artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

小谷元彦展:幽体の知覚

会期:2010/11/27~2011/02/27

森美術館[東京都]

あけましておめでとうございます。と、すでに2月に入ってこれを書いている。元旦は森美術館に初詣して、近くの朝日神社で小谷展を見る。反対ですね。でも神社仏閣教会でこの展示を見ても違和感がなかったかもしれない。それほど「あちら側」を感じさせる作品群だった。ちょうど1年前の「医学と芸術展」を思い出したのも僕だけじゃないだろう。実は小谷展は11月の内覧会でも見ていたが、そのときは急いで一周しただけだったのであらためてじっくり見ようと思っていたのに、今日は子ども連れなのでやっぱりじっくり見られなかった。でも子どもにもちゃんと伝わってきたようですね。ちなみに、某大学で「なんでもいいから展覧会を見て感想を書け」というレポート課題を出したら、約100人中5人が小谷展について書いてきた。これはBunkamuraの「モネとジヴェルニーの画家たち」、横浜美術館の「ドガ展」に次ぐ3位で、国立新美術館の「ゴッホ展」と同数だった。印象派と肩を並べる人気なのだ。もっと意外だったのがその感想で、難解だとか理解できないといった意見はほとんどなく、「楽しめた」「メッセージがダイレクトに伝わってくる」という意見が多かったこと。若い世代にはちゃんと伝わっているのだ。

2011/01/01(土)(村田真)

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「Mondrian / De Stijl(モンドリアン/デステイル)」展

会期:2010/12/01~2011/03/21

ポンピドゥー・センター[パリ]

展覧会の前半は、モンドリアンのよく知られたスタイルの絵に到達するまでの道程を、1911年から1942年まで、年度ごとの部屋をたどりながら、詳しく紹介する。当然だが、いきなり到達したわけではなく、試行錯誤のあとがうかがえて興味深い。後半は、建築や家具を含めたデザイン運動の流れから、同時代をトレースしていく。こうして一同に並べていくと、ドゥースブルフやファン・デル・レックなど、同じようなスタイルでも、個別の差異やうまい下手が読みとれる。またモンドリアンのアトリエ、リートフェルトの展示空間、キースラーの作品などを1/1のスケールで再現展示していたのも嬉しい。

2011/01/01(土)(五十嵐太郎)

山口晃展 東京旅ノ介

会期:2010/12/28~2011/01/10

銀座三越8階催物会場[東京都]

銀座三越で開催された山口晃の個展。すでに日本橋三越の広告を手掛けているので、いわばタニマチのご機嫌伺いという面も否めないところだが、そこは希代のアーティスト・山口のこと、過去作品を並べてお茶を濁すなどという無粋な真似だけはしなかったところがえらい。「東京」というお題のもと出品された大半は新作で、写真あり、立体造形もあり、超絶技巧の絵師というこれまでのイメージとは打って変わって、みずから新境地を開拓してみせた。なかでも秀逸だったのが、東京の下町の暮らしに照準をあわせて提案された「露電」。谷根千界隈の路地を縫うように走る路面電車で、二三人も乗ればたちまち満員になってしまうほど極小サイズの車体がいかにも下町の路地と風情に合致していて、「なるほど理にかなっている」と頷くことしきり。山口が描き出しているのは、あくまでも山口の頭のなかで膨張させた空想的想像力だが、それが他者にも伝わるほどおもしろいのは、その妄想がきわめて具体的な合理性にもとづいているからだろう。ピカピカの現代建築と古臭い日本家屋を掛け合わせた和洋折衷の建築風景は、山口がしばしば描き出すモチーフのひとつだが、これはたとえば東京国立博物館本館のような帝冠様式にたいするノスタルジックな眼差しの現われなのかと思っていたら、さにあらず。これは取り壊した日本家屋を高層ビルの頭頂部に再建するという、じつに合理的かつ現実的な提案だったのだ。そこにあった建物を木っ端微塵に破壊した上で建設される現代建築の傲慢さに対して投げかけられた現実的かつ批判的な提案なのだ。

2010/12/30(木)(福住廉)

いきるちから

会期:2010/12/02~2011/03/06

府中市美術館[東京都]

大巻伸嗣、木下晋、菱山裕子の3人を集めた企画展。「生きることのすばらしさに気づかせてくれる」ことが共通項として挙げられているようだが、なぜこの3人なのかはっきりと説明されていないので、企画展のテーマとしてはあって無きに等しいものだろう。大巻は回転する鏡面に光を乱反射させて壁面に虚像を映し出す大掛かりな空間インスタレーションを、菱山はアルミメッシュを針金とワイヤーで組み上げた人物像を、それぞれ発表した。突出していたのは、木下晋。鉛筆で描き出した老婆やハンセン病患者の肖像画は、いずれも観覧者の心を打つものばかり。それは、鉛筆によって描き分けられた深い皺と乾いた肌質が彼らの濃密な人生の軌跡を物語っていたことに由来するばかりか、極端にクローズアップした構図がモチーフにできるかぎり接近しようとした木下の態度を表わしていたことにも起因していたように思う。ジャーナリストにも通じる対象への肉迫。それを画面に前景化させるか、内側に隠しこむかは別として、木下のように世界にたいして誠実に対峙する姿勢こそ、いまもっとも学ぶべきことではないか。これを学ばずして、「生きることのすばらしさ」を知ったところで、たかが知れている。

2010/12/28(火)(福住廉)

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YAKINIKU──アーティスト・アクション in 枝川

会期:2010/12/26~2010/12/29

東京朝鮮第二初級学校[東京都]

江東区枝川にある朝鮮学校の校舎建て替えにともない、取り壊される旧校舎を舞台にアーティストたちが4日間だけ作品を展示している。黒板ならぬ赤板をたくさん並べて対話を試みる石川雷太、質疑応答形式のインスタレーションを出した森下泰輔ら参加型の作品が多く、そこに子どもたちの絵や人型も一緒に展示されてどれがだれの作品なのかわかりにくいゴッタ煮、いやビビンバ状態。おまけに、参加アーティストがせっせと荷物を運んでいるのでまだ展示が終わってないのか、それとももう搬出なのかと思ったら、学校の引っ越しを手伝う「枝川アート引っ越しセンター」というこの日だけのパフォーマンスだった。結局このアートイベント、個々の作品がどうのこうのというより、日朝韓が同じ場所に集まってなにかをすること、そしてなによりタイトルにも表われてるように、最終日の「焼肉パーティー」こそがメインディッシュなのだった。

2010/12/27(月)(村田真)