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美術に関するレビュー/プレビュー

プレビュー:森村泰昌 なにものかへのレクイエム

会期:2011/01/18~2011/04/10

兵庫県立美術館[兵庫県]

2010年3月の東京都写真美術館を皮切りに、豊田市美術館、広島市現代美術館で開催されてきた本展が、最終巡回地の兵庫県立美術館にようやくやって来る。20世紀の歴史を彩った男たちに扮して、時代の核心に触れるような感覚で制作された写真、映像の数々が、広大な展示スペースを持つ兵庫県立美術館でどのように展示されるのかに注目したい。特に新作映像作品《海の幸・戦場の頂上の旗》は、かつてないほど雄弁に森村の芸術観が表明されている。彼の写真作品しか知らない人は是非見ておくべきだ。なお、兵庫県立美術館では本展に合わせて小企画展「『その他』のチカラ。──森村泰昌の小宇宙」を同時開催する。コレクターのO氏が収集した森村作品は、普通のコレクターでは入手しえないレアアイテムの宝庫。併せて観賞すれば、感動もひとしおである。

2010/12/20(月)(小吹隆文)

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ドマーニ・明日展 2010

会期:2010/12/11~2011/01/23

国立新美術館[東京都]

なんだろう、この満たされない気分は。出品者は三好耕三、遠山香苗、流麻二果、深井聡一郎、赤崎みま、町田久美ら12人で、いずれも文化庁から海外研修に派遣された作家ばかり。その成果発表の場なのに、というか、成果発表の場だからなのか、ちっとも熱が感じられない。個々には、特定の形態にこだわる三好の写真や、清新な色彩と思い切りのいい筆跡の遠山や流の絵画、彫刻を相対化したような深井のユーモラスな陶など好みの作品はあるものの、会場が広くて天井が高く観客も少ないせいか、白く冷たい空間ばかりが目立ち、おまけに各作家ごとのつながりが希薄なため、作品同士が相乗効果を生み出すどころか相殺し合っているようにも感じられるのだ。だいたい出品作家は文化庁から派遣されたという共通項があるだけで、ジャンルも派遣年度も派遣先も異なっており、しかも展示の順序は派遣年度順に並べただけというお役所的なもの。国税で派遣したのだから成果を見せてという事務的手続きからは、つくる喜びも見る楽しみも生まれない。葉山の「プライマリー・フィールドII」とは正反対の人選・展示である。

2010/12/20(月)(村田真)

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大和田良「Wine Collection」

会期:2010/12/01~2011/12/25

エモン・フォトギャラリー[東京都]

4月から9月にかけてキヤノンギャラリー銀座をはじめ各地で開催された個展「Log」、写真論集『ノーツ・オン・フォトグラフィ』(リブロアルテ)の刊行など、2010年は大和田良にとって大きな飛躍の年だった。その最後の時期にエモン・フォトギャラリーで開催された「Wine Collection」展も、これまでの彼の仕事とはひと味違った領域に踏み出そうという意欲を感じさせる作品である。
スナップショットやポートレートを中心に制作してきた大和田が、今回は徹底した「抽象」の世界にチャレンジしている。赤~黒の微妙なグラデーションを浮かび上がらせる写真の展示は、一見カラーチャートを羅列したようだ。だがそれが、何種類ものヴィンテージワインを撮影したものだということがわかると、また別の思いが湧き上がってくる。ワインは特にヨーロッパの歴史において、重要な文化的な意味を担ってきた飲み物である。「キリストの血」がワインによって表象されるということだけでも、その深みと広がりがただ事ではないことがわかるだろう。そのワインを、純粋な色彩の表現としてとらえるために、大和田は実に巧みな操作を行なっている。ボトルに入った状態のワインを撮影し、後でそのデータからガラスの緑色を抜き取るというアイディアである。このような「手法」の開拓は、写真家が何か新たな領域に踏み込む時には必ず必要になってくることで、それを大和田はあまり気負うことなく軽やかにやってのけた。そのために、作品そのものも重苦しくなく、すっきりとした仕上がりになっている。

2010/12/18(土)(飯沢耕太郎)

石内都 展「ひろしまsix」

会期:2010/11/13~2010/12/18

The Third Gallery Aya[大阪府]

被爆者が着ていた服や身につけていたものなど、その遺品を撮影した「ひろしま」のシリーズの6回目の展覧会。前日に精華大学で映画『ANPO』の上映とともに開催されたシンポジウムで、石内都さん自身から語られた「ひろしま」の作品をめぐるエピソードやこの制作への決意など、そのときの言葉を思い出し、自分なりに咀嚼しながら作品を鑑賞できたのは有り難い気がする。継ぎ接ぎ部分やすり切れた部分に目をやると、それを着用していた人の生活や風貌にまで想像が膨らんでゆく。古びたものや被爆者の遺品としてそのイメージが誘発されるというのではない。そもそもそのように見えないように撮影、展示されている写真なのだが、実についさっき脱ぎ捨てられ、体温の生々しい温度がまだ残るものを目の当たりにしているような感覚。“そのとき”まで着られていた服の数々が、風化することなく持ち主の個性を掬いあげていくようで、動揺する。奇麗な模様や柄のブラウスや持ち物は、モノと人間との関係も含めつぎつぎと連想を巡らせてやまない。 訪れたのは最終日だったが見ることができてよかった。

2010/12/18(土)(酒井千穂)

『ANPO』上映/シンポジウム:アートの社会的有用性──アーティストにとって「芸術が何か」

会期:2010/12/17

京都精華大学明窓館201[京都府]

60年安保当時を知るアーティストたちの証言やその表現、当時のマスメディアの報道などから、日本で生まれ育ったアメリカ人のリンダ・ホーグランド監督が 、日米関係を独自の視点で問い直す 映画『ANPO』。 この映画上映の後、やなぎみわ氏の司会進行で、ホーグランド監督と出演者でもある写真家の石内都氏によるシンポジウムが開催された。映画はナレーションも字幕もないかわりに、美術作品のディティールが映し出される時間が長い。アートを通じて画面に登場する人々の主観的記憶を蘇らせ、鑑賞者にそれらからなにを感じるのか問いたいという監督は、10歳の頃に通っていた小学校で原爆教育を受けて以来、アメリカ人としてつねにある「加害者」意識を抱えてきたという。両国で伝えられる戦争体験やその歴史教育の大きなギャップをリアルに体験してきた監督のまなざしが、急ぎ足ながらもやなぎと石内の二人のゲストアーティストを通じて丁寧に検証され、紹介された。普天間基地の問題で翻弄され続ける沖縄の現状ともリンクしていくホーグランド監督自身の言葉は、メディアによって隠蔽され人々に見過ごされがちになっていくものや歴史として伝えられるものへの注視をうながす誠実な姿勢がうかがえるもので、会場を出た後もずっしりと重く感じられた。実際に安保当時を知る人は、会場にはほとんどいなかっただろうが、憲法九条の意味を、若者たちや戦争体験者が命がけで問うたこの時代の延長上に、自分が自由を得ているということをリアルに感じられたこのイベント。いま、この映画が、とくに芸術大学で上映され、アーティストを交えたシンポジウムが開催されるということはとても意味が大きいと思う。他大学でもぜひ開催してほしい。

2010/12/17(金)(酒井千穂)