artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

佐川好弘 個展「動と悩 why」

会期:2010/09/28~2010/10/03

ギャラリーはねうさぎ[京都府]

佐川の作品は、メッセージが言葉の形のままオブジェ化している。「君と僕」「解キ放テ」「君らしく」など、その内容はベタととも言えるが、例えば「解キ放テ」のオブジェを背負って富士登山を実行するなど、実際の行動を伴うことで見る者をポジティブな方向へと導くのだ。本展では、今年8月に富山県南砺市で行なわれた「上畠アート」で発表した作品《君らしく》が再現され、設置の状況を記録した写真作品も出品された。公道に標識の規格で書かれた「君らしく」の文字。爽快じゃないか、突き抜けているじゃないか。身体的ダイナミズムをもって、思考を現実界に直結させること。それが佐川好弘の優れた資質であると、改めて確信した。

2010/09/28(火)(小吹隆文)

箔画+ 野口琢郎

会期:2010/09/28~2010/10/03

ギャラリーヒルゲート2F[京都府]

京都には、いろんな作家がいる。野口は明治から続く西陣の箔屋に生まれ、漆地に金、銀、プラチナ箔を押すという伝統的な技法を学びながら独自の絵画表現を模索してきた。ともすればマチエールそのものの貫禄や、そのテクスチュアがかえって邪魔をする難しい手法だと思うのだが、野口のこれまでのさまざまな表現の試みと探究心が詩的な世界観となって今展で昇華した印象。水面に輝く陽光を描いた作品や、抽象画の輝きは、見る角度によって表情が異なり幻想的な趣で、箔の味わい深い魅力を伝えるものであった。きっと照明や外光の具合によっても印象が変化して豊かな表情を見ることができただろう。もう一度違う時間帯に見に行けばよかった。

2010/09/28(火)(酒井千穂)

山西愛 展「ゾクッ(続)ドラマチックガレージ」

会期:2010/09/22~2010/09/26

喫茶 雨林舎 2Fギャラリー[京都府]

JR二条駅近くにある町家づくりのカフェの二階にあるスペースが会場。オルタナティブスペースというのか、京都でも、カフェやショップに併設された展示スペースや、そのようなスペースでの発表が増えているように思う。この会場は空調も壁面や床、照明なども整備されていないので、展示には不向きなのだろうが、山西の作品の雰囲気や形態には似合っていた。洗濯物を干すように、対面する壁に渡した紐に、ドローイング作品がずらりと何列もクリップで留められていた。床には、山西手作りの小さな紙製の自動車が“駐車”する、“駐車場”のインスタレーション。訪れた人たちが車の色を塗るというワークショップの作品展示で、会期中に少しずつ“車”が増えていくというものだった。ストーリーを想像させるシュールなドローイングは、つかみどころのない浮遊感が魅力でもあるだが、それにしても展示間隔がとても狭く、窓から風が吹き込んでひらひらと作品が揺れるので、一つひとつをじっくりと見る距離や雰囲気ではなかったのがやや残念。しかし独自の言葉のセンスとユニークな世界観を持つ作家なので空間的な要素もふくめ、次の発表も楽しみにしている。

2010/09/26(日)(酒井千穂)

笹岡啓子「CAPE」

会期:2010/09/21~2010/10/17

photographers’gallery[東京都]

photographers’galleryの創設メンバーのひとりである笹岡啓子は、同ギャラリーを中心に、広島・原爆記念公園とその周辺を撮影したモノクロームの「PARK CITY」とともに、カラーの6×6判による風景写真のシリーズを発表してきた。「限界」「観光」「水域」、あるいは今年6月にRat Hole Gallery Viewing Roomで開催された個展では「EQUIVALENT」といったタイトルで発表(同ギャラリーから同名の写真集も刊行)されてきたこれらの写真群には、ほぼ共通した特徴がある。
被写体になっているのは、海辺、森、岩場といった境界、あるいは周縁の空間で、自然と人工物が混じり合っているような場所が多い。さらにその多くに、さりげなく「ヒト」の姿が写り込んでいるのが気になる。ということは、これらの写真は被写体となる場所を純粋に「風景」として自立させることをめざしているのではなく、むしろもっと曖昧に生活、観光、宗教といった「ヒト」の営みを含み込むように設定されているといえるだろう。それは、今回の「CAPE」の展示でも同じで、何枚かの写真では、海に突き出た「岬」という象徴的な空間性は後ろに退き、浜辺で潮干狩りをする人びとのなんとも散文的な場面が前面に出てくる。「ヒト」の姿はむろん確信的に選択されているのだが、シリーズの中に純粋な、人気のない「風景」もまた組みこまれていることで、作品全体の構造がややわかりにくくなっている気もする。中間距離で撮影された、所在なげにたたずむ「ヒト」のあり方をもっと強く押し出してくることで、このシリーズの骨格がきっちりと定まってくるのではないだろうか。

2010/09/26(日)(飯沢耕太郎)

「榮榮&映里 RongRong & inri」展

会期:2010/09/25~2010/10/22

MEM[東京都]

大阪の現代美術ギャラリー、MEMが東京に移転してきた。恵比寿のNADiff a/p/a/r/tの2Fというなかなかいいロケーションなので、所属作家の森村泰昌、澤田知子らを含む今後の展示活動が大いに期待できそうだ。
移転第一弾として開催されたのが榮榮(RongRong)と映里(Inri)の二人展。2000年に中国に渡った横浜出身の映里(本名、鈴木映里)は、90年代から身体的なパフォーマンスを作品化していた榮榮とのコラボレーションを開始する。最初の頃は、彼らの愛、歓び、孤独や疎外感などを激しくぶつけあう感情の振幅の大きい作品が多かったのだが、2001年に結婚し、3人の子どもが生まれ、2007年には北京郊外の朝陽区草場地に三影堂攝影芸術中心(Three Shadows Photography Art Centre)を設立といった出来事を経て、彼らの作風も少しずつ変化していった。近作では妊娠中の映里や子どもたちを加えた記念写真的なポートレート、DMにも使われた二人の長い髪の毛を結びあわせ、編み込んだ後ろ姿の作品など、安らぎ、自信、信頼感などが前面に出てきているように見える。今年の5月~7月には深圳のヘーシャンニン美術館で、2000~2010年の代表作170点を展示する大規模な展覧会を実現し、ヨーロッパやアメリカなどでの評価も高まりつつある。
むろん、彼らの写真作家としての意欲が衰えたわけではない。生と表現との深い関わりを、緊密かつヴィヴィッドに投影してきた二人の作品は、これから先も大きく変化しつつ深化していくのだろう。やや意外なことだが、今回が彼らの日本での初個展になる。もう一回りスケールの大きな会場での展示もぜひ実現してもらいたいものだ。

2010/09/26(日)(飯沢耕太郎)