artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
須田悦弘

会期:2010/06/25~2010/07/31
GALLERY KOYANAGI[東京都]
壁面は余白のまま残し、柱の隅など目立たない場所に植物の木彫を10体ほどインスタレーションしている。モチーフは夏らしくアサガオが中心。もちろん一年中枯れないおトクなアサガオだ。須田といえば植物の木彫が定着したが、これからも植物を彫り続けるんだろうか、それともある日突然、違うものを彫り始めるんだろうか。いずれにせよ須田の作品は超絶技巧の木彫+絶妙なインスタレーションの2段構えだから強い。
2010/07/21(水)(村田真)
スウィンギン・ロンドン 50’-60’

会期:2010/07/10~2010/09/12
埼玉県立近代美術館[埼玉県]
50年代から60年代にかけてのイギリスで花開いた都市文化を検証する展覧会。べスパ、ミニスカート、トランジスタラジオなど、新しいファッションや工業製品を若者たちがこぞって消費する文化が定着したのがこの時代だが、展覧会の全体はほとんど商品の陳列に終始しており、消費文化を支えた若者たちの欲望の次元を掘り出すまでには至っていないようだった。古びたモノの数々は、当時の若者たちのノスタルジーを誘うことはあるのかもしれないが、それらが彼らの心理にどのように働きかけ、消費行動に導き、結果としてどのようなライフスタイルを生み出したのか、展示にはほとんど反映されていなかった。モノとしての作品を見せる(だけの)旧来の美術館の作法が、ここでも繰り返されていたわけだ。しかし、欲望のオブジェがさまざまな社会的関係と分かちがたく結ばれている以上、それらを展覧会というかたちで「検証」するやり方については、もう少し(自己)批判的に再考されるべきではないだろうか。モノを見せてよしとする美術の王道が通用する時代はとっくの昔に終わっているし、「検証」にはもっとたくさんのアプローチがある。たとえば、この時代の若者たちによって再編成されたモノと欲望の関係については、1979年のイギリス映画『さらば青春の光』(原題はQuadrophenia、つまり四重人格)が丁寧に描き出している。展覧会に満足できなかった人には、この映画を見ることをおすすめしたい。
2010/07/20(火)(福住廉)
Art Camp 2010

会期:2010/07/24~2010/08/12
サントリーミュージアム天保山(第二会場)[大阪府]
毎年この時期に開催されている学生や若手作家のグループ展。あいにく第一会場は休廊日だったが、塩見友梨奈、藤本絢子、久保田万絵、招待作家の花岡伸宏の4名の作品が展示されたサントリーミュージアム天保山での展示を見る。エントランスホールには、愛玩用に品種改良され、高値で売買される金魚の脆弱性にインスピレーションをうけ、不確かな存在の有様を描き出す塩見の絵画作品、皮膚という表層から溢れ出る感情を染色手法で表現した塩見の作品が展示されていた。曖昧なイメージから触覚などの感覚と過去の記憶を誘発する久保田の作品、花岡の彫刻は4階のテラス付近に。花岡の作品は、天井から吊り下げたものもある。どれも一見バカバカしく可笑しいのだが、時間の経過や状態、その変化をとらえる造形力とユーモアのセンスには唸るものがある。
2010/07/20(火)(酒井千穂)
SickeTel キュピキュピと石橋義正

会期:2010/07/18~2010/11/03
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館[香川県]
奇抜なパフォーマンスや映像作品で知られるキュピキュピが久々に再始動。その主宰者で、現在はテレビ番組『オー!マイキー』で知られる石橋義正とのダブル個展の形式で展覧会が開催された。会場は前半がキュピキュピ、後半が石橋に二分されている。キュピキュピの作品は、ステージ状の空間で繰り広げられる映像インスタレーションと、新キャラ「シッケモニカ」のための空間で構成されていた。かつてのような弾けたナンセンスな笑いは抑えられており、ブルーを基調としたムーディーな、しかしどこか虚無をたたえた世界観が新鮮だった。後半の石橋サイドは、《ブラック・リナ》と《ホワイト・スネーク》の映像作品2本立てだった。フェロモン全開で意地悪そうな美女が思いのまま振る舞う《ブラック・リナ》は、まさに石橋作品に登場する女性の典型。一方、《ホワイト・スネーク》は主演女優の身のこなしが素晴らしく、蛇女の存在にリアリティを与えていた。美術館がある丸亀市は「瀬戸内国際芸術祭」が開催されている高松市から電車で約20分の距離。芸術祭に出かけたなら、面倒がらずにこちらにも足を延ばすべきであろう。
2010/07/20(火)(小吹隆文)
森村泰昌モリエンナーレ まねぶ美術史

会期:2010/07/17~2010/09/05
高松市美術館[香川県]
「瀬戸内国際芸術祭2010」で盛り上がる高松で、もうひとつ見逃せないのがこちら。本展は、名画や歴史上の人物に扮した作品で知られる森村泰昌のルーツに迫れる展覧会だ。彼が学生時代から無名時代にかけて描いた、美術史上の巨匠や先達のスタイルを真似して描いた作品を、その元ネタと並べて展示している。ギター少年は練習のために好きな曲をコピーするが、美術家でも同じようなことをする人がいたとは驚きだ。しかも凄いのはその量とジャンルの幅広さ。洋の東西を問わず、20世紀美術をむさぼるように真似て創作の血肉としていたのだ。美術家・森村泰昌の基盤にこうした無数の真似び(=学び)があること、そして美術への深い愛があることを初めて知った。本展を見ると、彼が現在の作風に至った必然性がよくわかる。そして展覧会のクライマックスは、田中敦子の《電気服》と、森村の《光と熱を描く人/田中敦子と金山明のために》の共演だ。ともに大阪の鶴橋を拠点に活動し、個人的にも交流があった両人。尊敬する先輩にオマージュを捧げたその空間は、本当に感動的だった。
2010/07/20(火)(小吹隆文)


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