2019年09月15日号
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artscapeレビュー

オノデラユキ「写真の迷宮へ」

2010年08月15日号

会期:2010/07/27~2010/09/26

東京都写真美術館 2階展示室[東京都]

東京都写真美術館でのオノデラユキ展のプレビューに出かけてきた。作家本人にもひさしぶりに会ったし、いつものオープニング以上にいろいろなジャンルの人たちが集まっている印象を受けた。それにしても、彼女が1991年に第一回の「写真新世紀」で優秀賞(南條史生選)を受賞してデビューした時、今日を想像できる人は少なかったのではないだろうか。そのセンスはいいが線の細い作品が、1993年に渡仏し、パリを拠点にして活動しはじめてから大きくスケールアップした。海外に活動の場を求めた写真家は多いが、オノデラはその中で最もめざましい成功例といえるだろう。オノデラの作品の発想の源になっているのは、日々の暮らしや記憶の宝箱から取り出され、集められた断片である。影絵(「Transvest」)、古いカメラ(「真珠のつくり方」)、郊外の一戸建ての家(「窓の外を見よ」)、ラベルを剥がされた空き缶(「C.V.N.I.」)など、そして近作の「12 Speed」では文字通り身の周りの雑多なオブジェがテーブルの上に寄せ集められている。だがこれら日常の事物の断片が、彼女のイマジネーションの中で熟成し、発酵していくなかで、奇妙に謎めいた「迷路」として再構築されていくことになる。この悪意と官能性とユーモアとをブレンドした「ひねり」の過程こそが、オノデラの真骨頂と言うべきだろう。そのことによって、ヨーロッパのとある国のホテルで起きた失踪事件が、ちょうどその地点から見て地球の反対側の島で18世紀に起きた「予言者が西欧人の来訪を告げる」という出来事と結びつくといった、普通ならとても考えられないような発想の作品(「オルフェスの下方へ」)が生まれてくるのだ。とはいえ、その「ひねり」は決してわざとらしいものとは感じられない。普通なら複雑骨折しそうな思考の過程を、軽やかに、ナチュラルに、どこか懐かしささえ感じさせるやり方でやってのけるのが、オノデラの作品が多くの観客を引きつける理由でもあるのだろう。この人の繊細で丁寧な手作りの工芸品を思わせる作品は、杉本博司、米田知子、木村友紀などとともに日本人による現代写真に独特の感触を備えているように見える。

2010/07/26(月)(飯沢耕太郎)

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