artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

仲山姉妹「菊ヲエラブ」

会期:2010/06/28~2010/07/15

ガーディアン・ガーデン[東京都]

「仲山姉妹」といっても実体はひとり。1984年生まれで2009年に武蔵野美術大学油絵学科を卒業し、リクルートが主催する「1_WALL」(「写真ひとつぼ展」を改称)でグランプリを受賞した。本展はその1年後の新作発表である。グランプリ受賞作の「化石」は、病気療養中の祖父の「記憶や感情の化石を掘り起こす」という、オブジェを使ったユニークなパフォーマンスを撮影したポートレートだった。だが、彼女の基本的なスタイルは北海道のじゃがいも農場、宮崎県の切り干し大根工場、そして今回の鹿児島県沖永良部島のスプレー菊の栽培農家のような、普通はあまり思いつかないような職場で実際に働き、その経験を素材として熟成させていく写真・映像作品である。日常的な場面の積み重ねではあるが、その切り取りの角度が独特で、語り口ものびのびとしていて気持ちがいい。たとえば人工栽培の菊はとてもひ弱で、針金の支えがないと根元からポッキリ折れてしまうのだという。「人間でいうと箱入り娘なんだろう。……こんな女子がいたら厄介だと思うけど、それって実は私だったりして。いま気づいたよ」(リーフレットより)。このように実体験から得られた認識をしっかりと育てあげ、写真や映像で表現していく姿勢がきちんとしていて揺るぎがないことに好感が持てる。むろんまだそのスタイルがしっかり固まっているわけではないが、何かをやってくれそうな大物感が漂っている。

2010/07/01(木)(飯沢耕太郎)

上野政彦作品展

会期:2010/06/29~2010/07/11

ギャラリーはねうさぎ[京都府]

大学卒業以来30年間過ごした共同アトリエの移転にともない、これまでの作品を片付けることになったものの、どうしてもそのほとんどを処分することができなかったのだそう。今展には、作家が自選した数十点の立体や平面の作品が並ぶ。繊細でミニマルな表現が多いのだが、それらのオブジェやドローイングは、モノの認識や見る側の常識の枠を外すように、記憶や風景などの想像を喚起する。光、色、素材を丁寧に見つめながら、うまずたゆまず制作に取り組んできた作家の姿が目に浮かぶような空間でもあった。

2010/07/01(木)(酒井千穂)

パラモデルの 世界はプラモデル

会期:2010/06/26~2010/08/01

西宮市大谷記念美術館[兵庫県]

パラモデルといえば玩具のプラレールを用いた無限増殖的なインスタレーションが思い浮かぶ。しかし、彼らは絵画、写真、映像、立体の小品など、さまざまなジャンルの作品を発表している。本展はそんな彼らのバリエーションを網羅的に示した点に意義がある。もちろんインスタレーションも実施されており、プラレールのほかパイプを用いた大作も見られた。ただ、彼ら自身が直接作業をする中小企業的な制作スタイルは、規模的にそろそろ限界ではないか。これ以上になるとゼネコンよろしく下請けを使いこなす方向に移行せざるをえないかもしれない。その意味でも、本展はパラモデルの重要な折り返し点と位置付けられる可能性がある。

2010/07/01(木)(小吹隆文)

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前衛下着道─鴨居洋子とその時代

会期:2010/04/17~2010/07/04

川崎市岡本太郎美術館[神奈川県]

下着デザイナー、鴨居洋子(1925-1991)の展覧会。実用的だが美しくはないメリヤス下着から、実用的であり美しくもあるナイロン製の下着へ。本展は鴨居によって革新された下着を中心に、彼女が描いた絵画、岡本太郎によって撮影された下着ショウの写真や細江英公によって撮影された鴨居の人形《大人のおもちゃ》の写真、下着ショウの舞台美術を手掛けたことのある具体美術協会の《具体美術まつり》の記録映像や鴨居みずから監督した映画『女は下着でつくられる』、劇団唐ゼミによって再構成された舞台装置などが一挙に発表され、盛りだくさんの内容でたいへん見応えがあった。なかでも、際立っていたのが犬や猫など動物と自分を描いた油絵。鴨居と動物の強い結びつきを如実に物語っているが、陰鬱で寂寥感にあふれた画面からは、「死」のイメージとともに、鴨居の厭世的な気分が強く伝わってくる。だが、それは鴨居が動物を擬人化した世界の女王として君臨するというより、むしろ動物の世界に救済を求めて動物に寄り添う心理的な弱さを表わしているような気がした。そうした「弱さ」が、時代の先端を力強く切り開いてきた鴨居の前衛精神のなかに同居していたことがおもしろい。

2010/06/30(水)(福住廉)

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松本央 個展 vol.1『無常の空間─108人の自画像─』

会期:2010/06/22~2010/07/15

BAMI gallery[京都府]

松本は自画像をテーマにしている若手画家だ。本展の出品作は大学の卒業制作展に出品した大作。108人の自分が京都・三十三間堂の千体千手観音立像と同じ並び方でずらりと描かれている。制作は1人ずつ順に完成させる方法がとられた。1日に1人ずつ完成させるとしても108日かかる計算だ。そのせいか、途中でやけに痩せた自画像があったりする。実際にその時期は痩せていたのか、延々と続く作業に根負けしたのかは定かではないが、そのブレがかえって人間臭さを醸し出しており、好感を持った。

2010/06/30(水)(小吹隆文)