artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
加藤大季/秦雅則「性の話」

会期:2010/06/22~2010/06/27
企画ギャラリー・明るい部屋[東京都]
いま、とにかく面白い展覧会を続けて開催しているのは、新宿・四谷の企画ギャラリー・明るい部屋だと思う。その推進力になっているのは、メンバーのひとりである秦雅則の「企画力」なのではないだろうか。加藤大季との二人展「性の話」を見ながらそう思った。自分の個展に加えて、他の写真家たちとのコラボレーション点を積極的に組むことで、ギャラリーの活動を活気づけることに成功している。
今回の加藤との二人展は「ちょっぴり卑猥な勃起時等身大(虚像?)写真展」ということで、性風俗店でバイトをしているという加藤の「肉食系」のキャラと、やや控えめにそれを受けて立つ秦のスタイルがうまく噛み合って、なかなか見応えのある展示になっていた。中心になっているのは鞭やバイブレーターなど、性の用具のクローズアップ写真と、大量に壁に貼られた性行為のスナップ写真群(加藤撮影)なのだが、その上部に何とものほほんとした秦撮影のポラロイド写真とラフな造りのブックが置かれることで、ともすれば生々しい方向に傾きがちな「性の話」を、あまりエスカレートさせることなくうまくやわらげている。秦雅則の語り口のうまさによって、加藤の「 み」が強いストレートな写真の魅力が、いきいきと発揮されているようにも感じた。予定では活動期間はあと半年あまりだが、これからも「企画力」を活かしてのびのびとした展示を見せていってほしいものだ。
2010/06/25(金)(飯沢耕太郎)
絵本界の巨匠 モーリス・センダック

会期:2010/06/03~2010/07/13
教文館ナルニアホール[東京都]
《かいじゅうたちのいるところ》で知られる絵本作家、モーリス・センダックの展覧会。展示はリトグラフのほか、映像や絵本などで構成されていた。《まよなかのだいどころ》《わたしたちもジャックもガイもみんなホームレス》など、センダックの絵本で育った者にとっては幼年期に形成された心象風景に改めて直面させられるような気恥ずかしさを覚えてならないが、今回の展示で初めて知ったのは、センダックが他のクリエイターによる絵を積極的に模倣していたということ。ランドルフ・コールデコット、アーサー・ヒューズ、ウィンザー・マッケイ、そしてウォルト・ディズニー。先人たちのなかにセンダックを惹きつける「何か」があり、それを模倣することによって彼自身のなかに眠っているその「何か」を探り当てようとしたのだという。「巨匠」といえども、いやだからこそというべきか、このような模倣(パスティーシュ)と無縁ではなかったという事実は、ポストモダニズム以後も依然としてオリジナリティの神話が根強く残っている芸術の世界を逆に浮き彫りにしている。
2010/06/24(木)(福住廉)
細川護熙 展 市井の山居

会期:2010/04/22~2010/07/19
メゾンエルメス8階フォーラム[東京都]
元首相・細川護熙の個展。会場を「市井の山居」として見立て、藤森照信の設計による草庵(茶室)を中心に、茶碗や壺、油絵、掛け軸、屏風などを随所にちりばめた。全体的に仏教的な世界観が通底しており、いかにも「和」の趣味性が強く醸し出されているが、どこかでちぐはぐな印象を禁じえないのは、珍妙きわまる油絵がてらいなく展示されているからだろう。この違和感が、稚拙な油彩の技術に由来していることはまちがいない。けれどもあえて深読みすれば、それは期せずして日本の伝統観を正確に反映しているようにも思えなくもない。熊本城や達磨、蓮といった「和」のイメージを、西洋伝来の油絵で描くことは、古来から連綿と継承されてきた伝統というより、むしろ西洋の文化や芸術を取り込みながら絶えず更新してきた伝統の様態を指し示しているからだ。細川があらわにしていたのは、日本の文化の底辺に構造化された、恥ずかしいキッチュである。どうあがいたところで、この宿命から逃れる術は、いまのところ、ない。
2010/06/24(木)(福住廉)
しまだそう展 せこはん景色

会期:2010/06/14~2010/06/26
2KW58[大阪府]
一見、意味も脈絡もめちゃくちゃな組み合わせのモチーフがコラージュされたように描かれた絵画なのだが、よく見ると横に並んだ作品の図形が相似になっていたり、色のイメージが連続していたり、空間的なまとまりを思わせる構成だったりと、よく考えられているのが解る。全体に横山裕一のカラーマンガみたいな雰囲気がありイメージが重なるのだけれど、色彩や構図のセンスが凄いので今後の活動も気になる。
2010/06/24(木)(酒井千穂)
落直子 展「編み込まれた風景」

会期:2010/06/14~2010/06/26
2KW gallery[大阪府]
山などの風景や植物をイメージしたものを線で描いているのだが、絡まる糸のように繊細な線が増殖し拡散するそのありさまは、顕微鏡で見た単細胞生物か繁茂する植物のよう。近づいてよく見ると、その模様のような線の中に、靴やバッグ、仏像などもまさに編み込むように描かれているのが愉快だ。おもにペンを用いていた前回の個展では、余白の効果にも浮遊するようなつかみどころのない印象があり、全体に儚い雰囲気があったのだが、今回はアクリル絵の具を用いたそうで繊細な部分よりもモチーフの存在感、発色や筆のタッチのほうに視線が向いてしまう。今回は具体的なイメージに結びつく要素が多いのかなあ。見る側の想像を掻き立てる密やかな性質もあるだけに、少しもったいない気もした。
2010/06/24(木)(酒井千穂)


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