artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

TKG Projects ♯2 伊藤彩

会期:2010/06/25~2010/07/10

TKG エディションズ京都[京都府]

サントリーミュージアム[天保山]で開催された「レゾナンス 共鳴」展にピックアップされ、一躍注目を浴びた伊藤彩。作品が持つ、どこか書き割り的なレイヤー状のパースペクティブに興味を持っていたのだが、会場に置かれた資料を見てその謎がやっと判明した。彼女はアトリエで、布地、マケット、ドローイングや写真を切り抜いた立て版古状の小オブジェなどを組み合わせて情景を作り、その情景を撮影した画像を元に作品を描いていたのだ。一見イマジネーションのみで描いたように見える作品が、実は綿密な計算に基づいて描かれていたことを知りビックリした。本展は“思春期男子の部屋”という設定で、絵画と立体によるインスタレーションが展開されていたが、空間の濃密さも「レゾナンス」展より向上しており、小規模ながら見応えのある個展となった。

画像:《妄想くん》2010年 59.4 x 84.3cm oil on canvas

2010/07/06(火)(小吹隆文)

束芋 断面の世代

会期:2010/07/10~2010/09/12

国立国際美術館[大阪府]

昨年、横浜美術館で開催されたものの巡回展だが、そのときとは会場の構成が異なり、全体的に印象も違っていたのが面白い。暗い迷路状の会場を歩いていると、実に奇妙な束芋ワールドを彷徨っているよう。「個」の存在が外部世界との関わりのなかで変化していくありさまを映像として二次元から三次元に立体的に展開していくその表現に一層独特の雰囲気と説得力を与えていた。個の内面と外の世界、作品ごとに異なる「断面」の切り口が、暗闇の中で交錯していく感じが想像をさらに喚起する。吉田修一の新聞連載小説『悪人』の挿絵、手や指先、髪の毛など、身体の一部分が絡み合うドローイングがずらりとならぶ空間は不気味でありながら美しい。まさに壮観の眺めだった。

2010/07/05(月)(酒井千穂)

詫摩昭人 展 逃走の線─サハラへ

会期:2010/07/01~2010/07/06

紀伊國屋画廊[東京都]

一見するとモノクロームの風景画。だがよく見ると、画面の全体に無数の線が垂直方向に走っている。作家によれば、油彩が乾かないうちに刷毛を一気に引きおろすのだという。サハラ砂漠の荒涼とした光景は、おびただしい線条によって、あたかも砂漠に雨が降っているかのようにも見えるが、対象の輪郭をあえて漠然とさせることに「逃走の線」というコンセプトのねらいがあるようだ。それは対象を写実的に再現することから逃れ、あるいは抽象化の手続きに則ることからも逃れるために開発された絵画的な方法なのだろう。今回の場合は寂寥感のある光景だったため、直線による茫漠がロマンティシズムとあまりにも直接的に結びついていたように思われたが、別のモチーフでは意外な効果が生まれるかもしれない。

2010/07/05(月)(福住廉)

中岡真珠美 展

会期:2010/07/05~2010/07/17

O ギャラリー eyes[大阪府]

中岡の作品は一見抽象画に見えるが、実はアトリエ周辺の風景などを組み合わせて再構成したものだ。ところが新作では作風が一転、採石場や道路沿いののり面など、モチーフがあからさまに登場していた。これにはアトリエの移転が大きな影響を与えている。今まで大阪の中心部に構えていたアトリエを、1年間限定で日本海沿いの田舎町に移したのだ。新アトリエでの制作はあと半年間続くので、彼女の作風が更なる進化を遂げる可能性もある。次の個展でどんな作品が見られるのか、今から楽しみだ。

2010/07/05(月)(小吹隆文)

《深川ラボ&深川いっぷく》

[東京都]

東京都立現代美術館のすぐ近く、深川資料館通りに、通りを挟んで向かい合うように、深川ラボと深川いっぷくは位置している。深川ラボは、現代美術ギャラリー、アートショップ、ディレクター白濱雅也氏らの制作アトリエを兼ねたスペースであり、浅草橋にあるギャラリー、マキイマサルファインアーツのサテライト実験工房という位置づけでもある。一方、向かいの深川いっぷくはコミュニティカフェ兼ギャラリースペースであり、地域の人たちや美術関係者が気軽に集うサロン的スペースとなっている。実際行ってみると、ひっきりなしに人々が訪れ、お茶を飲み、語り、帰っていくという、とても居心地の良い場所であり、このようなスペースはほかにあまりないだろう。似た場所として、金沢のCAAKがあげられるかもしれない。現代美術館の近くに、オルタナティヴな方向性の場所をつくっているという点でも似ている。二つの施設は、下町と現代美術を結びつける導入口ともなっており、街に開かれた美術スペースとして機能しているといえるだろう。

深川ラボURL:http://mmfalabo.exblog.jp/
深川いっぷくURL:http://www.fukagawa-ippuku.jp/

2010/07/03(土)(松田達)