artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
鈴木省三 展 天空が近づく

会期:2011/08/25~2011/08/27
The Artcomplex Center Tokyo[東京都]
画家、鈴木省三の個展。100号ほどの大きな抽象画20点あまりをずらりと並べ、あわせていくつかの小品も一挙に展示した会場には、抽象画ならではの緊張感と迫力がみなぎっていた。発表されたのは、色彩が乱舞する背景の上に黒く太い直線を構築した絵画。黄緑色の曲線が浮遊感のある柔らかな運動性を、黒い直線が激しく上昇する運動性をそれぞれ別々の水準で感じさせているため、見る者の視線は画面の隅々まで異なるリズムで誘導される。抽象画とはじつに音楽的な絵画であることを改めて感じさせる展覧会だ。
2011/08/27(土)(福住廉)
名和晃平─シンセシス

会期:2011/06/11~2011/08/28
東京都現代美術館[東京都]
是が非でも見ておかねばと思っていた展覧会に、会期末直前に滑り込みで間に合った。本展絡みで作家本人に取材をしていたので、制作中の作品を見ていたし、展覧会の概要も知っていた。しかし、頭で思い描くのと生で見るのとでは大違いだ。こちらのイメージを楽々と上回るスケールの大きな展示に、文字通り圧倒された。個々の作品はもちろんだが、彼の場合、展覧会全体のパッケージングが非常に優れている。起伏を持った展示で観客を飽きさせず、最後までフレッシュな感動を保ち続けるのだ。特に、空間ごとに繊細な味付けを施した照明の見事さは特筆ものだ。
2011/08/26(金)(小吹隆文)
博物館網走監獄

博物館網走監獄[北海道]
なぜか網走なう。網走といえば監獄、そこで明治23年に誕生したという網走監獄の博物館を訪れる。「網走監獄博物館」ではなく、博物館を前にもってくるところに日本一有名な(悪名高いともいえる)監獄としての「どや感」が漂う。首都大学東京みたいなもんだ。ぜんぜん違うか。丘の中腹に移築または復元した監獄建築は重厚な存在感を放つが、囚人や看守のマネキンや当時の労働風景を再現したジオラマなどは、本来の意図とは別の哀れさを感じさせないでもない。館内の食堂で監獄食をいただく。受刑者と同じメニューだというが、麦メシに魚と副菜2品、みそ汁がついた定食は思ったより豪華。もっと質素かと思った。それでも700円(サンマ)か800円(ホッケ)もするのは高いのではないか。もっともこれは観光用の値段で、囚人用はもっと安上がりだろうけど。売店には「網走監獄」の商標が入ったグッズや、「出所しました」というキャッチコピー入りの商品が並び、他のミュージアムショップとはあきらかにベクトルが異なる。負のイメージを逆手にとった自虐戦略なのだ。
2011/08/26(金)(村田真)
ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展2011

会期:2011/06/04~2011/11/27
ジャルディーニ(Giardini di Castello)地区、アルセナーレ(Arsenale)地区ほか[イタリア]
2006年以来、毎年この街を訪れている。だが、津波や冠水の被害を目撃した3.11以降に海からヴェネツィアを眺めると、怖さの感覚を拭いさることができない。岩手で防波堤に囲まれた、海が見えない海辺の街を数多く見た後だと、津波は来ないかもしれないが、ときどき冠水は起きて、被害は受けているにもかかわらず、防波堤どころか、水辺に手すりすらないことに改めて気づかされる。むろん、こうした土木的な要素を付加すれば、観光都市の風情は台無しになるだろう。ヴェネチアが選択した覚悟は興味深い。
美術展の全体テーマは、「イルミ・ネイションズ」である。イタリア館の中央にティントレットの作品を三つ配し、そのまわりに光などをテーマにした多様な作品群が展開。アルセナーレの会場にも、目玉の絵画と呼応する作品が点在し、展示を引きしめる。また今回のパラ・パヴィリオンの試みも興味深い。会場内に入れ子で小展覧会が開催されているかのようだ。ところで、クリスチャン・マークレーの作品「時計」には驚かされた。あらゆる映画から時計のシーンを抜き出し、24時間を構成し、会場でリアルタイムに上映する。全映画史が一日に凝縮されると同時に、今の時間と接続しているのだ。どうやって厖大な映画を収集したのだろう。もうひとつ特徴的なのは、女性のアーティストが多いこと。一方、日本人はゼロなのが寂しい。建築のビエンナーレだと考えられない状況である。
ジャルディーニ会場における国別では、圧倒的なドイツ館(ただし、教会空間の手法を利用しているのは、ずるいような気もするが)、フランス館、イギリス館が力作だった。日本館における束芋の展示は、曲面映像があの使いにくい空間にあうか心配していたが、鏡を効果的に使いつつ、中心に下のピロティに抜ける井戸をつくり、成功していた。それにしても、3.11以前に構想された街と水の映像は、予想以上に津波を連想させる。たぶん外国人はなおさらだ。しかし、これで作品の意味に幅が広がったと思う。
会場外のパヴィリオンでは、音をテーマにしつつ、喧騒の街に安らぎの場を与えながら、池田亮司ばりのサウンドからリサイクル品の楽器まで、いろいろな音を紹介した台湾が良かった。街に散らばった展示はすべてを訪れるのが不可能なくらい多いだけに、いまいちの作品も少なくない。が、その過程で初見の古建築に出会う。全然知らなかったが、素晴らしい教会の空間に感銘を受けると、ダメな現代アートの100万倍素晴らしい。そりゃそうだ。当時のすぐれたアーティストが参加しているし、凡庸な現代建築よりも、歴史に耐えて残っている古建築のほうがはるかにすぐれている。ともあれ、あいちトリエンナーレで試みている街なか展開は、本家のビエンナーレで大量に実践されていることを確認した。
写真:上から、Monica Bonvicini(アルセナーレ)、Song Dong(アルセナーレ)、ドイツ館、フランス館、日本館
2011/08/23(火)~08/26(金)(五十嵐太郎)
森下泰輔「濃霧」

会期:2011/08/18~2011/08/27
アートラボ・アキバ[東京都]
霧が立ちこめるギャラリーに入ると、テレビモニターからは福島第一原発の映像が流れ、ときおり不気味なノイズが発せられる。奥には金と銀に塗られた骸骨も立っていて、不穏な空気に拍車をかける。降り注ぐ原発からの放射線を使ってノイズを鳴らすという試みだそうだ。なるほど、これからはガイガーミュージックとも呼ぶべき新たなジャンルが確立されるかもしれない。立方体に近いコンクリート製のこのギャラリーも、映像で見慣れてしまったあの建屋の内部を連想させ、舞台としてはぴったり。作者によれば、このインスタレーションは日本の将来を暗示する「五里霧中」をコンセプトとしているという。
2011/08/23(火)(村田真)


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