artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

小林耕平《2-9-1》(里山の古い建物にて)

会期:2010/09/25~2010/09/28

小川町小学校下里分校[東京都]

最近の小林耕平は、カメラマンを置くことで、出演する小林とカメラマンとのスリリングなセッションが作品の見所となっていた。今作では、こうしたやり方を一旦脇に置き、カメラは被写体(小林)の前で固定された。17分ほどの作品。小さな作業場らしき空間に、紙コップやティッシュ箱、水槽に入った石など日常的なオブジェが散乱。小林は、それらを持ち上げたり、テーブルの上で押したりする。ちょっとした動作の集積が見る側に突然興味深いものになったのは「水槽の石に注目して下さい」と小林が発してからだった。石は画面の右下にある。いくら注目しても石になにが起こるわけでもなく、小林が石になにかをするわけでもない。「命令」が放置されることで、観客はその状況に対して宙吊り状態にさせられる。今作の特徴は、カメラの固定のみならず、この言葉の使用だった。しかも、言葉は字幕として画面に現われもした。パフォーマーが観客に向けた約束や命令、この言葉の機能が映像に緊張感を与える。たんに身体所作ではなくこうした緊張状態のために、本作はきわめてダンス的な作品だと思った。神村恵らダンス作家との活動が近年活発だった小林の新機軸が示された作品だった。

2010/09/26(日)(木村覚)

フィギュアの系譜──土偶から海洋堂まで

会期:2010/07/10~2010/09/26

京都国際マンガミュージアム[京都府]

夏の間ずっと気になっていたのだが、終了間際に見ることができた。展示の半分は、現代の「フィギュア」カルチャーの代名詞とも言える"海洋堂”のフィギュア作品や、この会社の歴史や制作にまつわるものの紹介なのだが、前半は近年のフィギュアブームに至るまでの歴史を「人形文化」という切り口から系譜として展示。サブタイトルのとおり、展示が土偶や埴輪から始まるのはやや強引だが、古代から現代まで、時代ごとに分類された人形類の展示資料、日本の人形文化にまつわる文献資料、それらに関する解説も興味深く見やすい。「こけし」や「ポーズ人形」「超合金」「りかちゃん」など、ここでの主な資料となったのは兵庫県立歴史博物館が所蔵する「入江コレクション」の125点。それぞれは数点ずつなので量としてはけっして多くはないし、分類にも偏りがあり、テーマを丁寧に考察しているとは言いがたいのだが、それだけに、担当者の趣向(?)が垣間見える内容でもあり個人的には楽しめた。「こけし」のおみやげを買うブームから派生して「カッパこけし」のブームがあったことを示す資料が展示された「こけし」コーナーが特に良い。後半は“海洋堂”の社史やその商品開発の歴史、フィギュア制作の行程などの詳細とともに、ウルトラマンから「食玩」、等身大の「綾波レイ」まで膨大な数の資料展示。こちらは質量ともに見応えがあり、これまで関心がなかった私にも興味をそそられる新鮮な内容でもあったのだが、それにしても前半と後半の展示には、内容、ボリュームともに差が目立つ。タイトルやテーマ自体は興味深いだけに残念。第二回以降の開催を望みたい。

2010/09/25(土)(酒井千穂)

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河地貢士 個展 a HOSPICE

会期:2010/09/18~2010/10/23

studio J[大阪府]

スナック菓子の「うまい棒」に仏を彫った《うまい仏》や、欠けたポテトチップを金接ぎした《Embalming-Potato Chip-》、漫画雑誌を苗床にしてカイワレを育てる《まんが農業》など、ユーモア感覚に満ちた作品が展示された。ジャンクフードに仏が宿り、ポップカルチャーから生命が息吹く。これはファンタジー? それとも皮肉? 河地にとってこれが関西初個展とのこと。個性的な着眼点を持つ作家に出会えてラッキーだった。彼をセレクトした画廊に感謝。

2010/09/24(金)(小吹隆文)

クーバッハ─ヴィルムゼン「石の本彫刻展」

会期:2010/09/13~2010/10/02

ギャラリー新居[東京都]

この8月、安藤忠雄の設計でドイツにクーバッハとヴィルムゼンの彫刻美術館が完成したのを記念する展覧会。作品は、世界中のさまざまな石を本のかたちに彫った彫刻が20点ほど。石の本というのは魅力的だ。重いし、開けないし、たとえ開いたとしても(どうやって?)文字が書いてないのが難点だが、文字の代わりにはるかに時代を超えた情報がつまっているし、なにより燃えないのが最大の強みか。大理石の本を見ていて、西洋の古書にしばしばマーブリングの装飾が施されていることを思い出した。マーブリングとはまさに大理石模様のこと。そうか、石が本になろうとしたのではなく、昔から本は石に憧れていたのだ。

2010/09/24(金)(村田真)

ロレンツォ・フェルナンデス

会期:2010/09/10~2010/10/02

ギャルリーためなが[東京都]

なぜかスペインと中国はいまだに極端なスーパーリアリズム絵画が盛んだ。そのスペインの画家の個展。モチーフは身近な日用品を組み合わせた静物だが、そのなかに日本のコインを紛れ込ませていたり、背景にウォーホルをはじめポップアートの絵を配していたり、サービス精神にあふれている。だいたい写真以上に(?)写真そっくりに描こうという心理は、見る人を驚かせ、喜ばせたいというサービス精神に起因しないか。

2010/09/24(金)(村田真)