artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

日常/場違い

会期:2009/12/16~2010/01/23

神奈川県民ホールギャラリー[神奈川県]

木村太陽、佐藤恵子、久保田弘成、藤堂良堂、雨宮庸介、泉太郎の6人展。経歴を見ると、雨宮と泉以外は海外経験が豊富だが、海外経験の有無と作品の良し悪しはあまり関係ないということがよくわかる。つーか、今回の場合あきらかに反比例している。とりわけサイトスペシフィックなビデオ・インスタレーションという離れ業が見事に決まった泉太郎はブッちぎりの金メダルだ。

2009/12/28(月)(村田真)

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栗田咲子 展「数珠の茂み」

会期:2009/12/19~2010/02/13

複眼ギャラリー[大阪府]

新作を含めた6点を出展するという国立国際美術館の「絵画の庭──ゼロ年代日本の地平から」(2010年1月16日~4月4日)も楽しみで待ち遠しいのだが、それに合わせて2月まで個展も開催中の栗田咲子。《めんちきり忘れ》というタイトルの作品にはつぶらな瞳のフクロウ、《日食1》《日食2》には伏し目がちなカンガルー。やっぱり展示作品のほとんどは夢に出てきそうなインパクトだった。モチーフのユーモラスなポーズや表情とそれぞれのタイトルから物語を想像してみるのだけれど、これがまたちょっとだけズレているイメージでなかなか難しい。しかしどの作品も「ここで何か面白いことが起こ(って)るよなあ」という期待感に包まれている気がするから愉快だ。訪れたのは年内の開廊最終日。折しも、栗田さんがギターを演奏するユニット「グビラ」の初ライブ(!)が開催されるというなんとも貴重な日でラッキーだった。

2009/12/26(土)(酒井千穂)

大阪アート能 新作能「水の輪」

会期:2009/12/26

大阪市中央公会堂[大阪府]

「羊飼いプロジェクト」の活動を通じて、これまで数多くの劇場舞台やワークショップを手がけてきた井上信太と、重要無形文化財総合指定保持者で能楽師・山本章弘のコラボレーションによる新作能。いったいどんな舞台になるんだとワクワクしながら見に行った。「水都大阪2009」の最終日(10月12日)にお披露目公演があったのだが、今回は会場を大阪市中央公会堂に移しての再演。物語自体は、汚染された水の浄化という環境問題をテーマにしたベタな内容なのだが、井上さんの舞台美術をはじめ、一般募集の子どもたちが出演するのもこの舞台の見どころのひとつだった。事前に行なわれたワークショップで制作されたという衣装や、頭に鳥のデザインの天冠をつけてぞろぞろと登場した子どもたちがとにかくかわいい! しかも彼女ら(子ども)が扮する「水鳥」のセリフはよく聞いてみると大阪弁だ。思わず笑ってしまう、そんなチャーミングな要素もいっぱいの舞台なのだが、それだけではない。笛や太鼓、地謡などをふくめ他の出演者はすべてプロ中のプロ。じつに、目も耳も釘付けになってしまう音と舞の圧倒的な迫力に、ライブの能のダイナミズムと感動を改めて知る機会だった。そしてなによりも、それまで縁遠かった人々をつないでいく井上信太の自由な発想とそのの力に脱帽。あくまで平面のアーティストとして活動を続けているが、その表現からはじつにさまざまな可能性がうかがえる。

2009/12/26(土)(酒井千穂)

荒木経惟「遺作 空2」

会期:2009/12/19~2010/01/09

Taka Ishii Gallery[東京都]

2009年は期せずして荒木経惟の、しかも「遺作」で終わりそうだ。だがこのタイトルが冗談以外の何者でもないのは、死(タナトス)のイメージが迫り出して来れば来るほど、あたかも天秤が釣り合うように生/性(エロス)が亢進してくるという荒木の作品世界特有のメカニズムが、ここでも完全に貫かれているからだろう。
2009年1月から「日記」のように大量に制作されてきた、モノクローム印画の上にペインティングしたり、コラージュしたりする作品が壁にずらりと並ぶ。その思いつきが指先から溢れ出てくるような融通無碍な表現は、なんとも勝手気ままなものになり、原色のアクリル絵具がぶちまけられ、コラージュには麻生前首相や鳩山首相や押尾学まで登場してくる。見方によってはあの電通時代の『ゼロックス写真帖』(1971)の、ゲリラ的な活動にまでさかのぼろうとしているようでもある。2010年には70歳を迎える「世界のアラキ」が、こんな幼稚な作品(公募展に出品したら落選間違いなし)を出してきていいのだろうかと心配になるほどだが、見ているうちにじわじわとその毒が回り、涙腺が弛みはじめた。愚劣さも崇高さも滑稽さも、すべてひっくるめた2009年の人間たちの営みが、モノクロームの「空」に一瞬の閃光を放ち、闇の彼方に消え失せていく。無惨だが、それでも世界は終わることなく、あとしばらくは続いていくのだろう。そのことを、とりあえずは荒木とともに言祝ぐことにしよう。
なお会場の奥では「アラキネマ」の新作「遺作空2」(音楽・安田芙充央、制作・クエスト)が上演されていた。音楽と画像とが一体化したうねりに観客をぐいぐいと巻き込んでいく。1986年以来、荒木の助手の田宮史郎と安斎の手で上演されてきたスライドショー「アラキネマ」の最大傑作だと思う。

2009/12/25(金)(飯沢耕太郎)

菅原健彦 展

会期:2009/11/15~2009/12/27

練馬区立美術館[東京都]

日本画家、菅原健彦の回顧展。卒業制作の作品から近作まで40点あまりの作品が発表された。モチーフは都市の市街地や廃墟、自然の桜や渓谷などさまざまだが、それらが荒々しいストロークによって描き出されて、きわめて密度の濃い画面を構築している点は共通している。日本画的なモチーフと技法にもとづきながらも、キーファーのような表現主義的な色合いを兼ね備えた画面といってもいい。その躍動感や疾走感が都市や自然の生態を効果的に表わしていた点は評価したいが、本展のために制作された《雲龍図》と《雷龍図》はどういうわけかトーンダウンしていた。密度の薄い画面は、たんに図像を再現しているようにしか見えず、しかもそのイメージ性もきわめて貧弱である。これまでの作品の迫力が圧倒的だっただけに、弱さが際立ってしまっていたようだ。

2009/12/25(金)(福住廉)

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