artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
極小航海時代

会期:2010/06/19~2010/08/01
女子美アートミュージアム[神奈川県]
ペドロ・コスタをはじめ、ジョアン・タバラ、マリア・ルジターノ、ミゲール・パルマなど、ポルトガルの現代アートを紹介する展覧会。光を遮断した広い空間で、それぞれの映像作品が発表された。もっとも優れていたのは、ジョアン・タバラ。《ささやきの井戸》(2002)は、水の中に投げ込まれるコインを水底からの視点で撮影した映像で、来場者も頭上の映像を見上げるかたちで鑑賞する。鈍い音とともに次々と舞い降りてくるコインの動きは、見飽きることがないほど、美しい。とはいえ、一枚一枚のコインにはそれぞれの祈りが込められていることに想いをめぐらすと、見ず知らずの他人の希望をすべて受け入れなければならないかのような重苦しさも覚える。ここには、有無を言わさず一方的に届けられてしまう、あるいは望みもしないのに勝手に関係を結ばれてしまう、現在のコミュニケーションのありようがユーモラスに描き出されていた。もうひとつの作品《輪》(2007)も、シニカルなユーモアに富んでいる。夕暮れの草原でサークル状に連なった大人たちが順番に焚き火で暖をとる映像だが、炎に両手をかざすことができるのはひとりだけで、それ以外の人びとは寒風のなか順番を大人しく待っている。たしかに、これは公平で合理的な民主社会がはらむ不合理な一面を逆説的に表現しているのかもしれない。ただ、その点とは別に、行列をなしているのが成人ばかりだったことから、彼らは子どもの豊かな想像力が奪われた囚人のように見えてならなかった。囚われた奴隷のように画一化された行動に服従している彼らの顔を見ると、やはり一様に表情が乏しい。子どもの野性をもってすれば、たとえばかつてビクトル・エリセが《ミツバチのささやき》(1973)でひじょうに印象的に描き出したように、焚き火の炎の上を嬉々として飛び越えることだって可能なはずだ。未成熟に開き直ることほどみっともないことはないとはいえ、成熟とはなんと退屈なことだろうか。
2010/07/22(木)(福住廉)
没後25年 鴨居玲 終わらない旅

会期:2010/07/17~2010/08/31
そごう美術館[神奈川県]
1969年に安井賞を受賞、85年に57歳で世を去った具象画家の回顧展。醜くデフォルメされた人物像、暗い色調、露悪趣味などいかにも一世代前の日本の具象画といった印象だ。いまの若い人たちの軽快な絵と比べると、いったい鴨居はなにを悩んでいたのかと不思議な気がしてくる。あらためて時代の残酷さを感じてしまった。
2010/07/22(木)(村田真)
すみだ川アートプロジェクト「遠藤一郎:隅田川いまみらい郷土資料館」
会期:2010/06/25~2010/07/25
すみだリバーサイドホール・ギャラリー[東京都]
「すみだ川アートプロジェクト」とは、東京の下町を貫く隅田川を、たんなる自然環境としてではなく文化資源としてとらえなおそうとするアートプロジェクト。昨年からはじまり、今後80年間を見通した長期的かつ継続的なプロジェクトとして構想されているという。今回は未来美術家・遠藤一郎を中心としたグループが、隅田川の河口から源流の甲武信岳まで173kmの川沿いを調査した結果、河原に廃棄されたゴミを再構成したオブジェや河の水であぶり出した絵、流域で暮らす人びとへのインタビュー映像などを発表した。長大な旅の過程を体感させるには十分な内容といえるが、その一方でなんとも言えないもどかしさを覚えたのも事実だ。つまり、プロジェクトの内容も発表された作品も、いずれも想定範囲内のことばかりであり、こちらの虚を突くような突き抜けたアクションは見られなかった。正直にいえば、昨年のWahによる「すみだ川のおもしろい」のほうが、非常識きわまるアイディアを徹底して追究するバカバカしさにおいて、端的におもしろかった。そもそも隅田川とは荒川から分岐して東京湾に注ぐ河川であるから、正確にいえば、甲武信岳は荒川の水源である。それを承知のうえで隅田川の全長を173kmとするのであれば、その(よい意味での)「図々しさ」をもっと突き詰め、膨らませることができたのではないだろうか。大昔に甲武信岳の水源まで登攀したことのある身としては、山登りや探検、フィールドワークを方法としたアートに好感をもつのは事実だとしても、それだけではそうしたアウトドアの魅力には到底かなわいないと言わざるをえない。
2010/07/21(水)(福住廉)
TWSエマージング2010

会期:2010/07/03~2010/07/25
トーキョーワンダーサイト本郷[東京都]
公募展「トーキョーワンダーウォール」の入選者のなかから、さらに選ばれたアーティストを3人ずつ個展形式で紹介するエマージング展。今回は大小島真木、中田有美、佐藤翠で3人とも女性、のみならず、その前後の展覧会も名前から察するに全員女性ではないか。レベルも高い。大小島の物語の構築力にも舌を巻くが、なんといっても佐藤の絵画世界に脱帽せざるをえない。キャンヴァスにクローゼットの内部を描いたり、棚や鏡にペイントしたりしているのだが、その淡い色彩といい薄塗りの筆づかいといい達者なこと。いやあ得した気分。TWS、もっと注目されていい。
2010/07/21(水)(村田真)
Oコレクションによる空想美術館 アートバトルロワイアル

会期:2010/07/03~2010/07/25
トーキョーワンダーサイト本郷[東京都]
0000(オーフォー)、カオス*ラウンジ、now、20TN!(にじゅってん!)という表記するのも腹立たしいグループによるバトルショー。なかでもスーパーフラットなはずのネット上のマンガを量塊感あふれる物(ブツ)として見せたカオス*ラウンジと、8畳くらいの広さに「今」という字をコンクリートで固めて壊していくnowは、おじさんにもわかりやすかったナウ。
2010/07/21(水)(村田真)


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