artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

Chim↑Pom「Imagine」

会期:2010/08/07~2010/09/11

無人島プロダクション[東京都]

家族で現代美術館へ向かう途中、寄ってみる。明かりのない狭い通路をぐるっと180度まわるともう真っ暗闇。手探りでドアを開けると、盲目の青年たちがジャレてる映像が流れている。次の部屋にはパネルにキラキラ輝くガラスを点字のように並べた作品があり、よく見ると同じパターンの繰り返し。「キラキラ」と書かれているらしい。もちろん点字を知らない人にはただのキラキラしたパターンにすぎない。そこでふと思うのは、広島の空に「ピカッ」を点字で書いたらどうだったのかということ。だれも読めないか。

2010/08/12(木)(村田真)

生命のひかり展~丸木位里没後15年・俊没後10年をふりかえって~

会期:2010/08/01~2010/08/15

カフェギャラリーあっぷるはうす[埼玉県]

《原爆の図》で知られる丸木位里・丸木俊の回顧展。丸木美術館が所蔵していない《原爆の図・夜》(1950)が公開された。未完の大作ではあるが、しかしだからこそ、見る者はそこに描かれるはずだった世界を想像的に補っていたように思う。あわせて展示された色鮮やかな水彩画や初期のデッサンなどは、《原爆の図》のイメージで塗り固められた夫妻のイメージを、ゆるやかに解きほぐしていた。

2010/08/12(木)(福住廉)

カポディモンテ美術館展

会期:2010/06/26~2010/09/26

国立西洋美術館[東京都]

カポディモンテ再訪。今回気になったのは、額縁がきわめてシンプルなこと。「ルーヴル美術館展」なんかだと、装飾ゴテゴテのルイ王朝式の額縁が名画にまとわりついてくるものだが、この展覧会では装飾過多の額縁はなく、幅も大作でさえせいぜい20センチ未満。とくにアルテミジア・ジェンティレスキの《ユディトとホロフェルネス》は2センチたらずのきわめてシンプルな金の額縁、さらに幅1センチ程度の箔すら施されてない木の額縁もあった。カポディモンテは額を買う予算もないほど財政難なのか。そういうことではないですね。

2010/08/11(水)(村田真)

hanayo「colpoesne」

会期:2010/08/06~2010/08/15

UTRECHT/NOW IDeA[東京都]

そういえばhanayo(花代)のデビュー写真集が『うめめ』ならぬ『ハナヨメ』(新潮社, 1996)だったことを思い出した。梅佳代もそうだったのだが、hanayoの「女の子写真」をさらに崩し字で書いたような「ボケボケ」のスタイルも、当時は写真界の評価は最悪だった。その後、ドイツに渡り、ドイツ人と結婚して女の子を産みといった経歴を積み重ねるなかで、イラストや音楽も含むマルチアーティストぶりには磨きがかかり、現在ではベルリンと東京を往復してコンスタントに作品を発表するようになっている。
今回はUtrechtから刊行された写真集『colpoesne』にあわせた展示。写真集はモノクロ・ページとカラー・ページが交互に並ぶ構成で、アンカット(フランス装)の造本になっており、ペーパーナイフでページを切り取りながら写真を見る仕掛けが施されている(装丁はRupert Smyth)。その凝った造りは写真の内容にも即していて、モノクロのページはかっちりと構造的に組み上げられた写真、カラーのページはどちらかといえばゆるい開放的な写真を中心に構成される。タイトルが謎めいていて、最初は意味がわからなかったのだが、表紙の文字を見ているうちに謎が解けた。「close」と「open」という言葉の綴りが交互に並んでいるのだ。ということは、モノクロ部分は「close」に、カラー部分は「open」に対応しているということなのだろうか。
このような複雑なコンセプトをきちんと形にできるというのは、かつてのhanayoの作品を知る者から見ると驚きとしかいいようがない。アーティストとしての成長の跡が作品にきちんと刻みつけられているということだろう。なお、展示もかなり複雑なインスタレーションで、部屋の中央に壁で囲まれた仮設の小屋のようなものがあり、その中は真っ暗で、床にちらばった写真をヘッドランプで照らして見るようになっている。小屋のまわりには、モノクロームの室内の写真が、やはり無造作にちらばっていた。イノセントな眼差しはそのままだが、表現力が格段に違ってきているのがよくわかった。

2010/08/11(水)(飯沢耕太郎)

浜田知明の世界展──版画と彫刻による哀しみとユーモア

会期:2010/07/10~2010/09/05

神奈川県立近代美術館 葉山館[神奈川県]

今年で93歳になる、版画家にして彫刻家、浜田知明の個展。50年代に制作された銅版画による《初年兵哀歌》シリーズをはじめとする版画作品173点のほか、ブロンズ彫刻73点、デッサンや資料などあわせて300点あまりの作品が一挙に公開された。時系列に沿った構成であるため、浜田の関心が戦争の記憶を版画に定着させることから、社会や時代の風刺へと切り換わり、そして人間の根源を形象化したブロンズ彫刻へと展開した軌跡をたどることができる。そこに一貫しているのは、おそらくは必要最低限のことだけを表現する構えだろう。戦争の悲惨な光景を写実的に描写してメッセージ性を過剰に膨らませるのではなく、かといって抽象化して戦争という主題を曖昧にしてしまうのでもなく、浜田の版画には必要な線を必要な空間にただ配置したかのような単純明快さがある。捨象の美学ともいうべき浜田の態度は、どの角度から見ても無駄な造形が見られないほど簡潔な、近年の彫刻にも通底している。版画にしろ彫刻にしろ、いずれも身に余るほど巨大なサイズではなく、自分の手のひらで制作できる範囲の大きさに限られているところに、等身大の芸術を志してきた浜田の誠意が表れているような気がした。

2010/08/11(水)(福住廉)

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