artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
ウィリアム・エグルストン「パリ─京都」

会期:2010/06/05~2010/08/22
原美術館[東京都]
6月18日は何とも大変な一日だった。写真展を梯子して見ることは、それほど珍しいことではないが、この日は回った展覧会がすべて充実した濃い内容の展示で、さすがに相当の疲労感を覚えた。心地よい疲れではあるのだが。
まず、品川の原美術館でウィリアム・エグルストンの新作を見る。エグルストンはいうまでもなく、1976年のニューヨーク近代美術館での伝説的な個展で、「ニューカラー」と称されるカラー写真によるスナップショットの新たな領域を切り拓いた写真家だが、このところがらりとスタイルを変えてしまった。今回の「パリ─京都」のシリーズでは、まるでデジタルカメラで撮影したような(実際には35ミリと6×7のフィルムカメラ)軽やかな浮遊感が漂うイメージが、鮮やかな原色で乱舞していて、その吹っ切れたような自由な撮影ぶりに開放感と昂揚感を覚えた。「ニューカラー」という枠組み自体を、自分で軽々と乗りこえてしまているのだ。写真とドローイングがカップリングされているフレームもあり、このサインペンや色鉛筆でさっと描かれたドローイングがまた、実におしゃれで決まっている。
若い日本の写真家に、僕が「網膜派」と密かに呼んでいる、デジタルカメラを使って被写体の表層的な物質性に徹底してこだわる作風が芽生えつつある(小山泰介、和田裕也、吉田和生など)。ところが、彼らがやろうとしていることを、70歳を越えたエグルストンが先取りして、しかも見事に達成してしまった。これでは彼らの出る幕がないわけで、これはこれで困ったことではないだろうか。
2010/06/18(金)(飯沢耕太郎)
ガロン第1回展

瑞聖寺ZAPギャラリー[東京都]
会期:2010/06/11~2010/06/13、2010/06/18~2010/06/20
日本画系の美術家によるグループ展。画家の市川裕司、大浦雅臣、金子朋樹、佐藤裕一郎、西川芳孝、松永龍太郎と、美術史研究者の小金沢智をあわせた7名がガロンのメンバーだ。今回の個展では白金の瑞聖寺にあるギャラリーで小金沢によるコーディネートのもと、他の6人のメンバーが2つのフロアに分かれて作品を発表した。なかでもとりわけ際立っていたのは、金子朋樹。空中を行き交う軍用ヘリコプターの機影を和紙に墨などで描きつけた。その不穏な迫力もさることながら、支持体の表面をわずかに丸く湾曲させているため、それじたいがヘリコプターの機体のように見える。日本画という形式から内容を導き出すのではなく、描くべき内容から形式を開発するという知恵にこそ、アーティストとしての矜持があるのではないだろうか。
2010/06/18(金)(福住廉)
ロトチェンコ+ステパーノワ ロシア構成主義のまなざし

会期:2010/04/24~2010/06/20
東京都庭園美術館[東京都]
ロシア構成主義のロトチェンコとステパーノワによる作品約170点を見せる展覧会。ドローイングやタブロー、建築、グラフィックデザイン、演劇、写真など多方面にわたる作品を見ていくと、社会建設のなかで芸術の力を発揮させようとする意欲がたしかに伝わってくる。とりわけ写真は当時の社会建設の様子とロトチェンコの実験精神を同時に物語っており、興味深かった。けれども、たとえば労働者が労働の疲れを癒すためにつくられたという「労働者クラブ」は直線と直角で構成されており、はたしてこのようなデザインで心身ともにリラックスできるのか、大いに疑問が残る。生産のための労働はともかく、それ以外の時間はダラダラと過ごしたいのが人間の性というものだ。理念を追究するあまり人間の現実から離れしてしまったというところに、社会建設という壮大な実験の失敗があるように思われた。
2010/06/16(水)(福住廉)
アウトレンジ2010

会期:2010/06/09~2010/06/22
文房堂ギャラリー[東京都]
美大の教官が学生を選ぶ大学対抗グループ展。今回は金沢美大、東京造形大、美学校、武蔵美から学生5人と教官4人が出している。教官はO JUN、西島直紀、蓜島伸彦、宮島葉一で、小品のみ。学生の作品ともども売ってるが、食指は動かなかった。
2010/06/15(火)(村田真)
「小屋丸:冬と春」試写会
会期:2010/06/15
映画美学校試写室[東京都]
2003年の越後妻有アートトリエンナーレ「大地の芸術祭」で、十日町市の小屋丸集落に《リトル・ユートピアン・ハウス》をつくったジャン=ミッシェル・アルベローラが、その小屋丸の厳しい冬を撮ったドキュメンタリー映画。テーマはひとことでいえば、キャッチコピーにあるように「なつかしいユートピアがここにある」。出てくるのはじいちゃんばあちゃんばっかだし、もともとモノクロに近い雪国をモノクロで撮っているので、エンタテインメントにはほど遠い映画ではある。が、だからつまらないかといえばそうではなく、その情報の少なさや田舎的時間の流れが逆に見る者を覚醒させ、近ごろ珍しくモノクロームな気分に染め上げてくれる。まあ越後妻有にもアルベローラにも地域文化にも興味なければ、退屈きわまりない映画だろうけど。
2010/06/15(火)(村田真)


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