artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

HEARTBEAT-SASAKI展

会期:2009/11/10~2009/12/18

第一生命南ギャラリー[東京都]

心臓の鼓動を描いたドローイングを見せる展覧会。30点あまりの平面作品をそれぞれテーブルの上に並べて空間インスタレーションとして発表した。赤いインクが描くジグザグ模様は心臓の鼓動のリズムを忠実に反映しており、だからそれらが密集した赤い画面は作者の生の何よりの例証である。けれどもふつう、わたしたちがそうした生の根拠を意識することはほとんどないので、赤い線によって心臓の収縮活動をこれほどまでに実直に示されると、ある種の居心地の悪さを感じざるを得ない。しかしメメント・モリとは、まさにこうした不安の感覚と表裏一体だったことを思えば、これらの作品はまちがいなく現代版のメメント・モリである。

2009/11/30(月)(福住廉)

オラファー・エリアソン あなたが出会うとき

会期:2009/11/21~2010/03/22

金沢21世紀美術館[石川県]

噂に違わず、自分の知覚がぐらぐらと撹乱させられる、素晴らしい展覧会だった。オラファー・エリアソンについて、あらためて紹介する必要もないだろう。1967年生まれ、ベルリンとコペンハーゲンに在住の現代美術作家であり、光や風といった自然界の要素を用いながら、人間の知覚にうったえかける現象を多く作品にしている。本展覧会は、金沢21世紀美術館の開館5周年を記念して開かれた大規模な個展であり、日本での個展は2005/2006年の原美術館についで二回目となる。
もっとも印象的だったのは《あなたが創りだす空気の色地図》だった。部屋に入った瞬間に、虹のなかに飛び込んでしまったかのような感覚に襲われる。赤から青へ、そして黄色へとグラデーショナルに色のついた空間である。三色の蛍光灯による光が、人工的な霧にあてられるという比較的シンプルな仕組みであるが、実際には色のついた空間を歩いているかのような体験である。しかもその空間には一点として同じ色がないかのように、微妙な配合で混じり合い、一歩歩くごとに、異なった色空間が立ち現われる。建築では、石上純也が《レクサスのための会場構成》(2005)において、霧の空間をつくりだした。石上はインテリアを風景化したのに対し、エリアソンは空間そのものに色をつけた。石上の手法は限りなく美術に近いがやはり主題は建築的な事象であり、エリアソンはまさに建築が扱うはずの空間をより深く操作しているけれども、だからこそ建築の手が届かない美術的な事象であると感じた。全部で20ほどある作品は、どれもこのように知覚を揺さぶり、認識のシステムを再考させるような作品であった。
もうひとつ興味深かったのは、それぞれの作品がこの美術館の空間をうまく読み解いた上で設置されたものであったことだ。例えば黒い巨大なボックスの、目線のあたりにのみ水平の隙間が開いていて一条の光が洩れてくる《微光の水平線》は、有料ゾーンと無料ゾーンの間の光庭を利用することで来館者の誰もが展示の存在に気づくと同時に、光庭を黒く覆うことでこの美術館をよく知っている人に大きな異化効果を与えるだろう。作品と美術館の空間の親和性が非常に高い展覧会であった。

展覧会URL:http://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=19&d=460

2009/11/30(月)(松田達)

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軽い手荷物の長い旅

会期:2009/10/31~2009/11/14

大阪成蹊大学芸術学部ギャラリーspaceB[京都府]

DMにはどこかの国の電車の切符の写真が使われていた。切符に小さく記されたほとんどの注意書きの文字が鉛筆で塗りつぶされているのだが、よく見ると“The ticket is valid unlimited traveling”という一部分だけは塗りつぶされておらず、英語が苦手な私でも胸が躍った。タイトルもさることながら、物語性にあふれたDMだ。作家はストックホルム在住の石塚マコ。会場には、外国で暮らす彼女の、旅や日常の出来事にまつわるいくつかの作品がインスタレーションされていた。なかでも面白かったのは屏風のように折られたスクリーンの裏表両面に映し出される《彼女なりの物語》。石塚が出会った国籍も職業もさまざまな5人の友人達がそれぞれの母国語でメガネにまつわる思い出を語る様子が順番に投影されるのだが、それらの話の内容を伝える「翻訳」の字幕は、語り手の身振りや口調から石塚が想像で解釈したもので、それぞれの言語を正しく訳したものではない。その裏側では、同じくメガネに関する個人的なエピソードを石塚が日本語で語る様子が映し出される。こちらも、友人たちが彼女の様子から想像だけで解釈した翻訳。よって、映像自体は同じものが繰り返されるのに、まったく異なる5パターンの字幕(物語)が展開する。山折り、谷折りの薄いスクリーンは映像が微妙に歪んで見えるのだが、他者との関係性やその距離感、そこでの齟齬や理解の限界など、さまざまなコミュニケーションの有様を可笑しくも如実に表わしていた。

2009/11/2(月)(酒井千穂)

森田麻祐子 展

会期:2009/11/23~2009/11/28

Oギャラリーeyes[大阪府]

《アンサンブル》というタイトルの絵画を中心にした新作展。同じ顔の二人の少女のモチーフ、模様や色のパターンがカノンのように並んだり重なったりするイメージがかわいらしい。物語の要素があちこちにうかがえるモチーフがいっぱいで楽しいのだが、全体にどれもかわいらしすぎたのか、今年の春に開催された「放課後の展覧会」で見た作品よりもインパクト自体は弱い気がした。

2009/11/28(金)(酒井千穂)

伊藤雅恵 展

会期:2009/11/14~2009/12/26

鎌倉画廊[神奈川県]

駅まで戻ってタクシーに分乗し、いざ鎌倉画廊へ。銀座にあったころにはよく行ったが、鎌倉に移ってから初めて訪れる。画廊は3フロアに分かれ、小さな美術館並み。伊藤さんは咲き乱れる花のような清新なイメージをペインタリーなタッチで描く若い画家。新作では顔らしきものが出てきて、これからどうなっちゃうのか楽しみでもあり不安でもある。

2009/11/28(土)(村田真)