artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

村瀬恭子「遠くの羽音」

会期:2010/04/10~2010/06/13

豊田市美術館[愛知県]

水に浸かる少女を描いた初期の作品から、その少女が森や洞窟へと歩み出すという近作で村瀬恭子の表現の軌跡をたどるとともに、初公開の10点の新作とインスタレーションによって新たな展開も紹介。会場は大型の新作が並ぶ空間に始まり、過去作品へと遡っていくように構成されていた。人物などのモチーフと背景との境界が線ではなくおもに色の面によって表わされる村瀬のペインティング。ときに伸びやかで、ときに荒々しい筆致や、独特の色彩、図と地が溶け合い同化していくような作品世界の不安定な雰囲気の魅力もさることながら、今展でなにより圧巻だったのは、洞窟に見立てた壁画のインスタレーション。黒いカーテンを潜り、真っ暗な空間を数歩進むと、その先にさらに暗幕がある。開けると展示室の三面の壁に鉛筆で描かれたというウォールドローイング《100万年Cave》の空間が出現する。洞窟を彷徨う少女たちと森や山の風景を俯瞰するように描いたこの壁画は、作家が15日間かけて制作したものだという。ほとんどが鉛筆なのだが、花や星の輝き(?)など、ところどころに少しだけ色が使われている。それらは、まるで暗闇の中で見つけたとても遠くの光のように尊く思われて、時間をともなった物語への連想も掻き立てていく。じっくりと眺めているとまるで静かに進行する劇場空間に立っているかのような気分。入ったときは運良く監視員の女性の他に誰もおらず、この空間をしばしひとりで堪能できたのが嬉しい。

2010/06/11(金)(酒井千穂)

室内風景「西尾真代」

会期:2010/06/10~2010/06/13

よこはまばしアートピクニックTOCO[神奈川県]

床屋さんだった店鋪を改装したギャラリー(だからTOCO)にも興味をもったが、なにより西尾真代の作品を見たかったので、横浜市営地下鉄の板東橋まで足を伸ばす。彼女は一貫して自分んちの室内風景ばかりを描いているのだが、いわゆる広角でとらえた室内風景ではなく、柱や階段や天井の一部、下から見上げた照明など、部分を拡大して半抽象化したかたちばかり。しかもその家は西洋風のお屋敷ではなく、1世代前の木造モルタルの典型的な日本家屋……と、こう書いていま気づいたが、彼女の絵には高橋由一の匂いがするのだ。つまり、日本的な風土・環境のなかに油絵を順応させようとする四畳半的座敷わらしの匂いというか。とくに今回は床屋さんの家屋が彼女の描く室内図と近い質感をもっているため、展示場所としてはハマリすぎくらいにハマっていた。

2010/06/11(金)(村田真)

トーキョーワンダーウォール公募2010入選作品展

会期:2010/05/29~2010/06/20

東京都現代美術館[東京都]

あいかわらずいまどきの絵画が中心だが、今回からだろうか、立体作品も何点か出ている。中国の彫り物みたいに極端に彫り込んだ木戸龍介の大理石彫刻と、たくさんのフィギュアを溶かして板状に固めたthreeの作品に注目。別のフロアでは、ワンダーウォールの10年を振り返る展示が行なわれ、大巻伸嗣、桑久保徹、流麻二果、日野之彦らいまをときめく(?)アーティストが出品。トーキョーワンダーウォール、よくも悪くもゼロ年代を代表する展覧会だったのかも。

2010/06/10(木)(村田真)

フセイン・チャラヤン──ファッションにはじまり、そしてファッションへ戻る旅

会期:2010/04/03~2010/06/20

東京都現代美術館[東京都]

なんだファッションかよ。でもイスラム圏のトルコ出身というので見に行く。イスラムのファッションて基本的に身体を隠すだけだからね。ところが作者は、トルコ系だけどキプロス出身で、どこにもイスラムとは書いてない。誤った情報をウノミにして、勝手に妄想を膨らませていたのだ。ともあれ、最初にボロボロのドレス(土中に埋めて掘り起こしたもの)が展示されていて「お、いいじゃん」と期待したのだが、そのデビュー作(セント・マーティンの卒業制作でもある)を超える作品はなかったように思う。スピード、移民、遺伝子などの現代的なテーマを掲げ、レーザーやLEDといったテクノロジーを導入してるんだけど、そうしたテーマや手法そのものがモードとして消費されているようで、やっぱりファッションなんだなあと。

2010/06/10(木)(村田真)

英ゆう 個展「外を入れる。」/「森」

外を入れる。
会期:2010/05/25~2010/06/13
京都芸術センター大広間[京都府]
会期:2010/06/02/~2010/06/26
イムラアートギャラリー[京都府]

2007年秋から2009年末までタイのシラパコーン大学でレジデンスを行なっていた英ゆうが、その成果を2会場で披露した。京都芸術センターは油彩画が中心で、タイの市街地で頻繁に見かける供花を描いた大作が多い。一方、イムラアートギャラリーは銅版画に比重が置かれており、植物や動物などをモチーフにした色鮮やかな作品が目を引いた。銅版画はこの度のレジデンスで習得したばかりなので、まとまった形でわれわれの眼に触れるのは今回が初めてだ。新たなアウトプットを手に入れた英が今後作風をどのように深化させていくのか、興味が募る。

2010/06/09(水)(小吹隆文)