2020年02月15日号
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artscapeレビュー

ホンマタカシ「その森の子供 mushrooms from the forest 2011」

2012年02月15日号

会期:2011/12/17~2012/02/19

blind gallery[東京都]

ホンマタカシは大森克己と日本大学芸術学部写真学科の同級生だったはずだが、その写真家としての方向性はかなり違っていた。だが、「3・11」後の行動パターンがどこか重なり合ってきているのが興味深い。大森が福島県に桜を撮りに行ったのに対して、ホンマはきのこに目を向けた。実は福島第一原子力発電所の事故後に飛散した放射能の影響を最も大きく被った生きもののひとつは、きのこなのだ。政府は2011年9月15日に、福島県内で採集したきのこを出荷するのを禁じる通達を出す。森の隅々に菌糸を伸ばしているきのこは、その細胞組織に放射能を蓄積しやすいのだ。
ホンマはその後、福島の森に入り、きのこたちと彼らを取り巻く森の環境を撮影し続けた。本展にはそのうち22作品(隣接するブックショップPOSTにも2作品)が展示されていた。もっとも、ホンマはすでに震災前からきのこを撮影し始めており、その一部は昨年5月のLim Artでの個展「between the books[Mushroom…]」でも展示されている。今回の個展は手法的にも内容においてもその延長線上にあるものだが、たしかに震災によって写真の見え方が大きく変わってしまったことは間違いないだろう。
とはいえ、ホンマのきのこ写真を震災と関連づけて見るだけでは、その面白さを取り落としてしまうことになる。きのこはその形や色の多種多様さだけでなく、脆さ、儚さ、変幻自在さを含めて、いかにもホンマ好みの被写体なのではないだろうか。本展が「その森の子供」と名づけられていることに注目すべきだろう。彼には『東京の子供』(リトルモア、2001年)という写真集がある。バブル崩壊以後の都市の日常を生きる子供たちの、壊れやすい存在の形を繊細な手つきで写しとった写真集だが、これらのきのこ写真にも、どこか共通したたたずまいを感じるのだ。きのこについた土や落葉、ナメクジなどを含めて、白バックで、さりげなく、だが注意深く撮影することで、彼らの「森の子供」としての魅力がいきいきと伝わってくる。少なくとも僕の知る限り、きのこをこのように捉えた写真のシリーズはこれまでなかった。
なお、本展に合わせて同名の写真集(発行=blind gallery、発売=Lim Art)も刊行されている。田中義久のデザインによる、すっきりとした、端正な造本がなかなかいい。

写真=ホンマタカシ《その森の子供 #8》(2011)
タイプCプリント、267mm×337mm

2012/01/05(木)(飯沢耕太郎)

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