artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
寺井絢香 展

会期:2010/09/13~2010/09/18
ギャルリー東京ユマニテ[東京都]
縦長の紙に鉛筆で描いた野菜や消耗品などの絵。部分的に色鉛筆を用いているようだが、基本的にはモノクロームで、キウイやメロンパン、鍵などをそれぞれの質感を一つひとつ丁寧に描き出している。それらがほぼ等間隔に立ち並んだ光景は壮観だが、手前から奥に向って拡がりのある構図と、ほとんど同じ大きさの支持体のおかげだろうか、展示の空間全体に生まれた奇妙なリズムが心地よい。会場の中央に立つと、まるでおびただしいモノが流れ込む滝壺にはまり込んでしまったかのようだ。紙と鉛筆という単純な道具で豊かな世界を創り出す、アートならではの魅力を存分に発揮した展観だった。
2010/09/15(水)(福住廉)
前衛★R70展

会期:2010/09/13~2010/10/02
Gallery-58[東京都]
70歳未満は出品不可という企画展。赤瀬川原平、秋山祐徳太子、池田龍雄、田中信太郎、中村宏、吉野辰海がそれぞれ新作を発表した。小品とはいえ、それぞれの芸風を存分に発揮した作品を展示していたので、たしかに見応えはある。けれども、同時に顔も名前も十分に広く知られた「前衛」作家たちであるという条件を抜きにして作品を客観的に見ることが難しいのも事実だ。彼らが「前衛」の花形、平たくいえばスターである以上、それは仕方がないことなのかもしれない。しかし、現在のぬるいアートシーンに喝を入れることができるのが、かつてのスター・アーティストたちだけだとしたら、それはまた別のぬるさを呼び込んでしまうことになりかねない。むしろ、顔も名前も知られないまま、70歳を超えてなお、制作活動に打ち込んでいる未知の老人による表現こそ、アートシーン全体を根底から震撼させることができるのではないだろうか。かねてからの自論だが、この際、金太郎飴のような似たり寄ったりの国際展や若者を吸い上げる公募展はもうやめにして、全国津々浦々、知られざる老人による表現行為や創作活動を一堂に会した「シルバー・ビエンナーレ」を開催してはどうだろうか。甘ったれた若造に焼きを入れるには、かつてのスターを召還するより、わけのわからない老人を結集させるのがいちばんである。その有象無象のカオスの中から、私たちの文化や社会福祉に貢献できるアートを探し出すことは、きっと楽しい。
2010/09/15(水)(福住廉)
プレビュー:軽い人たち

会期:2010/09/06~2010/09/25
GALLERY wks. 、ART SPACE ZERO-ONE[大阪府]
木内貴志、中村協子、高須健市、吉田周平という、ユニークな4名の顔ぶれに期待が高まるグループ展。すでにオープンしているのだが、まだ見ていない。「表現したいこと」に縛られた表現ではなく、 外で起こっていることに軽やかに反応していく作品を通して 「作家の内的動機=作家のオリジナリティの核」 となりがちな状況に問題提起するという狙いがあるのだそう。参加作家それぞれの強烈な個性がどんな展示空間を創出するのか楽しみにしている。
2010/09/15(水)(酒井千穂)
照沼ファリーザ「食欲と性欲」

会期:2010/09/06~2010/09/18
ヴァニラ画廊[東京都]
「意外に」というと失礼だが、なかなか面白い展示だった。AV女優・監督やミュージシャンとしても活動しているという照沼ファリーザの写真作品には、まさにタイトルにもなっている「食欲と性欲」というコンセプトが明解に貫かれていて、観客を巻き込んでいくインパクトとパワーがある。会場の壁全体に大小70点あまりの額入りの作品がちりばめられているのだが、その半数以上には彼女自身(ほとんどヌード)が写っている。当然ながらその身体的な表現力が高いので、視覚的なエンターテインメントとして充分に楽しめる。それだけでなく、ポーズのとり方に「自分をこんなふうに見せたい」という意志が明確にあらわれているので、すっきりとした爽快な作品に仕上がっていた。ともすれば、「際物」になりそうなテーマなのだが、エロティシズムの発散の仕方が実に開放的で気持ちがいいのだ。
彼女自身が画面の中にあらわれてこない作品も、それはそれで面白い。可愛らしさとグロテスクとエロティシズムの三位一体。使われている小物やオブジェとその配置の仕方に、うつゆみこの作品と共通するものがあると思っていたら、実際に二人は知り合いで、うつが提供したものもあるのだそうだ。さらに生産力をあげつつ、別なテーマにも積極的にチャレンジしてほしい。技術をさらに磨くとともに、知名度、タレント性を活かしていけば、「写真家」としても独特の世界をつくっていけそうな気がする。
2010/09/14(火)(飯沢耕太郎)
カール・ハイド展

会期:2010/08/25~2010/09/15
ラフォーレミュージアム原宿[東京都]
UNDERWORLDのメンバーであり、TOMATOのメンバーでもあるカール・ハイドの個展。鉛筆で書き殴ったドローイングの上に色を塗って仕上げた平面作品などが展示された。会場にはライブ・ペインティングの記録映像のほかに、UNDERWORLDの楽曲などが流されていたように、音楽と絵画の重複から独自の芸術を手繰り寄せようとしていたようだ。しかし、その平面作品はどういうわけか「日本的」で、支持体に和紙を用いているからなのか、墨筆による円状の形が吉原治良を連想させるからなのか、とにかくやたら和風を意図したような作品が多い。それらとテクノの音が混ざり合った会場には、胸に「原宿」という漢字がプリントされたTシャツを嬉々として着ている外国人を目撃してしまったときに感ずるような、奇妙な空気が流れていた。もしかしたら、この違和感は外国人の視線によって外在的にとらえた「日本」のイメージを内側から見るというねじれた経験に由来しているのかもしれないが、逆にいえば、西洋から輸入して社会に定着させようとしてきた日本の「美術」のありようも、もしかしたら彼方から見れば同じような違和感とともに見られているのかもしれない。ようするに、ねじれたまま結びつけられているという点で、「お互いさま」なのだろう。
2010/09/14(火)(福住廉)


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