artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

児玉靖枝 展「深韻2010」

会期:2010/07/06~2010/07/18

アートスペース虹[京都府]

梅雨明けも間近だったが訪問したときはどしゃ降りの雨がやんだばかりのどんよりとした空。画面の灰色がかった光と、透明な風の流れを思わせる色彩の重なりによる微妙な表情が、実際の外の風景と重なるようでもあった。まばゆい光の抜けるような鮮やかさではなく、しっとりとした湿度を孕んだ鈍い空気のなかの仄かなピンクや紫色の光、そのなかにスッと立つ木々のイメージは、目では確認できないその奥の、遠くの存在や風景の想像も喚起していく。描かれた情景と色彩の重なりから辿っていく時間の美しさにすっかり興奮してしまった。できることならもう一度見に行きたかった。

2010/07/10(土)(酒井千穂)

増田敏也展 -image-

会期:2010/07/06~2010/07/11

ギャラリーはねうさぎroom4[京都府]

雨傘やポリバケツ、水道の蛇口、有名ブランドを想起させるバッグ(中にはパンとネギが入っている)など、日常的な道具や雑貨、シチュエーションをモチーフにした陶芸作品は、表面が凸凹でモザイクのように彩色されている。低解像度のデジタル表現をイメージしてデフォルメしているのだが、昔のテレビゲームの画面からポイと三次元空間に飛び出したもののようで愉快だ。一見バカバカしくもあり、そのユーモアの壮快なインパクトが大きいが、仮想世界やイメージのフェイクという遊びにリアルな感覚と知性がうかがえた。

2010/07/09(金)(酒井千穂)

収蔵庫開帳! 広島ゆかりの作家たち 選・都築響一

会期:2010/04/24~2010/07/11

広島市現代美術館[広島県]

同館が所蔵するコレクションを都築響一が選び出した展覧会。鑑賞者がみずからの眼で作品の良し悪しを判断する機会は、すべての作品に平等に与えられなければならないという考えのもと、収蔵庫に長く眠っていた日陰のコレクションを「御開帳」した。25名ほどの出品作家は、なるほど、ほとんど知られていない「ローカル・ヒーロー」ばかりである。たしかに美術館の知られざるコレクションを公開したことは画期的だし、美術館の英断も評価できる。ただ、それらを従来の展覧会と同じように展示するだけでは、「鑑賞者がみずからの目で作品の良し悪しを判断する」ことは難しいようにも思う。ありていにいえば、それらの作品はどれもおしなべて凡庸に見えてしまうからだ。むしろ、それぞれの作家の経歴を今以上に深く調べ上げ、その物語とともに作品を見せるような仕組みを用意すれば、作品を見る取っ掛かりが増えるのではないだろうか。客観的で中立的な展示の態度が、鑑賞者の自由な判断をもたらすとはかぎらない。逆に、選者の明確な意図を込めた斬新な展示手法のほうが、鑑賞者の眼や思考を刺激することもなくはないだろう。たとえば同館でかつて催された市民キュレイターによるコレクション展は、支離滅裂で破天荒な展示手法がかえって新鮮だった。コンセプトが野心的で魅力的だっただけに、非常に残念である。

2010/07/09(金)(福住廉)

HEAVEN 都築響一と巡る社会の窓から見たニッポン

会期:2010/05/22~2010/07/19

広島市現代美術館[広島県]

編集者で写真家の都築響一の展覧会。『TOKYO STYLE』をはじめ、『ROADSIDE JAPAN─日本珍紀行』『巡礼~珍日本超老伝~』など、これまでの都築の活動を一挙に振り返る構成で、ちょうど一冊のスクラップブックのように編集された展覧会は、混沌としていてじつに楽しい。じっさい、出品された作品の大半は写真だったが、それらを解説する短いテキストが添えられていたから、観覧者はおのずと写真を「見る」というより、「読む」ように仕向けられていた。かつて井上雄彦が美術館を丸ごと漫画に見立てたように、おそらく都築は美術館を一冊の雑誌に仕立て上げようとしたのだろう。じっくり読み進めていくと、なるほど奇妙な物体や奇人の視覚的なインパクトを楽しむだけでなく、それらの背景にひそむ物語の一端を垣間見ることはできる。とはいえその一方で、それらの情報はあくまでも水平的であり、ある一定の水準以上に深まっていくことはないのも事実だ。秘宝館のエロティックなインスタレーションを制作した作り手の姿は展示から見えてこないし、今回の展覧会を象徴するイメージとして採用された広島在住のホームレス、広島太郎にしても、突っ込みが甘いといわざるをえない。公立美術館で発表することのさまざまな制約を差し引いたとしても、得体の知れない人や物を発見して、それらを世間に伝えたいという「熱」がさほど強く感じられなかったのは、いったいどういうことなのだろうか。すでにある程度のキャリアを積んでいる都築が、いつのまにか「型」に収まってしまったということなのか、それともそうした「熱」を必然的に冷ましてしまう美術館という文化装置に由来しているのか。正確なところは知るよしもないが、その「熱」を浴びたことのある読者としては「もっと見たい、もっと見せろ、もっとやれ!」と思わずにはいられない。

2010/07/09(金)(福住廉)

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束芋:断面の世代

会期:2010/07/10~2010/09/12

国立国際美術館[大阪府]

横浜美術館で開催された個展の巡回だが、会場構成と一部の作品の展示スタイルが異なっており、横浜とは一味違う仕上がりとなった。特に迷路のような導線は、束芋の世界観とシンクロして効果的だった。映像作品は前半の団地をテーマにしたものと、後半の内省的な作品に二分されるが、筆者は後半の作品に可能性を感じた。デビュー以来、現代社会に対するシニカルな批評性云々で語られてきた束芋だが、その固定化した肩書きをもうそろそろ外してもよいのでは。展覧会の中間部には新聞小説『惡人』の挿絵がずらりと並んでおり、実に壮観。線の魅力こそ彼女の最大の魅力だと改めて実感した。また、『惡人』からインスパイアされた映像インスタレーション《油断髪》が放つ不穏な気にも圧倒された。

2010/07/09(金)(小吹隆文)

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