artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
5+1:ジャンクションボックス
会期:2009/11/29~2009/11/23
vacant[東京都]
多摩美術大学の展覧会設計ゼミが主催する毎年恒例の展覧会。今年は原宿のvacantを会場に、櫻井裕子、志村信裕、田口行弘、チャン・ヨンヘ重工業、山下麻衣+小林直人の5組が参加した。際立っていたのは、田口行弘と山下麻衣+小林直人。田口は色とりどりの長い布を原宿の街中に持ち出し、それらを少しずつ動かしながら撮影した写真をつなぎあわせたストップモーション・アニメーションなどを発表した。その映像を見ていると、布が生物のように動いていく様子がおもしろいのはもちろん、次第に街そのものに衣服を着せようとする無謀な試みのように見えてくる。クリストの「梱包」が20世紀的なスペクタクルだったとすれば、田口の動く布は流動的でひそやかな21世紀的な介入なのかもしれない。じっと眼と眼を見つめあいながらイメージをテレパシーで伝えあう山下麻衣+小林直人のパフォーマンス映像作品は、奇跡的に一致したドローイングがじっさいに展示されていたが、これはイメージの正確な伝播より、むしろそのイメージが定型化されていることのほうが断然おもしろい。イメージは自由な想像力として語られがちだが、じっさいは形や構図などの定型に大きく拘束されており、不自由きわまりないものである。その被拘束性は、風光明媚なアルプスの山々の前でそれを木彫りの彫刻にしてみせた作品にも、テーブルの上に置かれた巨大な飴玉をお互いに延々と舐め続けるパフォーマンス映像作品にも、それぞれ如実に現われていたが、これはあらゆるクリエイターにとっての前提条件なのかもしれない。
2009/11/23(月)(福住廉)
東京コンテンポラリーアートフェア2009
会期:2009/11/21~2009/11/23
東京美術倶楽部[東京都]
現代美術系の画廊もそうでない老舗画廊も、商業画廊も貸し画廊も呉越同舟のアートフェア。といっても、いま述べた違いが出品作品からは判断しづらくなり、みんな似たり寄ったりになってきたような気がする。だから同舟できたんだろうが。こうしてなんでもかんでも現代美術化していくのか、むしろなしくずし的に現代美術が消滅しつつあるというべきかもしれない。
2009/11/23(月)(村田真)
わくわくJOBAN-KASHIWAプロジェクト

会期:2009/11/01~2009/11/29
TSCA、旧シネマサンシャイン[千葉県]
11月4日に急逝した渡辺好明さんのお別れ会が東京藝大取手校地であり、常磐線で帰りに柏に寄る。これは「アートラインかしわ2009」のメインプログラムで、アンテナ、岩井優、遠藤一郎、下西進、のびアニキ、水川千春ら約50組のアーティストが、映画館跡と倉庫を改装したギャラリーの2カ所を中心に作品を繰り広げている。映画館のガラス窓に外の風景をトレースした海野貴彦、壁に小さな山の彫刻を置き、数メートル向こうから望遠鏡でのぞく山下耕平らの作品に注目。せっかく柏まで来たんだからどこでも見られる作品ではなく、その場所ならではの空間特性を生かした作品に高得点をあげたい。取手アートプロジェクトをはじめ守谷、北千住などのアートプロジェクトにも関わり、秘かに「常磐オヤジ」と自嘲していた渡辺さん、見てますか。
2009/11/22(日)(村田真)
オラファー・エリアソン──あなたが出会うとき

会期:2009/11/21~2009/03/22
金沢21世紀美術館[石川県]
金沢21世紀美術館のユニークな展示空間を生かして、おもに光と色の原理を応用したインスタレーションを展開している。たとえば壁に幾何学形の穴をつくって鏡を埋め込み、万華鏡の原理で結晶のような正多面体を現出させたり、ガラス張りの狭い通路いっぱいに大きな扇風機をとりつけで回し、空気の流れを一方通行にしたり、赤から紫までの可視光のスペクトルを300枚の板に塗り分け、一列に並べてグラデーションをつくったり、といったように。ちょっとした工夫で見えないものを美しく顕在化させる手法は見事。昨晩のトークでは「ミステリーよりリアリティを重視する。リアリティはミステリーだが」とか「ここに100人いれば100の見方、考え方がある。『あなたが出会うとき』はそういう意味」と逆説を交えた理屈をこねていたが、理屈は不要、見ればわかる。
2009/11/20(金)(村田真)
オラファー・エリアソン──あなたが出会うとき/Olafur Eliasson Your chance encounter

会期:2009/11/21~2010/03/22
金沢21世紀美術館[石川県]
開催2日前のスペシャル・トークで作家が強調していたのは「パブリック(公共)」という概念。美術作品や美術館はある種の理想を達成するために作り出されたものであり、作品を通して美術館の構造や役割を体感することで、われわれは新たな臨界点へ到達できるのではないか、と。そして、作品をどう受けとめるかは自由だが、観客にも「責任」が発生するとも。これらは決して新奇な発想ではないが、極めて審美的な作品の背景に実は骨太な思想が込められていた事実を知り感心した。肝心の作品だが、濃霧が垂れこめた室内が赤、青、緑の光で満たされた《Your atmospheric colour atlas(あなたが創りだす空気の色地図)》や、光が水面で反射して壁面にオーロラのようなスペクトルが出現する《Your watercolour horizon(水が彩るあなたの水平線)》など見応えのあるものばかり。原美術館での個展(2005~06年)で得た感動よ再び、という筆者の期待は、予想を遥かに上回るレベルで実現された。
2009/11/20(小吹隆文)


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