artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

吉田翔 個展 INSPHERE──つつみ込まれるように

会期:2009/12/05~2009/12/26

イムラ アート ギャラリー[京都府]

白と黒のみだけで描く吉田翔の新作展。モノクロという難しい表現で、ぼんやりと浮かび上がる夜の街の風景、花などを一貫してそのモチーフにしてきたが、彼のテクニックの目覚ましい向上は、技法という点だけでなく絵の具や支持体をはじめとするそのマチエールの熱心な研究にも裏打ちされていると感じた。自らの活動にはさほど関係のないように思われる伝統産業や技術の歴史にも詳しい。そういった面でも彼よりも若い作家の制作活動を牽引する存在になりそうで頼もしい。いろんな意味でこれからの活動の展開が楽しみな作家だ。頑張ってほしい。

2009/12/25(金)(酒井千穂)

オノ・ヨーコ「A HOLE」

会期:2009/12/05~2009/12/25

ギャラリー360°[東京都]

穴が空き、ひびの入ったガラス板が10数枚。銃弾を撃ち込んだものだ。ギャラリーの中央に、やはり穴とひび割れの入ったひときわ大きなガラス板が自立している。これを見てハタと思い出すのがマルセル・デュシャンの「大ガラス」だ。そういえば「大ガラス」は運搬中に偶然ひびが入ってしまったのだが、デュシャンはがっかりするどころか「これで完成した」と喜んだとか。これらのガラスの下方には「A HOLE GO TO THE OTHER SIDE OF THE GLASS AND SEE THROUGH THE HOLE(穴 ガラスの反対側に行き、穴を通して見ること)」と記されている。これを読んでハタと思い出すのが『鏡の国のアリス』(原題は"Through the Looking-Glass")だ。そういえばヨーコの友人だった東野芳明は著書『マルセル・デュシャン』の各章冒頭に、『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』からの引用文を掲げていたっけ。そういえばジョン・レノンもルイス・キャロル並のノンセンスな言葉遊びが好きだった。そしてハタと思いいたるのが、ジョン・レノンは銃弾に倒れたということ。この作品は迷宮のような連想ゲームにわれわれを誘う。

2009/12/24(木)(村田真)

横浜美術館開館20周年記念展:束芋「断面の世代」

会期:2009/12/11~2010/03/03

横浜美術館[神奈川県]

デビューから10年の束芋が横浜美術館で5点の新作大型映像インスタレーションを発表。すべてが新作の個展というので期待に胸を膨らませて出かけたが、なんとも運が悪く、入場した途端に、館内で電気系統のトラブルが発生。集合住宅とそこでの個々の生活をモチーフに描いた作品は見ることができたが、他はほとんど見ることが叶わなかった。先に常設展を見ながら待っていたけれど、結局当日は復旧の見通しが立たないと伝えられ「後日再入場を」とチケットを1枚渡されて、とぼとぼと会場を後にすることになった。作品がほとんど見られなかったのはもっとも残念だが、その対応もなんとなく腑に落ちない。美術館でこんなアクシデントに遭遇することもめったにないけれど、こういう場合入場料は返金しないのが当然なのだろうか。気軽に行ける美術館ではないんだけどなあ。こんなことなら25日のイベント開催に合わせて出かけるんだった、なんて恨めしい思いを引き摺った。

2009/12/23(水)(酒井千穂)

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explosion shirt 木村稔 白井美穂 高安真愉美

会期:2009/12/19~2010/01/31

explosion tokyo viewing room[東京都]

西麻布のエクスプロージョン・トウキョウという知らない場所で、知ってるアーティストが展覧会をやってるとの情報が。地図を見ると、何度も行ったことのある場所だった。息子を自転車に乗せてたずねてみると、旧知の小池美香ちゃんがお出迎え。展示はシャツやファブリックや非常口のほか、ボイスとシュナーベルの版画も。なんじゃこりゃあ。クリスマスイブイブなのでタダ飲みタダ食いして帰った。ごちそうさま。

2009/12/23(水)(村田真)

depositors meeting 7

会期:2009/12/21~2009/12/23

art&river bank[東京都]

横浜美術館をあとにして多摩川のart&river bankへ。美術、デザイン、建築、批評、ファッション、展示プラン、プロジェクトなど、さまざまなジャンルで活躍するクリエイターのポートフォリオが会場の棚に設置され、来場者が自由にファイルを閲覧することができる年末恒例のイベントで、今年は7回目になるのだそう。今回、セレクタとして初めて参加させてもらったので楽しみにして訪問した。小さな会場だったが、最終日のせいもあるのか若い人たちで賑わっていた。来場者からの感想が書かれた“ポストイット”が日別に色分けされて壁面に貼られていたり、期間中だけオープンの「bar 川の家」でドリンクやちょっとした料理がオーダーできたり、楽しい工夫も憎い。長居してしまうのも納得で、私ももれなくたくさんのファイルを堪能。良い時間だった。

2009/12/23(水)(酒井千穂)