artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
プレビュー:北城貴子 展──Circulation of the light

会期:2010/07/10~2010/08/07
ギャラリーノマル[大阪府]
森の木立や水辺の情景などを移ろいゆく光の情景として捉えた北城貴子の作品。デビュー時には抽象度が高かった画風は徐々に具象へとシフトしているが、ギャラリーノマルでは約3年ぶりとなる今回の個展では光との一体感を強調した新たな画風が見られそう。写真のソラリゼーションを思わせる白く飛んだ部分が印象的な新作に注目してほしい。
2010/06/20(日)(小吹隆文)
プレビュー:Trouble in Paradise/生存のエシックス

会期:2010/07/09~2010/08/22
京都国立近代美術館[京都府]
京都市立芸術大学創立130周年記念事業に協賛して開催される企画展。生命、医療、環境、宇宙における芸術的アプローチをテーマに、12の先鋭的なプロジェクトが紹介される。プロジェクトのうち、松井紫朗らがJAXAと共に取り組んできた「宇宙庭」は既に某展覧会で見たことがあるが、他のプロジェクトは想像がつかず、見慣れた美術展とはまったく異なる状況になる可能性が高い。学際的な挑戦により21世紀の新たなアート像が垣間見られることを期待している。
画像:《未来の家政学・Tea House of Robots》
rootoftwo + PLY Architecture (University of Michigan)
2010/06/20(日)(小吹隆文)
吉増剛造「盲いた黄金の庭」

BLD Gallery[東京都]
会期:第1期/6月18日~7月11日、第2期/7月14日~8月8日
最後に銀座2丁目のBLD GALLERYで開催される吉増剛造展のオープニングへ。岩波書店から出版された同名の写真集(20年間の作品からセレクト)の刊行記念展である。吉増剛造は詩作のほかにも、評論、エッセイ、パフォーマンス、映像作品、銅板に言葉を刻むオブジェ作成、そして写真など、多彩な分野で表現者として活動している。だが何をやっても本来的に「詩人」の仕事に見えてくるのがすごい。その存在のあり方が、そのまま「詩人」であるとしかいいようがないのだ。
「写真家」としてのキャリアはかなり長く、1990年代初頭から本格的に写真作品を発表しはじめた。2000年代になると、今回の展示作品のようにパノラマカメラを使った多重露光作品が中心になってくる。多重露光という、何がどのように写り込むのかわからない偶然性を呼び込む手法は、吉増のシャーマン的な体質にぴったりしているのだろう。それに細く芯を尖らせた鉛筆で書き込まれた、繊細な筆致のテキストが付け加えられることで、魔術的な雰囲気がより強まっている。写真と詩をシンクロさせる試みは、これまでもないわけではないが、吉増の積極的な活動に刺激されて、若い世代にその領域を拡張していく試みがあらわれてくるといいと思う。
2010/06/18(金)(飯沢耕太郎)
暗がりのあかり チェコ写真の現在

会期:2010/06/19~2010/08/08
資生堂ギャラリー[東京都]
鑑賞日:2010年6月18日
続いて銀座8丁目の資生堂ギャラリーへ。「チェコ写真」といってもあまりぴんとこない人が多いのではないだろうか。僕もそうだったのだが、本展のカタログに原稿を執筆するため資料に目を通して、あらためてその多様性とクオリティの高さに驚いた。それとともに興味深かったのは、日本の近代写真史との共時性である。1920年代のピクトリアリズムの隆盛、30年代のモダニズムとアヴァンギャルド写真の到来、その後のドキュメンタリーやフォト・ジャーナリズムの高揚といった流れが、ほぼ共通しているのだ。
とはいえ、日本とは異質な要素もある。今回の出品作家はウラジミール・ビルグス、ヴァツラーフ・イラセック、アントニーン・クラトフヴィ─ル、ミハル・マツクー、ディタ・ペペ、イヴァン・ピンカヴァ、ルド・プレコップ、トノ・スタノ、インドジヒ、シュトライト、テレザ・ヴルチェコヴァーの10人で、1946年生まれのシュトライトから83年生まれのヴルチコヴァーまで、世代の幅はかなり広い。にもかかわらず、コントラストの強いモノクローム(黒と白のイメージ)へのこだわり、物質性と身体性を前面に押し出す語り口などが「チェコ写真」の特質として、くっきりと浮かび上がってきているように感じた。被写体に向き合う姿勢と作品の感触が、日本の作家の作品とは違っているのだ。個人的にはまさにカフカ的といえる、モノとモノとが密やかに囁き交わすような思索的な世界を構築するイヴァン・ピンカヴァの作品に強く惹かれるものを感じた。
この展覧会をきっかけとして、今度はチェコで「日本写真の現在」展が開催されるといいと思う。
2010/06/18(金)(飯沢耕太郎)
鷹野隆大「金魚ブルブル」

会期:2010/06/18~2010/07/22
ツァイト・フォト・サロン[東京都]
次に京橋のツァイト・フォト・サロンへ。個展のオープニングの前の時間というのはけっこう狙い目で、作者とゆっくり話をして作品を見ることができる。
鷹野だけではなく、北京で大きな個展を開催したばかりの安齊重男も姿を見せて、世界中のアーティストを撮影する時の興味深い話をうかがうことができた。
鷹野の作品は、「撮りはじめてからまだ2カ月」というまったくの新作で、ロールサイズの大判プリントが3点と全紙サイズのプリントが8点。被写体はすべて全裸、あるいは半裸体の男性である。テーマそのものは鷹野の作品としては決して珍しいものではないが、これまで以上にエロスの強度が増しているように感じる。たとえば、昨年刊行した『男の乗り方』(Akio Nagasawa Publishing)では、やはり男性のエロスを正面から扱っているが、そこではむしろ鷹野と被写体との「距離感」が意識されている。「距離を縮めようとする欲望こそがエロスを生み出す」ということだ。ところが、今回の「金魚ブルブル」では距離がかなり詰められ、「欲望を発生させるポイント」を見つけだすことに狙いが定まっていた。その意図はかなり突き詰められていて、何とも生々しい場面があっけらかんと展開している。『男の乗り方』も「あるようでない」写真集だったが、この「金魚ブルブル」もあまり例を見ないあからさまな直視型の男性ヌードである。その「ぬるり」「ぴちゃぴちゃ」とした肌の感触がなまめかしい。この新作を見ても、鷹野は写真家としての水脈をしっかりと見出しつつあるのではないかと思う。
2010/06/18(金)(飯沢耕太郎)


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