世界を覆いつつある現在、はたして野性的で生命力にあふれた、新しい芸術は生まれるのだろうか。
2012/03/21(水)(福住廉)
宍戸清孝「Home」

会期:2012/03/20~2012/03/26
新宿ニコンサロン[東京都]
銀座ニコンサロン、新宿ニコンサロンを舞台に開催されてきた「Remembrance 3.11」の展示も最終回を迎えた。とてもよい企画だったのだが、前にも書いたように東北在住の写真家たちの写真展が少なかったのがやはり気になる。今回の宍戸清孝(仙台市在住)の展示を見て、あらためてその感を強くした。別に東京や他の地域から被災地に向かった写真家たちの仕事を軽視しているわけではない。誠実に、自分の視点で撮影に取り組んだ写真を、今回の企画でも数多く目にしてきた。だが、宍戸のような地元の写真家の仕事ぶりは、その厚みと生々しさにおいてやはり違いを感じないわけにはいかないのだ。
宍戸は仙台の事務所で被災し、4日後の3月15日に、アシスタントの菅井理恵(福島県出身)とともに初めて仙台湾岸の名取市閖上を撮影した。自衛隊員が遺体を毛布に丁寧に包んでいる様を見て、「胸がいっぱいになってしまい、カメラを持つ手が震えた」という。それからは、もう二度と被災地には行きたくないという気持ちと、「撮らなければ」という思いとの間で、ずっと長く葛藤が続いた。今回の「Home」展に展示された写真の一枚一枚に、その激しい心の揺らぎと、撮り続けていくなかで少しずつ芽生えてきた再生の兆しに託した希望とが刻みつけられている。まさに渾身の写真群であり、日系米軍兵士の戦後を追った「21世紀への帰還」など、長くドキュメンタリー写真の分野で活動してきた宍戸にとっても、この1年は覚悟を決めてひとつの壁を乗りこえていく大事な時期になったのではないだろうか。写真展にあわせて仙台市若林区の出版社から刊行された写真集『Home 美しい故郷よ』(プレスアート)も高精度の印刷、質の高いデザインの力作である。
なお、同時期に銀座ニコンサロンでは吉野正起「道路2011─岩手・宮城・福島─」(3月21日~27日)が開催された。震災後の「道路」を淡々と撮影したシリーズだが、福島県の農道を何気なく塞いでいる「立入禁止」の看板が、どうしても目に残ってしまう。
2012/03/21(水)(飯沢耕太郎)
プレビュー:加藤浩史「SHERTER」

会期:2012/03/20~2012/04/01
ギャラリーマロニエ[京都府]
家もしくは矢印を思わせる形態の小オブジェが多数出品されていた。壁面にはレリーフ型の作品数点も。シャープな造形とメタリックな彩色のため、金属か樹脂が素材かと思ったが、よく見ると木目がうっすら透けて見え、すべてが木工作品だとわかった。作者の加藤は長らく金工を手掛けていたが、近年木工に転じたとのこと。フォルムと素材と塗装のギャップに惹きつけられてしまった。展覧会タイトルの「SHELTER」には「小屋」の意味があり、そこから転じて人間生活の要である衣食住の住にも通じる。それゆえ金属ではなく人肌の温かみが感じられる木を素材にしたのかもしれない。
2012/03/20(火)(小吹隆文)
プレビュー:ART KYOTO 2012

会期:2012/04/27~2012/04/29
国立京都国際会館、ホテルモントレ京都[京都府]
2010年に「アートフェア京都」として産声を上げた京都発のアートフェアが、3年目にして大変身する。名称を「ART KYOTO」に改め、会場は国立京都国際会館とホテルモントレ京都の2カ所に拡大。そこに国内外の100画廊が集結するのだ。2つの会場は地下鉄一本で連絡しているため、移動は思いのほか簡単。さらに、市内各地で複数の公式関連イベントが同時開催されるため、GWの京都はアートイベントが目白押しとなる。東日本大震災、原発事故、不況、円高と逆風が続く今の日本だが、そんな状況下であえて攻めの姿勢を貫く同フェアが成功を収めれば、京都が東京に次ぐ第2の現代アート・マーケットとして広く認識されることになるだろう。
2012/03/20(火)(小吹隆文)


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