artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

山本太郎 古典─the classics─ Tales

会期:2010/07/02~2010/08/12

第一生命南ギャラリー[東京都]

日本画に現代的モチーフを忍ばせた「ニッポン画」を標榜する山本の個展。今回は「卒都婆小町」「桜川」「隅田川」といった古典文学に基づく主題に、点字ブロックや青いビニールシートみたいなポップでチープなアイテムを組み合わせている。《形態不時屏風》は富士山の前に工場の煙突が立つ風景もさることながら、横長の屏風そのものが折りたたみ式携帯を模した作品。これはおもしろい。しかし今回の白眉ともいうべき幅16メートル近い超横長大作《白線散華図》は、壁面を埋めるにはいいかもしれないが、作品としてはあまり感心しなかった。

2010/08/06(金)(村田真)

新世代への視点2010

会期:2010/07/26~2010/08/07

なびす画廊+藍画廊+ギャラリー58+ギャルリーSOL+ギャラリーなつか+コバヤシ画廊+ギャラリー現+ギャラリーQ+ギャラリイK+ギャルリー東京ユマニテ+gallery 21 yo-j[東京都]

毎年夏恒例の同時多発企画展。昨年の参加画廊は12軒だったが、今年は11軒。差し引き1軒が永遠に抜けてしまった事実は重い。今年の出品作家11人のうち7人が女性。黒く塗り込めた背景から人物や建物を輝くように浮かび上がらせる田中千智の絵(ギャラリー現)、新聞紙の広告ページなどを巧みに使ってポップな群像をつくりあげる富田菜摘の彫刻(ギャルリー東京ユマニテ)、障子を屏風状に仕立て「蟹鮨」の店やテニスコートばかりを描く羽毛田信一郎の水墨(ギャラリイK)が印象に残った。なにかこだわりとか偏りの強さが作品の強度を保証しているように思える。もちろんそれを説得力のある表現に高めるだけの手技が必要なことはいうまでもないけど。

2010/08/06(金)(村田真)

ガーリー2010展

会期:2010/07/27~2010/08/10

川崎市市民ミュージアム[神奈川県]

少女というよりギャルを描いた絵、人形、写真、映像など、おたく好みの作品が並ぶ。竹久夢二の落書き、草間彌生のオブジェ、戸川純のライブ映像(いま見てもやっぱり変)といったオマケつき。川崎市も目配りが早いと思ったら、やってるのは銀座芸術研究所だった。せっかくの企画、なんでアクセスの悪い市民ミュージアムでやるのかね。

2010/08/05(木)(村田真)

BASARA

会期:2010/08/04~2010/08/09

スパイラルガーデン ギャラリー[東京都]

武闘派の現代美術家、天明屋尚がキュレイションを手掛けた企画展。「BASARA」とは、14世紀の南北朝時代に頻繁に用いられた、豪奢な華美を好む美意識や時世粧を表わす「婆娑羅」を、特定の時代を指す用語としてではなく、現代にまで脈々と通底する、ある種の「遺伝子」として提起するために、天明屋が開発した造語である。天明屋自身をはじめ、池田学、井上雄彦、歌川国芳、河鍋暁斎、三代目彫よし、月岡芳年、野口哲哉、HITOTZUKI(KAMI+SASU)、村山留里子、山口晃、横尾忠則など、ジャンルも世代もバラバラのアーティスト24組が参加したほか、縄文土器や印籠、根付、デコ電、デコトラなど、「BASARA」を体現すると考えられる数々のモノも併せて展示された。いやったらしい縄文土器から全身に刺青をまとった男たちの写真、色彩豊かな細密画から蒔絵のバイクなどが立ち並んだ会場は、まさしく絢爛豪華。パンチの効いた造形が次々と眼に飛び込んでくるのが楽しい。なるほど、「BASARA」がたんなる様式のひとつにとどまらず、日本美術の全体を貫く底流のひとつであることがよくわかるし、アニメやマンガに由来するオタク文化がのさばり、対外的にも「クールジャパン」として制度的に定着したいま、それを現状に対する「宣戦布告」として打ち出す意義はかなり大きい。「スーパーフラット」から「マイクロポップ」へと続いた昨今の日本の現代アートの流れを、大きく切り換えるエポックメイキングな展覧会として評価できると思う。ただし、疑問点がないわけではない。それは、本展の企画者である天明屋自身の作品に、若干の違和感が残ったということだ。きらびやかな色彩や緻密な描写、あるいはおどろおどろしい造形による作品が大半を占めていただけに、天明屋による《思念遊戯》(2009)の落ち着いた画面は奇妙に目立っている。刀剣を持ちながら取っ組み合う2人の任侠が描かれていることから、これはもしかしたら過剰に飾り立てる「BASARA」の背後に控える死生観の現われなのかもしれない。けれども、絵の細部に眼を凝らして見ると、そこには人体を縁取る繊細な線描や金箔を敷き詰めた後景、蛸のなまめかしい曲線、そして何よりもマットな色彩による彫り物の描写などがあり、それらは「BASARA」の破戒美というより、むしろ洗練された調和美、あるいは端正な典雅の印象を強めてしまっている。作品と概念との齟齬を、実作の面ではなく、少なくとも理論的にどのように埋め合わせるのか、そこに今後の課題が残されている気がしたが、ともあれ画期的で挑発的な展覧会だったことはまちがいない。今回はごくごく短期間の展覧会だったので、ぜひ公立美術館に場所を移して、巡回してほしい。

2010/08/04(水)(福住廉)

溝尻智哉 個展

会期:2010/07/27~2010/08/01

アートスペース虹[京都府]

大きな布にパステルで描かれた線描画。一見、抽象にも思えるが、モチーフはかつて作家が滞在していた中国の風景で、床に敷いた布の上に乗り、画面全体をできるだけ見ずに描いている。描くうちに最初の意図に「ズレ」がうまれたり、思いがけない無意識のイメージが引き出されていくことが面白く、縒れてしまう伸縮性のある布をあえて用いて不自由な状態で描いているのだという。色も少なくシンプルだが、パステルの鈍い色やザラザラとした質感、力強い筆致による煤け具合が、すがれた景色への想像を喚起して強く印象に残る作品だった。

2010/08/01(月)(酒井千穂)