2021年10月15日号
次回11月1日更新予定

artscapeレビュー

野口里佳「光は未来に届く」

2012年03月15日号

会期:2011/09/11~2012/03/04

IZU PHOTO MUSEUM[静岡県]

静岡県長泉町のIZU PHOTO MUSEUMの展覧会は、会期は長いのだが、遠いので油断していると行きそびれてしまう。2011年9月から開催されていた野口里佳展も、なんとか間に合って見ることができた。
野口は1995年、写真ひとつぼ展と写真新世紀でグランプリをダブル受賞してデビューした。当時から評価が高かったわけだが、そのテンションをその後15年以上も持続しているのは凄いことだと思う。勢いで走るだけではなく、その間にインプットとアウトプットのシステムを自分のなかで確立しなければならないからだ。今回の展示は、その野口のデビュー作、建築工事現場をモノクロームで撮影した「創造の記録」(1993~96)から近作までを、8つのパートに分けて展示している。その多面的な作品群を見ていると、「フジヤマ」(1997)や「飛ぶ夢を見た」(2003)などで、距離を置いて被写体を見渡すスケール感のある風景写真のスタイルを確立したあと、彼女がむしろ自分の作品世界を拡大、再構築する方向に進みつつあることがよくわかる。ピンホールカメラやシルクスクリーンなどの手法の冒険、レンズのついていないスライドプロジェクターを使った映像作品など、意欲的に作品の領域を広げつつ、そのクオリティは保ち続けている。
もともとインスタレーションのうまさには定評があり、写真を使う現代美術作家と見られることも多い(本人もそう思っているかもしれない)野口だが、こうして見ると彼女のバックボーンはやはり「写真家」なのではないだろうか。つまり手法が一人歩きするのではなく、身体─カメラ─現実という関係のあり方が、しっかり確立していて揺るぎがないのだ。しかも「アフリカのコウノトリ」からライトボックスの上の虫まで、日常的な出会いを自分の作品世界のなかに取り込んでいく柔らかな視覚のシステムを構築している。野口の15年間の歩みを見ると、2000年代以降に登場してきたより若い世代にとってのいい目標になるのではないかと思う。彼女の後に続く「写真家」たちには、さらに厚みのある仕事を展開していってほしいものだ。

2012/02/12(日)(飯沢耕太郎)

artscapeレビュー /relation/e_00014585.json l 10024185

2012年03月15日号の
artscapeレビュー

文字の大きさ