artscapeレビュー

大和田良「Wine Collection」

2011年01月15日号

会期:2010/12/01~2011/12/25

エモン・フォトギャラリー[東京都]

4月から9月にかけてキヤノンギャラリー銀座をはじめ各地で開催された個展「Log」、写真論集『ノーツ・オン・フォトグラフィ』(リブロアルテ)の刊行など、2010年は大和田良にとって大きな飛躍の年だった。その最後の時期にエモン・フォトギャラリーで開催された「Wine Collection」展も、これまでの彼の仕事とはひと味違った領域に踏み出そうという意欲を感じさせる作品である。
スナップショットやポートレートを中心に制作してきた大和田が、今回は徹底した「抽象」の世界にチャレンジしている。赤~黒の微妙なグラデーションを浮かび上がらせる写真の展示は、一見カラーチャートを羅列したようだ。だがそれが、何種類ものヴィンテージワインを撮影したものだということがわかると、また別の思いが湧き上がってくる。ワインは特にヨーロッパの歴史において、重要な文化的な意味を担ってきた飲み物である。「キリストの血」がワインによって表象されるということだけでも、その深みと広がりがただ事ではないことがわかるだろう。そのワインを、純粋な色彩の表現としてとらえるために、大和田は実に巧みな操作を行なっている。ボトルに入った状態のワインを撮影し、後でそのデータからガラスの緑色を抜き取るというアイディアである。このような「手法」の開拓は、写真家が何か新たな領域に踏み込む時には必ず必要になってくることで、それを大和田はあまり気負うことなく軽やかにやってのけた。そのために、作品そのものも重苦しくなく、すっきりとした仕上がりになっている。

2010/12/18(土)(飯沢耕太郎)

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