artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

泉イネ展「未完本姉妹 影の春光」

会期:2010/06/26~2010/07/31

小山登美夫ギャラリー6F[東京都]

本好きの女性たちが寄り集まって本姉妹を結成。その集いを映像や写真に撮ったり、彼女たちの持ち物を描いたりしている。だから「未完本姉妹」は「未完本の姉妹」ではなく、「未完の本姉妹」なのだ。重要なのは、未完なのに姉妹(しまい)ということですね。それはともかく、こうしてなにか物語を設定したうえで、さまざまなメディアにより作品を紡ぎ出していくというのが泉イネのスタイルらしい。つまり、作品に外部性を持ち込むというか、作品の一部を外部にゆだねるというか。

2010/06/30(水)(村田真)

すみだ川アートプロジェクト2010「遠藤一郎:隅田川いまみらい郷土資料館」

会期:2010/06/26~2010/07/25

すみだリバーサイドホール・ギャラリー[東京都]

アサヒビール本社の前を流れる隅田川をどげんかせんといかんと始まった企画、今年は遠藤一郎が仲間とともに隅田川を源流までさかのぼり、調査、インタビュー、採集活動した成果を発表。水川千春は源流から河口までポイントごとに水を採取し、その水で紙に絵を描いて火にかざして「あぶり出し」ている。上流の水はきれいなので紙は真っ白だが、下流に行くほど不純物が多くなるため茶色く浮き出る。本当かよって疑いたくなるほど差がつく。河原に落ちてたものを拾ってきたやつもいる。松ぼっくり、自転車、IC回路など、これも上下流で落ちてるものがぜんぜん違う。おもしろいのは全長2メートルほどの恐竜の木製骨格標本。バラバラに落ちてたものを集めて復元しているのだから、化石と同じだ。感動的だったのは、時計だけ生きている自動炊飯器。飯を炊く機能は失われても、けなげに「生きている」。アサヒビールがつぶれても、人類が絶滅しても、この時計だけは時を表示し続けるような気がする。

2010/06/30(水)(村田真)

英ゆう個展「森」

会期:2010/06/02~2010/06/26

imura art gallery[京都府]

会期は異なるが、京都芸術センターと同時開催の英ゆうの個展。こちらの会場では、バンコクで制作した18点の版画作品と油彩画を展示。道路に面し、外からも会場の様子がうかがえるガラス張りのギャラリーなのだが、歩道の向こうから見える美しい色彩に目を奪われるような空間だった。手漉き和紙にエンボスがくっきりと現われた版画は植物や鳥などがモチーフになっているのだが、紙やインクの色もあわせて味わい深い豊かな表情が生まれていた。版画の手法自体は、レジデンスのバンコク滞在中に学んだそう。芸術センターに展示された作品に比べるとサイズ自体は小さいのだが、質量ともに見応えのある展示だった。

2010/06/26(土)(酒井千穂)

Art Court Frontier 2010 ♯8

会期:2010/06/25~2010/07/24

ARTCOURT Gallery[大阪府]

アーティストやキュレーター、ジャーナリスト、コレクターらが推薦する若手作家たちを紹介するグループ展。回を重ねるごとに作品が多彩になっているが、今回はその傾向が一層顕著だった。養蜂業とアート制作を融合させた埋橋幸弘(今村源推薦)や、マンハッタンにあるロバート・インディアナの彫刻作品『LOVE』の隣でゲリラ的に「愛」一文字のバルーンを膨らませた佐川好弘(江上ゆか推薦)、日常のさまざまな断片を空間にコラージュしてプライベートと創作が融合した世界を作り上げる宮本博史(手塚さや香推薦)はその典型。もちろん、絵画や写真、立体作品などもあり、いずれもハイクオリティな作品だった。また、コミュニケーションを重視した作品が目立ったのも今回の特徴だ。

2010/06/25(金)(小吹隆文)

カポディモンテ美術館 展

会期:2010/06/26~2010/09/26

国立西洋美術館[東京都]

ナポリの美術館から工芸や素描も含めて約80点の出品。パルミジャニーノ、ブロンズィーノらの不穏な肖像画、ラ・トゥール的光を描いたナポリ時代のエル・グレコ、イエスさまがVサインをしながら飛び跳ねてるヴァザーリの《キリストの復活》など、注目すべき絵画は少なくないが、1点選ぶとすれば、アルテミジア・ジェンティレスキの《ユディトとホロフェルネス》をあげたい。寡婦のユディトが敵将ホロフェルネスの寝首を掻くという艶かしくもおぞましい絵。アルテミジアの素性を知るとなお真に迫る。ちなみに別の画家による同主題の作品がもう1点、また、乳房を切られた聖アガタを主題とする絵も2点あり、血なまぐさいことこのうえない。絵画以外では、サイの角を彫った杯、貴石をあしらった小箱、象牙による小さな彫像など、カポディモンテ美術館の基礎を築いたファルネーゼ家のヴンダーカマー(イタリアでは「ストゥディオーロ」と呼ばれた)を飾ったであろう珍奇な工芸品も一見の価値あり。

2010/06/25(金)(村田真)