artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

泉太郎「クジラのはらわた袋に隠れろ、ネズミ」

会期:2010/01/16~2010/01/31

アサヒ・アートスクエア 4F/5f[東京都]

泉太郎の快進撃が止まらない。昨年後半の野毛山動物園、神奈川県民ホールギャラリーに続き、今回はアサヒ・アートスクエアの巨大な空間を存分に使い倒したインスタレーションや映像作品などを発表し、また会期中に滞在制作によって作品を変化させ続けた。高さ6mを誇る空間を占めるのは、大量の角材を組み合わせた「すごろく」。升目に描かれた指示に従いながらコマを進めていくゲーム性の高い作品である。昨年夏に、群馬県立近代美術館で粗っぽく蒔かれた種が、野毛山動物園で見事に発芽し、ここ浅草で一気に花開いたというわけだ。ただ、大きく成長したのは作品だけではない。泉太郎本人も、自分自身を新たなステージに押し上げようとしているように思われた。「日常/場違い」展の《さわれないやまびこのながめ》が市民の声やボランティア諸君の手を全面的に取り入れた作品だったように、今回のすごろく作品もまた、観客参加型の要素を前面化しているからだ。泉太郎といえば、孤独な一人遊びを次々と繰り広げていくのが最大の特徴だが、今回の展覧会ではむしろそれはあまり目立たない。いや、正確にいえば、泉太郎が興味の対象を一人遊びから観客参加型のアート作品へと切り換えたのではなく、観客を吸い込んでしまうほど一人遊びの磁力がますます強大になりつつあるということではないだろうか。これまでの孤独な一人遊びという段階から、共同的な一人遊びともいうべき新たな段階への進化。そのうち世界の隅々まで「すごろく」の升目を延ばしていくのではないかという妄想を抱かせるという点でいえば、泉太郎の作品は、たとえば淺井裕介や遠藤一郎の精力的かつ魅力的な活動と相通じるものがある。テン年代のアートを動かしていく大きな潮流は、すでに生まれている。

2010/01/31(日)(福住廉)

一人快芸術

会期:2009/12/19~2010/02/21

広島市現代美術館[広島県]

一人快芸術とは、「たった一人で充足し、そのうえ人に伝播する」芸術のこと。従来まで「アウトサイダーアート」として括られてきた知的障がい者による芸術的な表現や、美術の専門教育を受けていないアマチュアによる表現行為を総括する上位概念として打ち出された造語である。じっさい本展に出品しているのは、障がい者施設で働く人たちをはじめ、地域の共同体や都市の路上を舞台に何かを生産している人たちが大半で、吉村芳生や梅佳代といった著名なアーティストはむしろ少数派だ。ネーミングとしてはやや長い上に言いにくいという難点はともかく、展示の内容はどれもおもしろく、たいへんに見応えがあった。それぞれ没頭している対象や手法は異なるにせよ、共通しているのは、展示されているモノがいずれも行為や運動の一側面にすぎないということ。戦後の復興のなかで次々と変化していく広島の街並みをとらえた大量の写真や、駅の改修工事にあわせて作られては消えていく案内表示。疾走する電車を丸ごととらえた写真は文字どおり高速の運動を一瞬にとどめているし、祭りのたびに既製品を合成してつくられる奉納品は祭りが終われば元の日常生活に戻っていく。目の前の「作品」は行為の現われにほかならず、逆にいえば、それらの背後に流れている時間を想像的にとらえてはじめて、「作品」を鑑賞することになるというわけだ。けれども、だからといって、一人快芸術は「アウトサイダーアート」に代わる、新たなモードとして提示されているわけではない。むしろ、退屈なアートや古臭い美術、あるいはお堅い芸術などを、「ものをつくる」ないしは「からだを動かす」という原点に改めて引き戻すための入り口として提案されているのではないだろうか。頭を下げてその入り口をくぐり抜けてみれば、この世の中には、思いもつかないようなことに熱中しながら全身を動かし続けている人たちがたくさん生きていることに、新鮮な驚きとともに大きな感動を覚えることができるはずだ。本展のおかげで、そうした奇跡的な出会いをもたらす場として、美術館という場所はまだまだ十分に使えるということが判明した。ちょうど行為や運動が絶えず変化し続けているように、美術館の役割もまた、次々と転位していくのだろう。

2010/01/30(土)(福住廉)

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平展2010

会期:2010/01/23~2010/01/31

元・立誠小学校[京都府]

奥田真希のキュレーションによる名前に「平」のつく11名の作家のグループ展。「平」という文字の意味に焦点を当てた、このコンセプトの説得力はほとんどない気がしたけれど、グループ展ではなく11名の個展だ思えば気にならない。日が暮れてから訪れた会場で、特に目をひいたのは河合晋平の作品だった。薄暗い廊下に展示された、電気部品を組み合わせて制作された海の生きもののようなカタチや影が幻想的な雰囲気だ。空想の生物世界のイメージは先月大阪で見たときよりも美しく感じられた。荒削りな面もあるが、新岡良平の絵画も良い。透明感と静謐な雰囲気をもつ画面に誘い込まれていくような魅力があった。

2010/01/30(土)(酒井千穂)

現代工芸への視点──装飾の力

会期:2009/11/14~2010/01/31

東京国立近代美術館工芸館[東京都]

工芸館で「装飾」展。昔だったら絶対に見に行かなかっただろうなあ。「工芸」も「装飾」も現代美術では敵視されてたし。じゃあ時代が変わって好きになったかというと、もちろんそんなことはない。が、マイナスのマイナスはプラスに転じるように、ムダな装飾がゴテゴテついた思いっきり役立たずの工芸には惹かれるものがある。青木克世、佐合道子、花塚愛、村上愛あたりだ。愛がふたり、どちらも80年代生まれで、とくに村上はまたもや85年生まれの今年25歳。

2010/01/30(土)(村田真)

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山脇紘資 作品展“俺の国”

会期:2010/01/12~2010/02/13

ツァイト・フォト・サロン[東京都]

大きめのキャンヴァスに犬や猫の顔を正面から描いた絵。パンダもある。彼も1985年生まれの今年25歳。

2010/01/30(土)(村田真)