artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

イノセンス─いのちに向き合うアート─

会期:2010/07/17~2010/09/20

栃木県立美術館[栃木県]

ハンディキャップをもつ人や独学のアーティスト、あるいは障がいをもつ人のアートに関わるアーティスト、さらには生命に向き合うアーティストなどを区別することなく勢ぞろいさせた企画展。草間彌生や奈良美智、田島征三、イケムラレイコなど著名なアーティストのほかに、舛次崇、松本国三、佐々木卓也、丸木スマ、大道あやなど、あわせて38人のアーティストたちによる、およそ200点あまりの作品が展示された。近年、いわゆるアウトサイダー系のアーティストを紹介する展覧会が盛んだったが、無名かつ驚異のアーティストを紹介する動きはひとまず落ち着きを見せ、昨今は彼らの作品とキャリアも知名度もあるアーティストによる作品を同じ舞台で見せようとする展覧会が相次いでいる。水戸芸術館現代美術センターの「LIFE」展(2006)しかり、広島市現代美術館の「一人快芸術」(2009-2010)展しかり。もちろん、それぞれの展覧会のねらいには微妙な温度差が見られるが、本展もまた、そうした動向の延長線上に位置づけられる。じっさい、本展の全体は、アーティスト本人の属性ではなく、色やかたち、物語性など、あくまでも作品の形態を基準にして構成されていた。ここには、障がいの有無やキャリアの大小を問わず、すべての作品を等しく見せようとする企画者の意図がうかがえる。たしかに展覧会を見ていくと、すべての作品にそれぞれ「独自のルール」が貫いていることに気づかされたが、そこに託された心理や記憶、欲望のかたちにはプロとアマ、障がいの有無などはほとんど関係がないことがわかる。ただし、俎上に乗せる機会は平等である必要があるかもしれないが、そこで発表された作品の評価は厳密に下さなければならない。展覧会の全体を見終わったとき、もっとも強烈に記憶に焼きついていたのは、圧倒的に草間彌生だった。発表された「愛はとこしえ」シリーズは、白い画面におびただしい黒の線と点が次々と連鎖しながら増殖していく様子を描いた絵画で、その異常な密度もさることながら、ある一定のルールにのっとりながらも、決して定型化にはいたらないバランス感覚が絶妙である。これは、多くの凡庸なアーティストにも、いわゆるアウトサイダのアーティストにも見られない、草間彌生ならではの特質である。

2010/08/10(火)(福住廉)

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間芝勇輔 展「交!(まじめ)」

会期:2010/08/04~2010/08/29

京都造形芸術大学 ギャラリーRAKU[京都府]

子どもの落書きのような純真さと、洗練されたデザインセンス、そして驚くべき直感の冴えを併せ持つ間芝の世界。大量のドローイングと2点の映像からなる本展は、過去最大の規模を取ることで彼の魅力を伝えることに成功していた。京都出身ながら大阪でのみ発表していた彼にとって、本展は地元初個展。それゆえ普段以上に奮発したのかもしれない。間芝は今秋から東京に移住するらしい。関西で彼の作品を見る機会が減るのは残念だが、最後に大きなプレゼントを残してくれたことには感謝したい。

2010/08/10(火)(小吹隆文)

勝田徳朗 展

会期:2010/08/02~2010/08/08

トキ・アートスペース[東京都]

床に石炭を卵型に敷きつめ、その一端から黒く焦がした流木をヒゲのように伸ばし、石炭の上には木彫の卵型のオブジェを何個も置いている。木から石炭へという不可逆的プロセスと、生と死の循環、そして木、土、水、火という原初的エレメントの連関を、卵というシンボリックイメージを軸に展開している。

2010/08/08(日)(村田真)

印象派とモダンアート

会期:2010/07/10~2010/09/20

サントリーミュージアム天保山[大阪府]

印象派が活躍した19世紀後半から20世紀後半までの、いわゆるモダンアートと呼ばれる期間の美術のさまざまな傾向と、そこで生み出された作品を紹介する展覧会。サントリーミュージアムの所蔵品を中心に、国公私立美術館、個人から借用した作品を交えた98点で構成された。会場は「光との対話──印象派の試み」「具象の領域──20世紀美術の一断面」「色と形の実験──20世紀美術の新しい表現」という3つのセクションに分かれており、それぞれを「彫刻の小部屋」「花束の回廊」というテーマ展示でつないでいた。ピサロ、モネ、シスレー、ルノワールなど印象派を代表する画家たちが紹介されていた第1部の、ピサロの初期から晩年までの10点の作品を時系列に追った展示は特に興味深かった。“超・印象派”の画家の代名詞というイメージがあったのだが、順に展示作品を見ていくと、バルビゾン派や写実主義の影響を受けた初期の作品から晩年に描いた都市の風景まで、筆のタッチや色調など、何度かの画風の変遷がうかがえる。また、今展のなかでもユニークだったのが「花束の回廊」。ルドン、マティス、デ・キリコ、キスリング、ローランサン、ビュッフェなどさまざまな画家の、花をモチーフにした絵画が順路の左右の壁にずらりと展示されているのだが、それぞれの強烈な個性が際立って見えるのがじつに面白い。できればもう一度見に行きたいと思った空間。

2010/08/08(土)(酒井千穂)

三宅砂織 展「Image castings 2&3」

会期:2010/07/09~2010/08/06

複眼ギャラリー[大阪府]

三宅砂織の新作展。印画紙の上に直接物を置いて感光させるフォトグラムの作品は以前から発表されていたし「VOCA展2010」や「ART OSAKA 2010」などでも目にしていたのだが、どちらかというとこれまでは、フィルムに描いた絵を何枚も重ねて制作するこの技法の不思議な空間的奥行きや、光と影がつくる像の、儚気でファンタスティックなイメージに注意を引きつけられていた感がある。しかしながらそれだけではなく、絵も上手い人なのだと改めて三宅の描く絵の魅力を感じた今展。描かれた建物や木などの背景は、はじめは写真が張り付けられているのかと思ったほど細密に表現されていて、ぴたりと時間が止まっているかのようだ。そこに、線で描かれた後ろ姿の少女たちがレイヤーで重なるようなイメージで、異なる時間がひとつの物語を紡ぎ出すような、重層的で立体的な世界を繰り広げていた。少し妖しげな雰囲気をもちながら、幻想的な物語を連想させる三宅の作品世界を堪能できたのが嬉しい。

2010/08/07(土)(酒井千穂)