artscapeレビュー
ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展2011
2011年09月15日号
会期:2011/06/04~2011/11/27
ジャルディーニ(Giardini di Castello)地区、アルセナーレ(Arsenale)地区ほか[イタリア]
2006年以来、毎年この街を訪れている。だが、津波や冠水の被害を目撃した3.11以降に海からヴェネツィアを眺めると、怖さの感覚を拭いさることができない。岩手で防波堤に囲まれた、海が見えない海辺の街を数多く見た後だと、津波は来ないかもしれないが、ときどき冠水は起きて、被害は受けているにもかかわらず、防波堤どころか、水辺に手すりすらないことに改めて気づかされる。むろん、こうした土木的な要素を付加すれば、観光都市の風情は台無しになるだろう。ヴェネチアが選択した覚悟は興味深い。
美術展の全体テーマは、「イルミ・ネイションズ」である。イタリア館の中央にティントレットの作品を三つ配し、そのまわりに光などをテーマにした多様な作品群が展開。アルセナーレの会場にも、目玉の絵画と呼応する作品が点在し、展示を引きしめる。また今回のパラ・パヴィリオンの試みも興味深い。会場内に入れ子で小展覧会が開催されているかのようだ。ところで、クリスチャン・マークレーの作品「時計」には驚かされた。あらゆる映画から時計のシーンを抜き出し、24時間を構成し、会場でリアルタイムに上映する。全映画史が一日に凝縮されると同時に、今の時間と接続しているのだ。どうやって厖大な映画を収集したのだろう。もうひとつ特徴的なのは、女性のアーティストが多いこと。一方、日本人はゼロなのが寂しい。建築のビエンナーレだと考えられない状況である。
ジャルディーニ会場における国別では、圧倒的なドイツ館(ただし、教会空間の手法を利用しているのは、ずるいような気もするが)、フランス館、イギリス館が力作だった。日本館における束芋の展示は、曲面映像があの使いにくい空間にあうか心配していたが、鏡を効果的に使いつつ、中心に下のピロティに抜ける井戸をつくり、成功していた。それにしても、3.11以前に構想された街と水の映像は、予想以上に津波を連想させる。たぶん外国人はなおさらだ。しかし、これで作品の意味に幅が広がったと思う。
会場外のパヴィリオンでは、音をテーマにしつつ、喧騒の街に安らぎの場を与えながら、池田亮司ばりのサウンドからリサイクル品の楽器まで、いろいろな音を紹介した台湾が良かった。街に散らばった展示はすべてを訪れるのが不可能なくらい多いだけに、いまいちの作品も少なくない。が、その過程で初見の古建築に出会う。全然知らなかったが、素晴らしい教会の空間に感銘を受けると、ダメな現代アートの100万倍素晴らしい。そりゃそうだ。当時のすぐれたアーティストが参加しているし、凡庸な現代建築よりも、歴史に耐えて残っている古建築のほうがはるかにすぐれている。ともあれ、あいちトリエンナーレで試みている街なか展開は、本家のビエンナーレで大量に実践されていることを確認した。
写真:上から、Monica Bonvicini(アルセナーレ)、Song Dong(アルセナーレ)、ドイツ館、フランス館、日本館
2011/08/23(火)~08/26(金)(五十嵐太郎)