artscapeレビュー

『ANPO』上映/シンポジウム:アートの社会的有用性──アーティストにとって「芸術が何か」

2011年01月15日号

会期:2010/12/17

京都精華大学明窓館201[京都府]

60年安保当時を知るアーティストたちの証言やその表現、当時のマスメディアの報道などから、日本で生まれ育ったアメリカ人のリンダ・ホーグランド監督が 、日米関係を独自の視点で問い直す 映画『ANPO』。 この映画上映の後、やなぎみわ氏の司会進行で、ホーグランド監督と出演者でもある写真家の石内都氏によるシンポジウムが開催された。映画はナレーションも字幕もないかわりに、美術作品のディティールが映し出される時間が長い。アートを通じて画面に登場する人々の主観的記憶を蘇らせ、鑑賞者にそれらからなにを感じるのか問いたいという監督は、10歳の頃に通っていた小学校で原爆教育を受けて以来、アメリカ人としてつねにある「加害者」意識を抱えてきたという。両国で伝えられる戦争体験やその歴史教育の大きなギャップをリアルに体験してきた監督のまなざしが、急ぎ足ながらもやなぎと石内の二人のゲストアーティストを通じて丁寧に検証され、紹介された。普天間基地の問題で翻弄され続ける沖縄の現状ともリンクしていくホーグランド監督自身の言葉は、メディアによって隠蔽され人々に見過ごされがちになっていくものや歴史として伝えられるものへの注視をうながす誠実な姿勢がうかがえるもので、会場を出た後もずっしりと重く感じられた。実際に安保当時を知る人は、会場にはほとんどいなかっただろうが、憲法九条の意味を、若者たちや戦争体験者が命がけで問うたこの時代の延長上に、自分が自由を得ているということをリアルに感じられたこのイベント。いま、この映画が、とくに芸術大学で上映され、アーティストを交えたシンポジウムが開催されるということはとても意味が大きいと思う。他大学でもぜひ開催してほしい。

2010/12/17(金)(酒井千穂)

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