artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
井川淳子 展「バベル」

会期:2010/02/01~2010/02/06
藍画廊[東京都]
ブリューゲルの《バベルの塔》の画像が折り重なるように画面を埋めつくしたモノクロプリント。デジタル処理したのかと思ったら、絵のコピーを何百枚も重ねて実写したそうだ。これは少しソソられる。
2010/02/03(水)(村田真)
中田有香 展 うすごおり PATTERN3

会期:2010/02/03~2010/02/14
iTohen[大阪府]
植物の枝、葉、花びら、実などを素材にして、平面作品やオブジェを制作する中田有香。通常こうした素材を扱う作家はネイチャー指向に走りがちだが、彼女の場合、むしろグラフィカルな素養が前面に出てくるのがユニークだ。珍しいタイプの作家なので、この路線のまま突き進んでほしい。前回の個展で彼女と話した際、仕上げがやや雑だと指摘したのだが、本人が未だにその言葉を気にしていることが判明。あらら、悪いこと言っちゃったかな。言葉にはもっと注意を払わねば。
2010/02/03(水)(小吹隆文)
安楽寺えみ「CHASM─裂け目」

会期:2010/01/12~2010/02/20
ギャラリーパストレイズ[神奈川県]
安楽寺えみは1990年代から写真作品を制作しはじめ、2000年代以降に精力的に個展などで発表するようになった女性作家。アメリカのNazraeli Pressから写真集を刊行し、内外のグループ展にも参加するなど、存在感を強めている。本展の作品も、昨年、まずニューヨークのMIYAKO YOSHINAGA art prospectsで発表され、横浜のパストレイズ・ギャラリーに巡回してきた。
彼女の作品の中心的なテーマは、いつでも性的なイマジネーションである。これまでは男性性器に対する固執が目立っていた。といっても、草間彌生のように恐怖や強迫観念に支配されたものではなく、安楽寺のペニスは肯定的で幸福感に満たされ、どこかユーモラスだ。ところが、今回の展示では、タイトルが示すように裂け目=女性性器がもうひとつのテーマとして浮上してきた。暗闇にちょうどヴァギナの形の裂け目が刳り貫かれ、そこから着替えをしている女性の姿を覗き見ることができるのだ。とはいえ、作品から受ける印象は、決して窃視症を思わせる病的なものではなく、のびやかでエレガントであり、やはりほのかなユーモアが漂っている。このような品のいいエロティシズムは、日本の写真家ではなかなか身につけるのがむずかしいものだ。貴重な存在と言えるのではないだろうか。
2010/02/02(火)(飯沢耕太郎)
井上雄彦 最後のマンガ展重版 大阪版

会期:2010/01/02~2010/03/14
サントリーミュージアム天保山[大阪府]
日時指定の予約チケットが売り出されていたり、会場では整理券が配られているという点も他の展覧会ではあまり見られないことで興味をそそられた。平日の昼間でも行列になることが多いと聞き、朝一番で出かけたおかげでそんなに混雑していない状態で見ることができたけれど、会場ではじっくりと食い入るように作品を見つめている人の姿も多く見られ、熱心なファンが多いことも物語っていた。宮本武蔵を主人公にした有名マンガ『バガボンド』をモチーフに、墨と筆で書き下ろした作品を物語展開するという会場には、大小、さまざまな肉筆画が140点あまり展示されていたのだが、意外にも、あれっ?とあっけなくなるほどのスピードで見終わってしまった。あっという間。物語の切ない場面を三次元に示す展示の工夫もドラマチックだったし、面白くなかったわけではない。いろんな意味で「マンガ」と美術の違いを感じる会場で、むしろ新鮮でもあった。
2010/02/023(火)(酒井千穂)
物からモノへ モノ学・感覚価値研究会、展覧会

会期:2010/01/16~2010/01/31
京都大学総合博物館[京都府]
「もののあはれ」に象徴される日本文明のモノ的創造力と感覚価値を検証し、「モノ」と「感覚価値」をあらゆる角度と発想から考察する、という「モノ学・感覚価値研究会」の研究成果発表として開催された。会期中はシンポジウムやワークショップ、レクチャーなど、関連企画もいろいろ開催されていていたのだが、結局出かけたのは最終日。しかし運良く会場では、ちょうどクロージングイベントが始まったところだった。宇宙をイメージしたCG映像を背景に、宗教学者の鎌田東二が神主の白装束姿でホラ貝を吹き、ギターを演奏しながら歌う。そのなかで観世流能楽師の河村博重が能舞を披露。神秘的というよりも可笑しいのだけれど目は釘付けになった。その後展覧会場へ。展示ケースには絵画から、陶芸、詩といったものまでさまざまな作品が展示されているのだが、もともと博物館が所蔵する化石や土器などの資料も使って新たなイメージを創出するという展覧会で、まさに混とんの有様。ただ、文脈の異なるものが並列した展示を見つめていると、言葉の連想が広がりたしかに面白い。展示を見ながら想像の広がりによってモノのイメージやそれまでの認識がくずれたり、変化していく過程を楽しんだ。楽しみにしていたのは大舩真言の作品展示だったのだが、展示ケースのガラスに反射する照明の光が邪魔してどの角度から見ても、その微妙な表情が解りにくい。今展のテーマに沿って大舩が試みたインスタレーション自体は時間性を孕んだ興味深い主題だったので、それが発揮されておらず残念。
2010/01/31(日)(酒井千穂)


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