artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
藤井裕史 展─Black Fossil─

会期:2010/07/27~2010/08/01
ギャラリーマロニエ[京都府]
若手染色家の初個展。天地約2.6メートル×幅約4.5メートルの大作2点と小品4点が出品された。まるで惑星の地表を捉えた天体写真のように複雑なテクスチャーを見せるグレーの部分と、地部分の漆黒から白へと抜けていくグラデーションの対比が美しい。黒一色でこれだけ豊かな世界を描き出したのは見事だ。最近見た若手染色家の中では断トツの出来栄えだった。
2010/07/27(火)(小吹隆文)
有毒女子

会期:2010/07/17~2010/08/08
MATSUO MEGUMI+VOICE GALLERY pfs/w[京都府]
岡山愛美、小谷真輔、後藤真依、坂本優子、唐仁原希、羽根田愛生、福永晶子、藤場美穂によるグループ展。いずれも刺激的な展覧会タイトルに負けない個性豊かな作品だったが、唯一の男性作家である小谷真輔の作品に目を奪われたのは、やはり私が男だからか? また本展では、崔正成監督の映画『スタンドアップ! シスターズ』の上映も行なわれた。画廊で映画上映と美術展示を同時に行なうとは、なんて素敵なアイデア。オルタナティブスペースとしての画廊の可能性が感じられる良い試みだった。
2010/07/27(火)(小吹隆文)
宮永亮「メイキング」

会期:2010/07/10~2010/08/14
児玉画廊[京都府]
自動車の屋根にカメラを設置し、夜の京都をクルージングしながら撮影した映像を、7つのスクリーンに投影。別の大画面ではすべての映像を重ねて上映していた。大画面の作品では夜景が徐々に変化し、遂には光の乱舞へと至るのが見事。本作は既に京都の京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAと東京の児玉画廊で発表済みだが、本展では吹き抜けの2フロアを生かした立体的展示と、撮影に用いた愛車ミニを映像とともに展示するインスタレーションで、作品のポテンシャルの更なる引き上げに成功した。
2010/07/27(火)(小吹隆文)
八木敬太郎 展

会期:2010/07/26~2010/07/31
番画廊[大阪府]
自作のフレームの上に薄い麻布を被せた半立体的な平面作品を展示していた。これまでの八木の作品は既成のフレームの骨組みを一部改造して上から絹布を張ったものだった。それゆえ作品の主眼は絵画の平面性や虚構性に対する批評にあるとばかり思っていたが、どうやらそれは間違いだったらしい。彼はフレーム自体も絵画の構成要素とすることで、より自由な空間表現を目指しているのであろう。フレームを自作することにより、制作意図が伝わりやすくなった。
2010/07/26(月)(小吹隆文)
オノデラユキ「写真の迷宮へ」

会期:2010/07/27~2010/09/26
東京都写真美術館 2階展示室[東京都]
東京都写真美術館でのオノデラユキ展のプレビューに出かけてきた。作家本人にもひさしぶりに会ったし、いつものオープニング以上にいろいろなジャンルの人たちが集まっている印象を受けた。それにしても、彼女が1991年に第一回の「写真新世紀」で優秀賞(南條史生選)を受賞してデビューした時、今日を想像できる人は少なかったのではないだろうか。そのセンスはいいが線の細い作品が、1993年に渡仏し、パリを拠点にして活動しはじめてから大きくスケールアップした。海外に活動の場を求めた写真家は多いが、オノデラはその中で最もめざましい成功例といえるだろう。オノデラの作品の発想の源になっているのは、日々の暮らしや記憶の宝箱から取り出され、集められた断片である。影絵(「Transvest」)、古いカメラ(「真珠のつくり方」)、郊外の一戸建ての家(「窓の外を見よ」)、ラベルを剥がされた空き缶(「C.V.N.I.」)など、そして近作の「12 Speed」では文字通り身の周りの雑多なオブジェがテーブルの上に寄せ集められている。だがこれら日常の事物の断片が、彼女のイマジネーションの中で熟成し、発酵していくなかで、奇妙に謎めいた「迷路」として再構築されていくことになる。この悪意と官能性とユーモアとをブレンドした「ひねり」の過程こそが、オノデラの真骨頂と言うべきだろう。そのことによって、ヨーロッパのとある国のホテルで起きた失踪事件が、ちょうどその地点から見て地球の反対側の島で18世紀に起きた「予言者が西欧人の来訪を告げる」という出来事と結びつくといった、普通ならとても考えられないような発想の作品(「オルフェスの下方へ」)が生まれてくるのだ。とはいえ、その「ひねり」は決してわざとらしいものとは感じられない。普通なら複雑骨折しそうな思考の過程を、軽やかに、ナチュラルに、どこか懐かしささえ感じさせるやり方でやってのけるのが、オノデラの作品が多くの観客を引きつける理由でもあるのだろう。この人の繊細で丁寧な手作りの工芸品を思わせる作品は、杉本博司、米田知子、木村友紀などとともに日本人による現代写真に独特の感触を備えているように見える。
2010/07/26(月)(飯沢耕太郎)


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